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魔獣討伐「イルィクダ村救出作戦」

ふと思い出す。そう言えば自分は軍務の最中であったと、多くの魔族の命がかかった状況なので些事に過ぎないが怒られるのは嫌なので言い訳を考える。


(兵営本部に向かう途中、20を超える多数の魔獣と遭遇し交戦していたため到着が遅れました!)

よし、これで行こう...

我ながら本当に弁が立つなと思う。言い訳や事実の改変は諜報員時代から大得意だ


言い訳も用意できたので背中に背負っていた鞄から地図を取り出す。鉛筆を2本と小石を地面から4つ拝借し平らな岩に地図を広げる。小石を四つ角に置き、地図が丸まらないようにしてからスノウホワイトに見せる


魔族領の最南端地域、そこら一帯は『イィルマ地方』と呼ばれている地域だ。魔族の古語で「白い草」を意味する単語らしい。


「あの村はイルィクダ村と言うらしい、魔族領国の南の防衛線の要であるイィルマ城塞の保護下にある農村らしいが...」


イィルマ城塞からの援軍は確認できない。これだけの騒動だ、いくら本部がてんやわんやだからと言っても何かしら連絡や援軍を飛ばしていそうなものだがまったくと言っていいほどその気配がない


「ネグルラさん、おそらくですが城塞は今人手が足りないのではないでしょうか?」

「国境最前線だぞ?有り得るのかそんな状況?」

「普通はありえないでしょうね。しかしエルフと魔族の国境地帯は連日の吹雪で進軍ができず膠着状態だったことを踏まえると、魔族側としては激化する大陸中央部のハラーフ平原へ人員を割きたいと考えそうではありませんか?」


理にはかなっている。立場が弱くなってしまったので入ってくる情報が限られてくる今の自分は少ない情報で推理するしかない。スノウホワイトの考察は状況判断も的確で軍事的な客観性もある見事な考察だが、だとしても援軍の来ない状況などあり得るのだろうか?


「いや、考えるのはよそう。今は命が最優先だ」

「あらあら...アナタ様って意外と脳筋なんですね。もうすこし論理的な方なのかと...」

「いちおう軍人だからな。実際、俺は策をめぐらせるよりかは単純な方が好きだ」


鉛筆で地図に線を引く。冬の備えのために伐採された木々の少ない区画、つまり障害物の少ない場所から山を下り村へ向かうルートだ


「スノウホワイト、お前の方が圧倒的に早く到着するだろう...俺は後で必ず合流するから今すぐ先行してくれ。命最優先だ」


最後、少し念を押しておいた。こうして話している間にも状況が悪化しているからだ


「ええ、この距離ならば直ぐに村に到着できるでしょう...しかし、救える保障などありませんよ?もしかしたら徒労に終わるかも」


確かにその通りだ、助けられる保証などどこにもない。これは俺の自己満足のようなものであり勇者である彼女を巻き込んでいるだけ。だが何もしないのは性に合わない、せめてあのクソ魔獣どもに『冷たい死』をくれてやりたい


「いや、付きあってもらうぞ。これは上官命令だスノウホワイト」


こちらもあえて軍人らしく振舞ってみる。こうした方が理解が速いかと思った故に


「仰せのままに...」


彼女は少し驚いたような顔をしてから、少し微笑むようにそう言った


爆風――――


スノウホワイトは空を翔ける鷹のように跳躍と滑走を繰り返し、恐ろしいほどの速度で山を下る。積み上がり道を阻んでいた雪たちは勇者の飛翔に連れ去られ、吹き飛ばされるかのように宙を舞う。彼らの生においては二度目の空の旅だ。


「スノウホワイト、聞こえるな?視認できるだけでも魔物の数は7体...村の正面入り口から見て左側の鍛冶屋の屋上に三等級が2体、その手前の家屋で魔族の死体を食い散らかしてる三等級のクソどもが4体、教会の前でじっとしてる二等級が1体だ」


――――――――――


誰かに言われた。「君はすごいね、驚異的な空間把握能力だ。魔術による視力の強化だけでは片付けられない異様なほどの察知能力は現場の指揮で無類の強さを発揮するだろう」


――――――――――

軍師にして策士、通信星魔印をスノウホワイトに付けた今

俺にとってこの戦場はチェスの盤面のようなものだ。勇者という最強の駒を手にした俺にに隙は無い、必ず村を救う。


「麓の村に現着、それじゃ暴れるわね」

ニヤリと微笑むと彼女は細身の剣を抜刀する。聖都では珍しい片側にだけ刃の付いたやや曲がった剣で何度も黒鉄を打ち鍛えた業物。重量感と刺突に特化した剣の性能を下げるかのような造りだが、彼女曰く「これこそがわたしにとっての刀剣の完成形」なのだとか


疾風の如く駆け抜け、鍛冶屋の支柱を斬り飛ばす。支えを失った石造りの作業場はあっけなく崩れ始め魔物も慌てて地面に飛び降りる、その隙を見逃す道理はない

一閃、ただ一太刀で五メートルを超える巨体を両断し斬り伏せる、刃に付いた血を払いもう一体の方に目を向けると華奢な体躯でありながら自信と同等の力を持つ同胞を殺害した存在の脅威を測りかねているのか、少し躊躇したのち飛び掛かってくる


(奥の家屋エリアに行きたいのだけど...まずは数を減らすべきかしらね...)

袈裟掛けに一閃。触れた側から肉が裂け骨を砕くように断ち切る生々しい音が響き渡る。だが流石は三等級と言うべきか歩行すらままならない状態であろうと這って来る


「邪魔」

吐き捨てるかのような言葉と共に頭部を貫く、頑強な頭蓋が存在しないかのように易々と突き刺す様は見ていて心地が良いほどだ


「スノウホワイト、家屋エリアの奴らの食事は終わったみたいだ。今からお前という御馳走をご所望のようだぜ?」


ネグルラは斜面を下りながら状況を的確に報告、スノウホワイトに共有する。


「あら、身の程知らずね」


冷たく鋭い眼光が走る。相手は四体、等級は四等級の「オーガ」と呼ばれる魔物にしては珍しい二足歩行の有角種だ。単純な膂力は他の魔物と比べて平均程度、だが問題は機動力である


駆ける、駆ける、駆ける、駆ける


村とは言えそれなりの広さがある余裕すら感じられた数百メートルの距離は瞬く間に埋められる、考え無しの突進攻撃だが路地の関係上、隊列を組んでいるかのような突撃。並の人間であれば恐怖する光景だろう。しかし彼女は、勇者スノウホワイト


「ふふ、カルガモの親子みたい」


通信を通して聞こえてきた耳を疑いたくなるような言葉にネグルラはドン引きする。やはりこの女は頭がおかしい、そう思うくらいには狂っているのだ


「死にたい御方から前へどうぞ、地獄へご案内して差し上げますわ」


細い体を撓らせ、旋回させながら斬る。次の客人をもてなすかのように華麗なターンで正面に立ち、また斬り伏せる、彼女の動きに従い濡れ雪が水しぶきのように飛び散り、かつて確かに生きていた証拠たる魔物の血を消すかのように、その存在を否定するかのように薄めていく…


動きは止めない、三体目を刺し殺し手に刻まれた刻印を起動させる。


「指打つ彼方、星流す川、ラルゥマ・カルドの笑い声...」


魔法の発動を補助する命令文たる意思を持った音の旋律、「詠唱」とよばれるソレを慣れたように謳う


「金色の野に炎を灯せば、天使のラッパが眼を潰す」


当然、魔物はそれが終わるのを待ってくれなどしない。スノウホワイトの胴体を殴るが、オーガの拳はピタリと止まる。寸止めなどではない、スノウホワイトの背後には衝撃で突風が巻き起こっているのだから


では何故?答えは単純、この程度の拳では傷一つ付かないからだ


「Astral Shoot(流天星砲)」


彼女がそう口にすると、指先から閃光が走る。その直後に轟音と共にオーガの胴体に大きな風穴があいた。


魔物の死体を蹴り飛ばしながらスノウホワイトは村の中心へと足を運ぶ


「次は親玉ね...」


それと同時期、教会で食料が出てくるのを今か今かと待っていた魔物は、異変に気付いたのか自らの死神に目を向けていた。

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