文化の味
注意!
残酷な描写が含まれます!
「お客さん、つきましたよ。起きてください。」
ん……あれ?
「お〜い。お客さん?」
……は!
「やっと起きましたか。」
ここは……あ、そっか。あの国でバスに乗って……。
「起きたなら早く降りてください。」
「あ!すいません!」
「お客さん、初めてだよね。あの国に行くならあんまり長居しすぎないでね。」
「……?どう言うことですか?」
「あの国の料理が美味しすぎて、中毒になって我が国で暴れられたことがあったんだ。そんなことになったら困るからね。」
「へぇ〜そうなんですか……。」
ヨッと
降りるとバスがそそくさと前の国に戻って行った。
バスもあの国とこの国しか繋がってないのかなぁ〜
何か交通手段を手に入れないとなぁ
ま、国に入ってから考えよ。
「え……?」
目を疑うような光景だった。
広い牧場のような場所が国に入ると見えたんだけど、
動物がいるべきところには、人間がいた。
目を疑って何度も瞬きしてもいるものはいた。
飼育員の人かと思ったけど、周りには動物もいないし、なんせ全裸だった。
裸族なのかなとも思ったけど、周りを見れば服を着てる人もいる。
この国って本当になんなんだろう?
と、とりあえず休める宿でも探そう……
借りた宿のベッドの上で、さっきのことを思い出す。
やっぱり人だったよね。あれ。
ここの窓から見えるくらい大きい牧場に、人。
窓から見てみても、やっぱりいる。
おかしいのは私なのかなぁ〜
それともそういうテーマパーク?
考えてもわからないなぁ〜
コンコン、と扉がなった。
「お客様、ご昼食の準備が整いました。一階のお食事処においでくださいませ。」
「あ、はーい。」
そうだったそうだった。昼食付きのコースにしたんだった。
どんな料理が出てくるのかなぁ〜♪
……嫌な予感もするけど。
「こちら、当宿自慢の料理、人肉のソース漬けです。」
「ん?なんて言った?」
「ですから、人肉の──」
「人肉!?」
「はい。外の国では珍しいのですか?」
「珍しいも何も……共食だよね?」
「はぁ……共食いですか?珍しいことを言いますね……。あ、私は仕事に戻りますので、ではごゆっくり〜。」
……食べていいやつなのかな?
食べる気にならないんだけど。
周りをキョロキョロと見回すけど、他のお客さんは美味しそうに頬張ってる。
ちょっと迷惑かもしれないけど聞いてみようかな?
「おや、お嬢ちゃん。食べないのかい?」
と、思ってたら向こうから話しかけてきた。
「あ……はい。珍しいので。」
「珍しい?この肉が?」
「はい。」
そういうと男の人は笑って、
「珍しいだなんて!そこの牧場で作られたただの人肉だよ。」
「いや、その人肉を食べるのがおかしいと思うんですけど。」
「おかしい?じゃあお嬢ちゃんは肉を食べないのかい?」
「いえ、人肉は食べないだけでお肉は食べます。」
「は?こんなにうまいのに?」
そういうと、私の目の前にあった肉を手で掴んでペロリと食べた。
え?ん?食べた?私のだったよね。え?
「んじゃあ逆に何の肉を食べるんだい?」
「牛とか豚とか?」
その瞬間、食堂が凍りついた。
みんなが動きを止めて、やがてこっちをみた。
男の人が少しヘラッと笑った。
「冗談だよな……?」
「いえ、真面目ですが……。」
すると近くの女性が話しかけてきた。
「あの牛を?食べるですって?非人道的だわ!」
「そうだ!可哀想じゃないか!」「彼らだって痛みを感じるんだぞ!」と野次が飛んでくる。
「いや……だって……人間だって……。」
そう言ってみても、誰も耳を貸してくれなかった。
「なんて恐ろしい……。」
「牛や豚を食べるだなんて。」
「信じられないわ。」
「子どもの前で言うな!」
食堂中がざわめき始める。
私は慌てて立ち上がった。
「ま、待ってください! 私の国では普通なんです!」
その言葉は火に油を注ぐ結果になった。
「普通だって!?」
「聞いたか?」
「恐ろしい国もあったものだ。」
「そんな場所が本当に存在するのか……。」
宿の主人まで奥から飛び出してきた。
「お客様、申し訳ありませんが少々こちらへ。」
笑顔だったが、目は笑っていなかった。
気づけば私は食堂の外へ連れ出されていた。
その日の午後。
国を歩いても、みんなが私を見る。
ひそひそ声が聞こえる。
「牛を食べる人だ。」
「あの子が?」
「見た目は普通なのにね。」
子どもたちは母親の後ろへ隠れた。
店へ入ろうとしても、
「すみません、本日は閉店です。」
と追い返される。
どう見ても営業中なのに。
別の店でも同じだった。
宿へ戻ると、主人が深々と頭を下げた。
「大変申し訳ありませんが、お部屋は本日までとさせていただきます。」
「え?」
「町役場から通達がありまして……。」
「そんな。」
「私も商売がありますので。」
主人は困った顔をしていたが、決定は変わらないらしかった。
私は荷物をまとめるしかなかった。
翌朝。
城門の前には人だかりができていた。
その中心に私がいる。
まるで犯罪者みたいだった。
役人らしい男性が紙を読み上げる。
「来訪者である当人は、複数回にわたり家畜保護理念に反する発言を行い、住民へ著しい不安を与えた。」
住民たちがうなずく。
私は何も言えなかった。
何を言っても伝わらない気がした。
役人は続きを読む。
「よって当人を国外へ送還する。」
拍手が起きた。
私は思わず顔をしかめた。
拍手されるようなことなのだろうか。
国の外には一台の馬車が停まっていた。
黒塗りの立派な馬車だった。
御者が荷物を積み込む。
「乗ってください。」
言われるまま乗り込む。
窓の外を見ると、何人もの住民が見送っていた。
見送りというより、監視に近い。
馬車が動き出す。
ガラガラと車輪が回る。
私は最後にもう一度だけ牧場の方を見た。
柵の向こうでは、あの人たちがのんびり歩いていた。
草を食べている者もいる。
世話をする飼育員たちの姿も見えた。
町の人々はそれを見て優しく微笑んでいる。
誰も疑問を抱いていない。
誰も残酷だと思っていない。
きっと私が牛や豚を見ていた時と同じ顔だった。
馬車は見知らぬ国へ向かう。
やがて城壁が見えてきた。
あの国はどんな国なんだろう?
御者が手綱を引いた。
「到着です。」
私は馬車を降りた。
最後に御者が言った。
「もう来ない方がいい。」
私は苦笑した。
「そうします。」
門が完全に閉まる。
向こう側の景色は見えなくなった。
私はしばらくその場に立ち尽くした。
あーあ……お腹すいたな。
結局、あの人肉料理には一口も手を付けなかったし。
とりあえず、この国で何か食べてから考えよ。
今度は普通の……いや、いつも食べてる動物のお肉だったらいいけど。
異文化はどちらなのでしょうか




