聖剣を売った金で食う飯はうまいが、その後のツケは大概高くつく
本作は、一般人として静かに暮らしたかった男が、なぜか色々な厄介ごとに巻き込まれていく話です。
本人はずっと普通のつもりでいます。
「おい、この村に王女様が来るってよ」
それは彼にとっては聞き捨てならない話だった。
ここは名もなき辺境の村。
地図にも載らない小さな村で、地味に暮らしている自分にとって、王女の来訪は脅威でしかない。
「聖剣の主人をお探しだそうで」
「あー、勇者様のことね」
粉屋の主人と女房は、仕事そっちのけで話に夢中だ。
青年は横目でそれを流し、さっと粉袋を担いで小屋を出た。
──どうする。逃げるか?
持ち主を失った聖剣は、どういう訳か今は王女の手元にあるらしい。
とうとうこんな辺境の村にまで──。
「……もう少し、どうにかするべきだったか」
聖剣は神が授けた聖物の一つ。
──魔王を滅ぼすことができる、唯一の武器。
青年はうーんと唸った。
母が亡くなった年の春に、近郊都市の裏通りの古物商に捨て値で『ソレ』を売り払ったのだ。
誰も抜くことのできない非実用的な剣は、一見するとただの装飾の凝った宝飾品にしか見えない。
「甘かったな……」
戻ってくる運命なのか、持ち主の手元に。
こんなことなら破壊してしまえばよかった。
いや、そもそもあれは破壊できるのだろうか?
「ジノ!!」
振り返ると、見慣れた幼馴染が立っていた。
粉屋の一人娘、ジョアンだ。
「さっきから上の空じゃない!」
呼ばれていることにすら気づかなかった。
思ったより、自分は動転していたようだ。
「何が甘かったの?」
「何でもない」
ぶっきらぼうに言い捨てて、荷車を押し始める。
「王女様の話、村中その話題で持ちきりよ」
「へぇ」
こちらが聞きもしないのに、ベラベラと話し続けた。
王女が勇者のパーティーに加わるため、自ら回復魔法を会得したことなど──。
「……こんな田舎に勇者なんているわけないだろ」
ボソッと呟くと、ジョアンは念を押してきた。
「それ、配達が終わったら忘れず広場に行ってね」
「えっ?」
「村人は夕刻に広場へ全員集合なのよ」
「……」
──冗談じゃない。
配達の間も、この事態をどう上手く回避するかを考え続けていた。
「とりあえず腹が痛かった、でいいか……」
言い訳が決まり、どうにか配達の仕事を終える。
それと同時に、多くの人々の気配が広場へ集まっていくのを感じた。
──その中に、異質な気配が混じっている。
ジノは広場とは逆の方向へ駆け出した。
村の外れ、森の奥。視界に飛び込んできたのは大量のゴブリンの群れだった。
「……マジかよ」
躊躇うことなく、落ちていた木の棒を拾い上げる。そのまま、ゴブリンの群れへと歩み寄った。
一斉に襲いかかってくるゴブリンたちを、ジノは片っ端から叩き伏せていく。
一発一匹。確実に、淡々と。
木の棒が振られるたびに血飛沫が上がり、ゴブリンが地に沈む。
その動きは、とても普通の人間のものとは思えなかった。
「ゴブ……!?」
恐れをなしたゴブリンたちが逃げ始める。
だが遅すぎた。
逃がすつもりは、ジノには毛頭なかった。
ゴブリンの死体の山の上に立ち、ジノは一息ついて呟いた。
「服が汚れたじゃねぇか……」
集合の時間が迫っていたが、彼はそのまま森の奥へと歩を進めた。
読んでいただきありがとうございます。
本人は普通に暮らしているつもりですが、
だいたい普通にいきません。
次回もよろしくお願いします。




