第14話 逆撫で?
嵯峨州の繁華街で気晴らしのショッピングをした御堂と青柳は、その夜に指揮官室に呼び出される。
指揮官室にはカイザーはおらずに、若い女性兵がいるだけだった
「はじめまして。この部隊の指揮官機でSユニットを務めているベルーナと申します」
「はじめまして。青柳礼子です」
先日、A級0061機の整備工廠ですれ違った女性だと、青柳は憶えていた。
「御堂咲耶、階級は……少尉です。あの……よかったらフルネームとか教えて貰える?」
ベルーナの見た目は、御堂よりも少し若い。更に,軍人らしく背筋を伸ばした姿勢にも「少し無理をしている」緊張感が見て取れた。御堂としては、同年代の女性との距離を詰めようと話題をふったつもりだった。
しかし、ベルーナの方は顔を顰める。
「わたしの識別名『ベルーナ』は、作戦行動におけるコードネームです。ご配慮下さい」
戦いを生業にする傭兵は、他人の恨みを受けることもある。本来の素性は明らかにしないようにしているのだ。
(……そうだった)
指揮官である『カイザー』の名称も、コードネームである。言われて、御堂はそれを思い出す。
ベルーナは、応接テーブルにホットミルクとコーヒーを置いて、二人の正面に座った。
「昼間に行われた戦闘の記録を、お渡ししておきます」
記録は、紙に印刷された報告書である。それを受け取った青柳は、自分が読み終えてから御堂に渡す。
「お手数をおかけして、申し訳わりません」
青柳が、ベルーナに頭を下げる。本来であれば、御堂と青柳がA級0061機で参戦すべき戦闘である。御堂の間抜け行為により、機体の左上腕部を損傷した。
その修理のために、カイザーが代わってくれたのだ。
「いえ。機体の戦闘記録も、カイザー機が基地に戻った時に御堂機にコピーして下さい」
「はい。わかりました」
青柳の承諾の返事を受けて、ベルーナは小さく息を吐く。報告任務を完了させた、との安堵である。ベルーナは、席を立とうとした。
この報告のために、赤龍の洞の駐屯部隊から軍用ヘリで戻ってきたのだ。これから、また赤龍の洞へ向かわなければならない。少し、気持ちが急いている。
「あのう……遠江州防衛隊のB級ジークフリードと交戦して、3機を撃破って書いてありますよね?」
敵軍の支配下となった遠江州防衛隊のB級ジークフリードとラインゴルドの重甲機兵が交戦し……3機が撃破され、そのパイロットも全員死亡している。
「遠江州って、帝国の外殻都市じゃないですか」
予想していた抗議の声が、赤龍の洞へ還りたいベルーナの神経を逆撫でる。




