46、回避、接歩
ケルン一等兵の耳に届いたのは風を切り裂く音、しかしその音は重低音で、その音を響かせる木刀に当たればただでは済まないと本能が発するが、足を動かそうとする頃には腹部に鈍い痛みが走った。
「かは!?」
「まだこの速度は速すぎたか」
「げほ、かは!」
ケルン一等兵が苦しむ中、ナナサカがケルン一等兵を見下ろす。
「痛い、痛いよ……」
「なあ、リダ竹刀とか作れなかったのか? 竹刀なら空気抵抗とか色んな面でケルン一等兵の痛みを軽減できたと思うんだが」
「ないんだよ、竹刀作るための竹が、その木刀も本来は銃のストック、銃の反動を抑えるパーツから取ってきたものだからな、まあこのままだとケルン一等兵がキツいだろうから……」
リダはそう言うと銃を取り出し、ケルン一等兵に向ける。
「……一応確認のために聞くけど、その銃は味方を撃つ想定の銃?」
「安心しろ、お前の言う通り味方に撃つことを想定した支援銃だ、殺傷能力はない」
パン!と弾丸が放たれる、するとケルン一等兵の背中に緑色に光るランプが付着する、それと同時にケルン一等兵の苦しみがどんどん無くなる。
「これは回復兵器……?」
「ああ、短時間しか発揮しないが、急速に回復する回復兵器だ」
「へー、回復兵器とかあるのか」
立ち上がるはケルン一等兵をみて、ナナサカが回復兵器の存在を認識する。
「一応戦場歩兵の兵器にも回復兵器はあるけど、回復や能力上昇の兵器は戦場では自動リロード出来ない兵器だから、使い勝手は最悪なんだよな、使い切ったらロスト前提で装備箱で装備兵器変えるか、ミッションクリアするまで保持して軍の本拠地に持ち帰ってリロードするかの2択迫られるし……後かなりレア度高いからロストしたら次に手にはいるのか分からない兵器だ、基本的に兵器取引所では結構な高値がつく」
「つまり、軍の本拠地にある訓練場なら弾数無限?」
「まあ……そういう事だ、ケルン一等兵の心が折れるまでは回復してやる」
リダの言葉にケルン一等兵はどういう意味か理解して、顔を青ざめる。
つまりどれだけボコボコになろうが、接歩を体得するか、ケルン一等兵の心が折れるかまではナナサカとの修行は終わらない。
「ケルン……心が折れたのなら、無理だと思うのなら今すぐ軍をやめて少しでも巨大生物が少ない場所に逃げな」
ナナサカは敢えて冷たく言い放つ、ここで折れるなら接歩どころか、剣坂流を体得なんて夢のまた夢、親から嫌ほど叩き込まれた剣坂流だからこそ、心が折れたり、やる気や覚悟無き者が覚えられる流派じゃないのはナナサカが一番よく知っていた。
「……やります、今ここで逃げたら、最終的に巨大生物に襲われて死ぬと思うので!」
ケルン一等兵は木刀を構える、その目はまだ折れてはいない、その目は鋭く何が何でも食らいつくという意思を発する。
「なら後必要なのは、痛みに耐える不屈と、足捌きと、俺の攻撃を見切る目だ、逃げたら死ぬと思うなら死ぬ気で体得しろ!」
ナナサカは期待した、その鋭い目に、彼ならば剣坂流の全部とは行かなくても技のいくつかは体得してくれるんじゃないかと、故にナナサカは手加減のタガが外れる。
「剣坂流……」
「お、おい流石に技は不味い!」
パン!と再び銃声が鳴るが、ナナサカは止まらない。
「木断ち!」
ナナサカの横一閃がケルン一等兵に当たり、ケルン一等兵は大きく吹き飛び地面に転がる。
しかしナナサカは手応えで、リダは距離を取って見ていたから気付く、ナナサカの木断ちは殆どケルン一等兵にダメージを与えてないことを、むしろ地面に転がった事によるダメージのほうが大きそうだ。
「けほ! はあはあ…」
「おい、リダ……今のは」
「未熟な接歩で半分位回避出来てて、半分当たる所をお前の言う俺の得意技、坂滑で補った感じだね、まあ坂滑も未完成だけど」
ナナサカがリダにギラギラと目線を送ると、リダが答える。
「お前接歩しながら防御、坂滑した事ないよな?」
「ないよ、そもそも接歩なんて乱用する疲れるスタンスなんて取りたくない」
「俺は基本的に接歩で回避するし……新たなスタンスかもしれない、良しケルン一等兵! 今の感覚を忘れない為にもう一度やるぞ!」
ケルン一等兵にそう言うとナナサカはケルン一等兵に向けて突進する!
「も、もう一度ですか!? ひゃあ!」
こうしてケルン一等兵はナナサカの攻撃に回避を強要されるのだった。




