女の『好き』は大抵責任問題という名の弾頭が詰まってるから気をつけろ
ルミナは俯いて黙り込んでしまい、ジノは困惑する。
(なんだか息が詰まるな……)
「リネットも姫さんも同陣営なのだから、普通に勝てば良くないか?」
ジノは窓を少し開けて換気をする。
外の空気は冷えていて、頬に当たる風は冷たい。
「……そういうことじゃないんです」
ボソッとルミナが呟いた。
「……きなんです」
あまりに声が小さくて、聞き取りにくかった。
「ごめん、声が小さくて聞こえねぇ」
ジノはルミナに少し近寄り、顔を覗き込んだ。
「もう一度言ってくんね?」
ルミナは真っ赤になって横を向き、か細い声ながらもハッキリ言った。
「好きなんです!」
「えっ?」
(……ゲームに勝つことが好きなのか?)
首を傾げていると、ルミナは痺れを切らしてジノに歩み寄る。
切なげな眼差しでジノを見上げた。
「ジノ様のことが好きなんです」
「はぁ?」
ジノは自分の手で口を覆った。
思わず口走ったが、「はぁ?」とか告白されて言う台詞じゃない。
(姫さんが俺を好き? いや……)
姫さんは国が勇者支援に力を入れているから、王族を代表して勇者を立てているのだと思っていた。
決して魅了はかけていない。
初めて会った時に記憶を操作した程度。
「気持ちは嬉しいが……」
(俺は何を言ってるんだ?)
「う、嬉しい? 本当ですか?」
ルミナは両手を胸の前で合わせ、目を輝かせ、前のめりになった。
(いや、近い近い)
「あの、私達もうキスしたんですよね?」
さらにルミナがぐいと近づく。ジノは反射的に思わず下がる。
「は? あっ、えっと、あれはその……」
「あくまで救命措置……」
「私はキスしたこと覚えてないんです」
(そりゃ、意識なかったし……)
「私は初めてだったんです」
「は、はぁ……」
(俺にどうしろと……?)
「責任取って下さい」
「は?」
(え、ええ〜〜〜〜)
壁際に追い込まれたジノは、もう逃げ場がない。
覚悟を決めて、ルミナの相手をするしかないのか。
どのみち選抜試験で勝てば、ジークの企みが上手くいき、さすればルミナと結婚する話が本格化するのだろう。
魔物ではなく、普通の人間として生きると決めていたが、誰かと生涯を共にする気は毛頭なかった。
売り飛ばした聖剣を持って、目の前に現れた王女。
これが運命ならば、逃げられる筈もなく──。
ルミナの両肩に手を置いた。
小さな肩が震え、彼女は瞼を閉じた。
(これは、いくしかないのか……)
意を決して、彼女の唇に自分のそれを重ねようとした瞬間──ドサっと顔に何かがぶつかった。
「!!」
顔に何かが張り付いている。
右手で掴んで引き剥がしてみると、なんといつぞやぶん投げて消えたネネだった。
「お前、何処から現れた!?」
「やっと、やっと見つけたんだから〜〜!」
小さなコウモリは泣き喚いた。
「あんたの馬鹿力で放り投げられて、ここまで戻って来るのにどれだけかかったと思うの〜?」
あまりの力に水中から離脱し、遥か上空まで飛ばされた上、そこから凍える思いで、ようやっと飛んで帰って来たのだ。
「ネネ! 無事だったのね?」
「死ぬかと思ったけどね……」
そしてネネは二人の間に何かを察した。
「あれ、私……ひょっとして邪魔しちゃった?」
「あっ、いや、別にそんなんじゃない」
(何となく逃れられた、セーフ!!)
ジノは即座に否定したが、ルミナは違った。
(もう少しで、いい雰囲気だったのに……)
「それで、今ここで何してんの?」
「人狼ゲーム」
ジノはネネに経緯を簡単に説明した。
「ていうか、お前主催者側じゃないのか?」
「私も全部把握してる訳じゃないわ。塔主に必要な、要素を全て兼ね備えてるか試すって聞いたくらいかなぁ?」
「要素って?」
ネネは少し考えた後、話し始めた。
「まあ、試験の内容とは関係ないし、別にいいか」
「まず塔主に必要なのは、心技体。全て必要よ」
「別にそれ普通だな」
「まぁ、高い魔力のコントロールには高い知性が必要だからね。この人狼ゲームはその知性を試してるんでしょうね」
「味方が無能だと終わるんだが」
シモン以外の味方が頼りないことをジノはぼやく。
「塔主たるもの、使えない人すら使い倒すくらいの気概がないとダメなのよ」
「まぁ、ジークは人望がなさすぎて、全部一人でやっちゃうけどね……」
(そりゃ、あれで人望があるようにはとても見えん……)
ゴーーーン!
「おっと、そろそろ消灯だな」
鐘の音を聞きながら、ジノは呟いた。
「明日が、勝負の分かれ目だ」
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