男前
筆が進まない。今回も難産でしたね。
「アヤさん、製作するモノにリクエストはありますか?なるべくご希望に沿えるように努力はします。」
「あ、そうですね。私もなんかあれば聞きますよ!」
天夏ちゃんとラブちゃんに、ボス犬と赤クマのアイテムを加工してなにか作ってもらうことになったけど、何を作ってもらうかは全然考えてなかったね。正直おまかせでも問題はないけど…
「じゃあ、せっかくだしリクエストしてみようかな!」
「どんとこいですよ!」
「ええ、どんとこいです。」
あら珍しい。天夏ちゃんがそんな事を言うとはね。それだけ興奮してるってことなのかな。表には出さないようにしてるみたいだけど。
さて、リクエストどうしようかな。とりあえず……
「まずは、天夏ちゃんになんだけど、コートやマントみたいな上着系が欲しいかな。毛皮で。」
「毛皮の上着ですね。他には何もなかったですか?」
「そうだね。服系は特にはなにも…あ、あるね。全然関係ないんだけど、わたしの着てる服が破けてるから、どっか服売ってるところ知らないかな?」
思い出したときに聞いとかないと忘れるからね。
「それであれば、うちのクランメンバーが作った服を、この店で販売しています。後で見ていかれますか?」
「ぜひ!」
「では、その準備もしておきますね。」
「ありがとー!」
うーむ、天夏ちゃんホントにいい子だね。気が利くなあ。よし!服の問題も解決したから、次にいこう!
「次は、ラブちゃんへのリクエストだね!」
「任せてください!もう今ならどんなステッキでも作れますよ!」
「おおー、頼もしい!じゃあ、杖の長さをちょっと長めに取ることってできるかな?2メーターくらいで」
「それは大丈夫ですけど、なんに使うんですか?」
「魔法使うだけじゃなくて、杖で殴ったりもできたらなーって」
「あー、それですか。うーん、大口叩いといてあれなんですけど、現状ちょっと厳しいんですよね…」
「そっかー」
ありゃ残念。それができたら結構楽だったんだけどな。
「前に一回試したことあるんですけど、魔術用の杖と打撃用の杖って、カテゴリ同じなくせに別種の武器って言ってもいいくらいに性質違うんですよ。あちらを立てればこちらが立たぬで、攻撃力と魔法攻撃力がシーソーゲームでしたね。なんとかバランスさせても、どうにもかけた素材と費用の割に能力が中途半端になるんですよ。それなら、それぞれに特化させた杖を1種類ずつ持ったほうが早いって話になりまして。」
「大変だったんだね。」
「そーなんですよ!せっかく人が時間かけてバランスさせた傑作を、一言「微妙」って言われたときは、ちょっと本気で依頼人殺そうかと思いました。てゆーか、自分で想像してただけの結果が得られなかったからって、わたしの手抜きを疑うってどういう神経してたらそうなるんですかアレ。っはー!今思い出しても腹立つ!」
だいぶ嫌な思いをしたんだね。イライラがものすごーく伝わってくるよ。こういうときはね、ウンウン言いながら、相手の話をただ聞いてるのが一番だね。これ以上、藪をつついて蛇を出すのは良くないね。
「はいはい、その話はもう聞き飽きたから。アヤさんに愚痴ってどうするの。」
「いやまあ、私も頭ではわかってるんですけどね?ただそれで割り切れるかは別の話じゃないですか。」
「今日会ったばかりの人に愚痴るなって言ってるの!まったく…」
うーむ、天夏ちゃんは大人だなあ。まあ、わたしほどではないけどね!
「うーん、ラブちゃんは、魔法用と格闘用の杖はどっちが得意?」
「魔法用ですね。」
「じゃあ、今回はとびっきりの魔法用をお願いしようかな!」
「りょーかいです!もう、ドンと大船に乗ったつもりでいていいですよ!」
「おおー!かっこいい!」
「いやー、それほどでも〜。」
「…ラブ。気合が入ってるのはいいんだけど、魔核以外の材料はちゃんとあるの?今回は個人宛の依頼だからね?」
「もちろんありますよ。材料の管理くらいちゃんとしてるに決まってるじゃないですか。」
「そう、ならいいけど。てっきり、手持ちの材料が切れたからクランの金属をちょろまかそうとしたものだと思っていたけど。」
「あ。ああっ!忘れてた……」
「やっぱりね。」
どうやら、ラブちゃんのほうが材料不足のようだね。うーむ、そうなると、今回は杖の作成は見送りかな?
「い、いえ!一度言ったからには、アヤさんのステッキは必ず作りますよ!」
「どうやって?」
「このスターライトステッキ試作型をバラせば、杖に使用する金属や魔石が手に入ります!…ぐうぅぅ…。」
「そう。なら、その金属材料の出どころについては、これ以上はなにも言わないことにしてあげる。」
「マジですか!」
「やましいところはないんでしょ?まあ、何故か減った分のクラン共用在庫補充の際はこき使うけどね。…次はないから。」
「へへーっ!なんのことやらさっぱりですが承知しましたァー!」
よくわかんないけど、わたしの杖は作ってもらえるみたいだね。やったー!!あ、でもそれなら…
「ねえねえ、他の素材で必要なものはないの?出せるものは出すよ」
「おおっ!いいんですか?いくつかほしいのありますよ!」
「わたしから依頼してるからね!もちろん出すよ!」
「なら遠慮なく!【狼長の魔石】があれば、いくつか欲しいです!」
「おっけー!えーっと、5個あるね。いくついるかな?」
「5個?えっ多…ハッ!できれば全部欲しいですねー。余ったら買取で制作費から差し引きでどうですか?」
「?それでいいよー」
「アヤさん、よくわかってないのに雰囲気で許可を出すのはどうかと思いますよ。」
「だいじょーぶ!なんとなくだけど!」
「…アヤさんがそれでいいのであれば止めませんが。では、私の方もリクエストをいいですか?」
「もちろん!」
「ありがとうございます。【狼の毛皮】をいくつか分けていただけるといいのですが」
「【狼の毛皮】だね。…50枚くらいあるね」
「ごじっ…え?」
あ、天夏ちゃんがバグった。珍しいね。まあ、わたしもびっくりしたからね!クロちゃん頑張ったんだなあ。
「クラマス?おーい」
「…ハッ!アヤさん、一体どれくらい昨晩ウルフを狩ったんですか?」
「流石に気になりますよね。」
「えーっと…150くらいかな?うん、ボス犬除いて152だね」
「想像の倍以上のキルスコアですね。あれ?でも…ラブ、ウルフ素材のドロップ比はどれくらいか覚えてる?」
「えー、たしか基本泥率50%の毛皮、爪、牙で5:4:3くらいですね…あ!」
「そう、泥率が高すぎる。アイテムの比がそのままと仮定すると、約80%ね。」
「クロちゃんの【幸運EX】の効果ですかね?」
「おそらくね。それと、素のLUKが高いことも作用してるはず。」
正確な数が、【狼の毛皮】が49枚で、【狼の爪】が41個、【狼の牙】が31個だね。おおー、ホントにラブちゃんが言った比のとおりになってる。
「この事サブマスが聞いたら、クロちゃんみたいな従魔めっちゃ欲しがるんじゃないですか?内緒にしません?」
「できると思う?」
「無理…ですよね。うわー、超めんどくさそう。」
「そんな事言い出さないように、うちの幸運持ちが解体頑張ってくれることを祈るのみね。」
「ステもスキルも負けてるのにですか。」
「しょうがないでしょ。他に頼れるものもないし。まあ、アイツが騒ぎ出したら無理矢理にでも黙らせるけど。」
「頼りにしてまーす。」
???何を話しているのかさっぱりわかんないね。天夏ちゃんに黙らせられる人がかわいそうってことくらいかな。騒がなきゃいいのにね。
「ねえねえ、結局、毛皮はどれくらい必要なのかな?」
「あ、すみません。関係ない話をしてしまって。毛皮は、そうですね…3枚ほどいいですか?」
「もちろんいいよー。超余ってるしね」
「羨ましいですねー。やっぱりギルドで売るんですか?」
「あ、ギルドで売れるんだね。じゃあそうしようかな」
ウルフ討伐の依頼達成を報告しにいかないといけないしね。ギルドで売れるなら丁度いいね。
「…アヤさん、もしよろしければ、ウルフの素材を私たちのクランに売っていただけませんか?もちろん、買取価格は勉強させていただきますので。」
「わたしは別にいいよ。…あ、ウルフの素材を全部売っても、討伐の依頼って大丈夫なのかな?証明できるものがないから駄目ですってならない?」
「その点は大丈夫です。冒険者カードにアヤさんが倒したモンスターの情報が入っているそうで、素材は必要ありません。」
なるほど〜。良く出来てるね。たしかに、素材をモンスターが落とさないこともあるみたいだし、そうしないと何を倒したかなんてわかんないよね。納得。
「それなら、特に断る理由もないし、是非お願いしたいかな!」
「ありがとうございます。それでは、後ほどそちらも計算して見積もりをお出ししますね。」
「ちょちょちょーっと待ってくださいクラマス。大丈夫ですか!?」
「どうしたのいきなり?」
「いやいやいや、いきなりじゃないですよ。ちょっとこっちへ。」
「はいはい。アヤさん、すみません、少々外します。」
あらら、さっきとは逆で、天夏ちゃんがラブちゃんに引っ張られていったね。何か問題でもあったのかな?
〜屋台の裏にて〜
「このへんでいいでしょ。どうしたの?」
「クラマス流石にヤバいですって。確かにウルフ素材は喉から手が出るほど欲しいですけど、さっきそんなお金ないってクラマスが自分で言ったんじゃないですか。」
「ああ、何だそのことね。大丈夫に決まってるでしょ。あの魔核まで入れると手が届かないけど、通常のウルフ素材を120個くらい買うだけのお金はなんとかあるから。」
「いやいや、ウルフ素材だけならまだしも、情報もかなり買ってますよね?もしかしたら、まだでかい情報が眠ってるかもしれないんですから、マジでクランの金庫が空になりますよ。」
「そうね。」
「そうねって、え?本気ですか?」
「本気。」
「…コレって、他の皆さんには…」
「大丈夫。戦闘班にはさっきチャットで話は通したから。タスクからその場にいた面子にも確認はとってるって。」
「いつの間にサブマスまで…え?じゃあマジでクランの総意ってことで行くんですか?」
「ええ、信じなさい。後悔はさせないから。」
「…りょーかいです。まあ、今までもそうでしたしね。」
「ありがと。さて、じゃあ戻らないとね。」
「はーい。」
2人が屋台の奥に行って数分後、クロちゃんをなでてたら戻ってきたね。クロちゃんが寝ぼけてわたしの指をガジガジ噛んで痛かったけど、かわいかったから無罪で!うへへへ、痛い。
「お待たせしてしまいすみません。では、ウルフの素材は当クランにて買い取りということで問題ないですか?」
「よろしくおねがいします!」
「ありがとうございます。では、後ほど情報代などとまとめて見積もりと明細を出しますね。」
「ありがとー」
うーむ。至れり尽くせりだね。これはこっちも出せるだけの情報は出さないとね!…どこまで話したっけ?
「アヤさん、では、先程の森での話の続きをお話いただいてもいいですか?」
「ボス犬倒したところまで話したんだっけ?」
「そこまでですね。」
「おっけー。でも、その後はもう特になにもないね。ボス犬と赤クマの塚を簡単に作って、それであとは戦ってないからね。」
「あれ?その2体との戦闘が始まった時点では、まだ他のウルフが残ってませんでしたっけ?」
「ううっ。ラブちゃんよく覚えてたね。えーっとね…その子達にはね……逃げられちゃったんだよね。」
「あらら。」
「アヤさんがマナ・ガルムとフレイムーン・ベア相手に戦っている間に、ということですか?」
「うん。たぶんボス犬が逃してたんだろうね。してやられてしまったね。」
「ふーむ……」
「ああ…クラマスが長考の姿勢に……」
わたしの話を聞いて、天夏ちゃんが何やら考え込んでしまったね。正直あまり深く考えられても、わたしのダメダメさが浮き彫りになるだけだから、ちょっと恥ずかしいね。あ、そうだ今のうちに、
「ねえねえラブちゃん。さっきから言ってる「クラマス」と「サブマス」って何?」
「へ?ああ、知らなかったんですね。「クラマス」はクランマスターの略で、「サブマス」はサブマスターの略です。まあ、つまりクランのトップとNo.2のことですね。」
「なるほど〜。天夏ちゃんがトップなんだね。自分で立ち上げたって言ってたし」
「ですです。」
「じゃあ、天夏ちゃんすごく偉いんだね。」
「ええ、クランの規模もトップクラス…ていうか現状うちがたぶんトップなんで、クラマスめっちゃ有名人ですよ。βでもそうでしたし。」
「はえ〜、天夏ちゃんすごいね〜」
「……あの、あんまりべた褒めされも恥ずかしいのでそのへんで……」
あ、天夏ちゃんが戻ってきた。どうやら、考え事しながらこっちの話もちゃんと聞いてたみたいだね。うーむ、器用。わたしなんて、何もしてなくてもしょっちゅう奥さんの話を聞き逃して怒られてたよ。
「アヤさん、逃げたウルフはどのくらいの数だったか覚えていませんか?」
「え、数?えーっとね、だいたい50体くらいだったと思うよ」
「じゃあ、200体規模の群れだったんですね。よくアヤさん死ななかったもんですね。」
「まあ、数だけ揃えられてもね。ボス犬以外には負ける気しないかな」
「やっぱボス犬はヤバいですか。」
「ボス犬に与えたダメージも、わたしより赤クマの方が多かったんじゃないかな。今回まんま漁夫の利をかっさらった形だしね。タイマンじゃ相当きついよね」
「普通は明らかに格上のボス相手にタイマンとかしませんけどね。というか、クロちゃんはその時どうしてたんですか?闇魔法でサポートはできますよね?」
「クロちゃんはね、それまでに魔法を使いすぎて、MP切れでダウンしてたね。胸ポッケでお休みしてたよ」
「なるほど。聞いた限り長丁場だったみたいですしね。ユニちゃんは、その時はまだ仲間になってなかったんですよね?」
「そだね。ボス犬たちとの戦いのあとに仲間になったんだよ」
「じゃあ、次はそのユニちゃんのことについて色々教えてほしいんですけどいいですか?」
「そうですね。私も気になります。」
おお…ユニちゃんも大人気。まあ、かわいいからね!じゃあ、ばっちり話しちゃおうかな!
補足
依頼人殺そうかと思いました:クランのブラックリストに乗せて、クランの系列店舗オール出禁だけで許してあげた模様。???「私の心は海より広いので。」
狼長の魔石:ウルフリーダーのレアドロップ。ウルフ5体の中に1体いるウルフリーダーから、通常は大体1/10くらいの確率で手に入る。
天夏:クラン内で男性人気よりも女性人気のほうが強い。




