第16話 命を語る資格
青柳少尉も道連れ……ベルーナの指摘に、御堂はハッとする。あの時、御堂は『もしも』を全く考えていなかった。
「いいえ、道連れではありませんね。Sユニットは、Cユニットの生命を最優先する訓練を受けています。『もしも』の際には、青柳少尉は我が身を犠牲にして、貴女だけが助っていたでしょう」
重甲機兵の操縦機構は、Sユニットのコマンドが優先される。それはSユニットが「Cユニットの生命を最優先」する訓練を受けているからである。
「同僚の命を盾にして守られている貴女に、人の命を語る資格はありません!」
「……」
「本日の戦いの報告は終わりました」
ベルーナは椅子から立ち上がり、御堂を見下ろす。
「わたしは、夜のうちに赤龍の洞の駐屯地に戻らなければなりません。これ以上、無駄話をしている暇はないんです。お帰り下さい」
上目使いでベルーナを見上げる御堂は、唇の端を歪める。何か言い返したくて、無い知恵を搾っているのだ。その隣で、青柳が静かに席を立つ。
「ありがとうございました」
青柳は儀礼的な敬礼をして、御堂の肩に手を置く。そして、指揮官室を退室するよう促した。
帝国西方域の遠江州を陥落させた連邦勢力は、嵯峨州に迫っている。それを迎え撃つ戦いが、赤龍の洞で行われている。
『帝国は、嵯峨州を防衛する意思がある』
第4戦団のA級0061機が参戦するのは、それを政治的に表明することになる。案山子として立っているだけで、意味はある。
だが。
近衛軍のA級機体が、B級機体に撃破されたら……軍の士気の低下のみならず、外殻都市・嵯峨州からの信頼も失う。
御堂は、眼前での戦いしか見ていなかった。
一方の青柳は、御堂を「眼前の戦いに集中させる」ために諸々の事情を一人で処理し、対策を準備をしていた。
ラインゴルドから御堂と青柳に与えられた部屋は、S33中継基地ターミナルビルの上層にあるホテルの一室だった。二つの個室と共有リビングのある比較的豪華な部屋である。
青柳は、共有リビングでタブレットを操作している。
ベルーナから受け取った報告書で、想定される敵戦力に補正を加える作業である。また、第4戦団本隊への簡易的な報告も済ませたいた。
この手の作業を青柳に丸投げしていたことを、御堂は少し反省する。
「夕食、ルームサービスでいい?」
「あ……はい。それで、いいですぅ」
御堂の声に、慌てて返事をする青柳。時々、語尾が伸びる癖がある。
常に何かを口に入れている青柳だが、この手の仕事中には水すら口にしない。傍目から見ても凄い集中力なのだ。




