ルーク①
それは木々に芽生える葉の色が変わる季節のことだった。
冒険者である俺は王国から帝国へ向かう商人の護衛を請け負った。
護衛対象である小太りした商人がふがふがとイビキをかいて眠りこけている間、早く帝国に到着しないかと願いながら周囲を警戒する。
約一週間、そんな日々を繰り返していた。
そしてようやく帝国にたどり着き、依頼主を家まで送り届けた俺は暇な時間を過ごすこととなった。
観光でもするか、そう思った俺は王国では見られない建物や、帝城、食べ物などを見て回った。
穏やかな時間に気分を良くしていると、ふと視界の端にぼさぼさの髪の毛と、小汚い服装をした少年がうつった。辺りをきょろきょろと気にして挙動不審だ。
怪しいな、そう思って横目でその少年を監視することにした。
彼がこそこそと移動すると俺も観光客を装って移動する。どちらが怪しい奴だと自分につっこむ。
しばらくしてその少年は予想通りの行動に出た。
そう、窃盗だった。
まだ幼さを残した少女の片手にあったバッグを無理やり奪い取って逃げ出したのだ。
少女は何が起こったのかわからずに「わっ」と声を上げるだけでその場に立ち尽くしていた。
やがて盗まれたことに気付いた少女はただ一言「油断したわ……」、そう言うだけだった。
どうして追いかけないのか疑問を抱いた俺だったが、代わりに取り返してやろうと決意した俺は少女に「そこで待っていてください、すぐに取り返してきますから」と言って先ほど見た少年を追いかけた。
顔はしっかりと覚えている。なれない帝都だが、この程度のことで混乱する自分ではない。
少年の痕跡を辿り、やがてたどり着く。
彼はたいそう焦った様子だった。それはそうだろう、窃盗は立派な犯罪。大人だろうと子供だろうと憲兵に差し出されたら罰を受けることになるのだから。
「く、くるな!くるな!俺が暴れたら、お前はぼっこぼこだ!お、俺は最強なんだぞ!」
壁に背をつけながら少年ははったりをかました。俺はそれを残念そうなものを見る目で眺めた。
「何となく、盗まないといけない理由は察するがそれでも犯罪はだめだ。その盗んだものを持ち主に帰しにいくぞ」
「はーなーせー!卑怯だぞ!放せよー!」
そう言って俺は暴れる少年を肩に担いで先ほど盗みの現場があった場所へと向かう。
細道から大きな道へと出てきた俺は先ほど見た少女の姿を探す。
すぐに見つけ件の少女の元へと向かった。
「そこの黒髪の少女」
俺がそう声をかけると、彼女はこちらのほうに振り返った。
艶やかな髪がなびいて、美しい容姿に一瞬見惚れてしまう。
しかしそこで瞑ったままであった瞳を見てすぐに正気に戻る。そして、ああ、この子は目が見えないのかとひとりでに納得する。
「さっきここで待っていろって言った方かしら?」
「ええ、そうですよ。先ほど盗まれたバッグと、その犯人を連れてきました」
出来るだけ柔らかな言葉を使う。怖がらせないようにと思えば自然とそのようになっていた。
「あら、それは助かったわ。私、目が見えないからバッグを取り返そうにも困っていたの」
「あなたの助けになれてうれしいですよ」
「ほんとにありがとう。それで、先程から叫んでいるのが盗人さんなのかしら。随分とかわいらしい声をしてるみたいだけど」
「ええ、そうですよ。すぐに憲兵に突き出しますので安心してください」
口元に布を巻いて叫べないようにしている彼からは絶え間ないうめき声だけが聞こえてくる。そしてバタバタと何とか逃げ出そうと未だに暴れ続ける。
気絶させるべきか、ちょうどその考えがよぎった時だった。
「いいわよ、そんなことしなくて。金品なんてそのバッグには入ってないもの。それにまだ子供でしょう?可哀そうだわ」
俺は取り返したバッグの中身をこっそりと見る。その中には網掛けのセーターと、カラフルな毛糸が収納してあった。確かに貴重品など一つもなかった。
そして今抱えている少年を見る。10歳にも満たないくらいだろうか。口周りは産毛も生えていないほどのひよっこだった。
「しかし、犯罪は犯罪。しっかりと裁かれるべきでは?これから何度も繰り返しますよ。こういう子供は」
「いいの、盗まれた私が悪いのよ。きっとこの子にも盗まないといけない事情があったはずよ。盗まないと生きていけない子もこの世にはいるのだから」
彼女は穢れのない心の持ち主だった。いや、俺から言わせれば頭お花畑というべきだろうか。だけど俺はそう言う赦すことができる人柄は嫌いではない。
「あなたがそう言うのなら、この子を元の場所に戻しますよ」
「ええ、そうしてあげてほしいわ、あ、でもちょっと待って」
そう言って彼女はおもむろにハンカチを取り出した。その中から10枚の銀貨が出てくる。それを少年の目の前に差し出した。
「少ないけどこのお金で、困っている人を助けてあげて。きっといいことがあるから」
少年はほっとしたようねな、しかし困惑の表情でそれを受け取った。俺が地面におろして自由にすると、その場からすぐに消え去った。お礼も何も言わずに。
はあ、と思いため息をつく。
「あなたは優しいですね」
俺はそう言ったものの、ただ無責任だなと感じた。しかし
「いえ、私はひどい女よ」
彼女は自分の取った行動にきちんと自覚があったらしい。
「そんなことは……」
否定しようにも次の言葉は出てこなかった




