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遭遇「神託勇者第13号」

星暦646年、魔界の創始者たる最高位の神格にして「魔神の始祖」が亡くなってから600年以上が経過したことを示すこの暦。


この年の1月8日、北側連合国の「サントゥアルス」の王子であるネグルラは浅く積もった雪を蹴り飛ばすように林の中を駆け抜けていた。


「マズい!コレは本気でヤバい!!どうしてこんなことになったんだ!!」


独り言をぶつぶつと言いながら道なき道を駆ける。十秒前にネグルラが通った場所が薙ぎ払われる、というより地面ごとえぐられるかのような地響きと共にソレは現れた。

魔獣、学名的には「アストラル・モンスター」と呼ばれる星の外から来る謎の生命体。学者でないネグルラは魔獣の生態を良く知らないが捕まったらロクな目に遭わないことくらいは容易に想像できる。

斜面を滑り落ち、小川を飛び越え、木々の間を縫うようにジグザグに走り抜ける


「クソッ!まだ追ってくるのか!?」


ネグルラを追いかける魔獣は「三等級」という等級に分類される体長5メートル以上10メートル未満の魔獣だ。膂力はもちろん、牙や爪が太く頑丈であるため一撃でもモロに食らえば体が八つ裂きになる。

考えただけでも恐ろしい。が


「こっちにも考えはあるんだよ!!」


俺が走る方向は別の連絡隊が偵察のために設置したキャンプ地の方向、幸いなことに前線付近の地図は頭に入ってる。

目的は「拠点付近に仕掛けているであろう魔術の罠でヤツを仕留めること」。二百メートル先にその罠の目印が見えてきた。予想通りすぎてニヤついてしまう、すぐ後ろに魔獣の荒い息遣いが聞こえるが関係ない


「うおおおおおおおおおおおおッ!!」


一か八かの大ジャンプ。ネグルラの足のすぐ下をかすめる鋭い風、魔獣の爪が空を切りすぐ隣の針葉樹に鋭く深い傷跡が残るのが見えた。だが、賭けは俺の勝ちだ


「グギャアアアアアアアアアアアアァ!!」


地面が陥没し、魔獣は体勢を崩したまま落とし穴の底へと落ちていき木の杭が体にめり込んでいた。


「ざまあ見ろ...」


不敵な笑みを浮かべてから魔獣を見下ろす。少し歩いた場所にある切株が視界の縁に入ったため休憩がてらに腰を掛けた、息を整え体を少し楽にしていると様々な考えが頭の中を巡ってきた

通常、魔獣の多くは寒冷地帯に住みつかない。熊型や一部の白毛種を除き、魔獣はこの時期冬眠に入るのだ。ネグルラを追いかけた魔獣は黒い狼のような風貌の魔獣、南西部の高山地帯でよく見る肉食獣だというのに「何故コイツは...?」と考えているとネグルラの耳を刺すような爆音が辺りに響いた


「な、なんだ!?この音!?」

両耳を塞ぎながら歯を食いしばり片目で状況を把握しようと努める。ネグルラは目の星魔印にマナを流し込み、はるか遠くにある爆音の正体を発見した。


「な、何が起きてんだ...アレは?」

見てもなお理解できなかった。否、したくなかったのだ。

ネグルラの眼には、山の麓にある魔族の農村が魔獣たちの手によって蹂躙されている様子が写っていたのだ。

半狂乱になり叫びながら逃げる女性は地面に叩きつけられた後に頭部を嚙み砕かれ、勇敢にも斧を片手に立ち向かった木こりらしき風貌の男性は胴体を輪切りにされた。それは子供だろうが容赦なく、裂かれ、噛まれ、吹き飛ばされていた。


「...ッ!!衛兵は居ないのか!?」


その疑問の答えは割とすぐに見つかった。居ないのではない、すでに大半が殺されているか食われているかだったのだ。


助けに...いや駄目だ。自分が駆け付けたところで間に合う距離ではないし直接的な戦闘手段を持たない自分が役に立つ保障などどこにもない。

というか、俺は軍務の最中だ。兵営本部にすぐにでも向かうべきでは?ならば見捨てる?冗談ではない、辺境の民を見捨てるなど中央貴族とやっていることが同じではないか。


「考えろ...!考えろ!!」


俺は頭を両の手で押さえながら他でもない自分自身を落ち着かせるために叫ぶ。不幸中の幸いと言っていいのかは分からないが、此処は山の中腹であるため駆け下りればよいだけ、それに全員死んだわけでは無い。山間部の農村や街には魔獣から逃げるための塹壕が各家の地下にあるものだ。


「絶対に助ける...」

「その意気や良し!流石は私が眼をつけた男だわ...!!」


背後から堂々とした、しかし鈴の音のような心地よい女性の声が聞こえてきたためネグルラは慌てて振り返る。


「だ、誰だ?」


少し間抜けな声が出てしまったため俺は照れ隠しに口を抑える。背後には雪のように白い肌とやや水色がかった銀髪の長髪を靡かせる人形のような少女の姿があった。


「お初にお目にかかります。魔導帝国、中央貴族ネグルラ・エスパ・D・サントゥアルス様...」


下げた頭を上げながら空色の瞳で試すように見つめる少女は白い軍服を身に纏っている


「お前...聖騎士団の人間か!?」


ネグルラは自分の国が崇拝する唯一神である『魔神』と対を成す存在『天神』の加護と恩寵を賜る聖王国家直属の騎士と分かると身構える。彼女は悪魔の殲滅を至上命題とするネグルラの宿敵だからだ。


「ええ、神託勇者第13号『スノウホワイト・シャストフォルテ』と申します。」

「神託勇者だと...?王家を除き唯一天神の恩恵を授かることのできるバケモンが何の用だ?」

「あら、よくご存知なのですね。その通りですよ、私は人類の希望たる勇者でございます」


この世界は魔族と人類とその他人外種による三つ巴の大規模な世界大戦が勃発中である。

この星の中心に位置する「ヴァンゲア大陸」は、人類とその他の人外種族で生活圏が大きく4つに分かれている。北側の寒冷地は魔族、東側の森林地帯はエルフ、西の高山地帯にはドワーフと獣人、南側の平原、荒野には人類の文化圏が広がっている。東にはそれなりの大きさの孤島が、西にずっと行けば海をまたいで別の大陸が、空には何千年も前に作られた天空城ががあるが今なにをしているかは分からないし興味もない。


「大陸の最南端に位置する聖王都は人類の栄光の象徴なんだろ...?そこから大きく離れた北側の寒冷地帯に、どうして勇者様が一人で居るんだ?討伐作戦にしちゃあちょいと不用心じゃないか」


ネグルラは警戒を緩めず、少しずつ距離を取る。勇者は極めて高い身体能力と神秘を有する生きた人造兵器だ、真正面から戦ったところで勝てる見込みなど皆無なうえ自身の得意な搦手もどこまで通用するか不明だ。


「そんなに警戒しなくとも、アナタと戦う気なんてありませんよ。私の戦場はあそこです」

勇者と名乗る少女が指さしたのは今も尚襲われ続ける魔族たちの村だ。ネグルラは思い出したかのように目の印を通して状況を確かめる。弓矢や農具で応戦しているようだが、まるで歯が立っていない。


「お前...何をするつもりだ?」

ネグルラは一度深呼吸をしてから言葉を紡いだ、冷静に状況の判断を下す。いま自分には考える時間も無ければ余裕もない、だが取り乱しても状況は好転しない


故にネグルラは少女に問うた「お前は俺の味方なのか」と

少女は質問の意味をくみ取ると不敵な笑みを浮かべて片膝をつき、極東にある孤島ヤガツナキ産の剣「カタナ」のような剣を地面に突き立てる


「世直しです。ネグルラ様、アナタと共にこのバカみたいな種族社会をぶち壊したいのです」


(アホらしい...たった二人で何ができるというのだ)

彼はそう思ったが口にできなかった、そう吐き捨てて否定するには、その理想はネグルラにとってまぶしすぎたからだ。差別や貧困さえなければ、種族を巻き込んだ大規模な対戦さえなければ、この国は...いや世界はどれほど生きやすく楽しいだろうか...?



手が差し出される。魔族が勇者と手を組むなど言語道断...この勇者の差し出す手を取れば、そしてそれがバレれば国民から非難が浴びせられることなど火を見るより明らかだ。

だが、理想に生きること。自分自身の望んだ未来をつかみ取れるかもしれないという甘美で魅力的なその誘いは......


「俺に手を貸せ、スノウホワイト...!!」

「ええ、喜んで」

ネグルラの英雄的好奇心を掻き立てるのに十分すぎた

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