第8話 届かない声
その夜、僕らは今後について話し合っていた。
「ひとまず寝床を確保できたのはでかいな。ここは街からも離れてるし、しばらくは隠れられるんじゃねーか?」
「……ただ、わたしたちは彼の墓を直してしまった。それに気づいた人が騎士団に通報しないとも限らない。……皮肉なことに、墓を直したことでここにいさせてもらえることになったのにね」
二人が話している間、僕は昼間のおじいさんの言葉が頭から離れなかった。
そして思い出した。おじいさんと出会う直前、門の前で聞いた“あの声”を。
「……僕たちがおじいさんにしてあげられることって……他にないのかな?」
「どうした?急に」
「今日、おじいさんの言葉を聞いて思い出したんだ。……あの日、門の前で僕の頭に響いた声は……今思えば、おじいさんの声だった」
「!?」
ダンとアリヤが驚いた表情でこちらを見た。
「……なんて聞こえたの?」
アリヤが静かに尋ねる。
「……『憎い』って言ってた」
「……っ」
二人は目線を落とし、沈黙が落ちた。その言葉の意味を、二人も理解してしまったようだ。
「……こんなの、おかしいよ。ナーヴさんは何も悪いことなんかしてない。おじいさんだって、ただ大切な人を弔っただけなのに、その想いさえ踏みにじられるなんて……こんなの、おかしいよ」
また長い沈黙が訪れた。
「……エリオルは正しい。俺も同じ気持ちだ。……ただ、俺たちは所詮よそ者だ。この国の問題は、この国の奴らがどうにかしなきゃならねえ。それに、俺たちは追われてる身だ。勝手に首突っ込んで捕まっちまったら、本末転倒だろう」
アリヤも続ける。
「……今のおじいさんは、その憎しみに耐えている。感情に任せて行動して、自分が死ぬような危険に晒されることは、息子さんもリーヴさんも望んでいないって……わかっているから」
……わかっている。
二人の言うことは正しい。自分たちの身を考えれば、余計なことをすべきじゃない。おじいさんの想いも理解している。
でも、それでも――。
「……僕は、暗い檻の中で叫んだんだ。どうして僕が閉じ込められなきゃならない、ここから出してくれって。何度も、何度も。……でも、その叫びも痛みも苦しみも……誰にも届かなかった。ダンが現れるまでは」
僕はダンを見た。ダンはフッと笑って頷いた。
「僕にはダンがいてくれた。ダンが僕の声を聞いてくれたから、今ここにいられる。……今でもゾッとするよ。もしダンがいなかったら、僕は今ごろどうなっていたか」
僕は息をつき、アリヤを見た。
「……アリヤ。君がどんな人生を歩んできたか、僕は知らない。……でも、きっと君も、僕と同じ思いをしてきたんだろう?」
アリヤは答えなかった。無表情のまま、赤い瞳だけが深く沈んでいた。
「……僕らとおじいさんは同じだ。届かない想いに苦しんでいる。……だからこそ、僕らだけはその想いを……声を……無視しちゃいけない。ここで聞こえないふりをしたら、僕らは……僕らを苦しめた奴らと同じになってしまう」
しばらくの沈黙の後、アリヤが顔を上げた。表情は変わらないのに、その瞳は炎のように揺らめいているように見えた。
「……わかったわ。ただし、行動は慎重に。ダンの言うとおり、わたしたちが捕まったら本末転倒よ」
ダンも頷く。
「今の俺たちにできることは少ない。まずは情報を集めることだ。この国の他の連中がどうなってるか、それがわかれば今後の方針も見えてくるだろう」
僕は二人を見て、静かに言った。
「……二人とも、ありがとう」
ダンは鼻で笑った。
「まあ、お前の我儘に付き合うのは慣れてるからな。お前の頼みで脱獄までしちまったわけだし」
僕は照れくさくて「エヘヘ」と笑った。
「……言っておくけど、わたしはあなたたちと共倒れする気はないから。危なくなったら見捨てて逃げるわよ。そのつもりでいて」
「ふふ。わかったよ、アリヤ」
「……わかってない」
アリヤは不機嫌そうに小さく呟いた。




