↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果てのアリヤ  作者: 霜月兎灯
レヴナ公国編
PR
56/59

第52話 天の御使、来襲

 ネオラ侯爵の命を受け、レヴナ公国での初陣を果たしたアリヤ、ダン、ケセフの三人は、帝国軍に勝利したはずなのに、どこか晴れない気持ちのまま城へ帰還した。


 帰還した三人は休む間もなく、服だけ着替えさせられ、そのまま侯爵との謁見に臨むこととなった。

 足を組み、頬杖をついて玉座に座る侯爵の前で、三人は跪き首を垂れる。


「見事に余の命を果たしてくれた」


 声変わり前の甲高い声で、侯爵は三人を労った。


「約束通り、エリオルに会わせてください」


 ケセフが顔を上げ、そう言った。

 侯爵がニヤリと笑う。


「……誰が、追い返すのは一回だけだと言った?」


「なっ!?」


 ケセフだけでなく、アリヤとダンも思わず顔を上げた。


「話が違うじゃねえかっ!」


「口の利き方」


「っ!」


 ダンを睨みながら、侯爵がピシャリと言い放つ。


「……まあ良い。奴らもしつこくてな。何度追い返しても懲りずにやって来る」


 侯爵は深いため息をついた。


「こちらの戦力も徐々に削られておる。実際のところ、かなり厳しい状況だ。使えるものは使わねばならん。……それに、この戦いは貴様らの目的を果たすことにも繋がると思うぞ?」


「どういう意味だ……ですか」


「それは今後のお楽しみじゃ」


 そう言うと、侯爵はぴょんっと椅子から飛び降りた。


「引き続き精進するがいい。頼りにしておるぞ」


 侯爵は年相応の少年らしい笑顔でそう言った。


*****


 その後、三人は結局エリオルと会うことができないまま、公国騎士団と共に辺境を飛び回ることとなった。

 戦況はまさに一進一退。

 勝つこともあれば、撤退を余儀なくされることもあった。

 三人はなんとか生き延びていたが、公国の騎士たちは戦いを重ねるたびに数を減らしていった。


 そんな日々が続いていたある日。

 辺境の村の近くで帝国軍と交戦していた時だった。


 ゴーン。ゴーン。ゴーン。


 激しい怒号と剣戟の音をかき消すように、低く重い鐘の音が戦場に響き渡る。

 それはシェレト王国で、カイ陛下の戴冠式に割って入ったあの音と同じだった。


「っ!?この音は……!」


 ダンが敵兵を斬り伏せ、辺りを見回した。

 帝国領の方角から、真っ白な一団が凄まじい勢いで駆けて来る。

 白地に剣と翼が描かれた旗が、激しくはためいていた。


「あの旗は……“天の御使”マラアフだ!」


 近くにいたケセフが叫ぶ。

 その声を聞いた公国軍がどよめいた。


「“天の御使”だって!?」


「まさかマラアフが出てくるなんて!」


「教会最高位“エハドール”直属の軍勢だぞ!」


 公国側の士気が目に見えて下がっていく。


「くっ……流石に相手が悪すぎるか……!」


 戦況を見たギボル副団長が指示を飛ばす。


「総員撤退!!撤退だー!!」


 だが、マラアフは恐ろしい速度で迫り、撤退する暇もなく追い詰められてしまった。


「……少々度が過ぎたようだな」


 一人の騎士が軍勢の中から進み出る。

 馬上のまま、公国軍を見下ろしながら続けた。


「つまらぬ小競り合いだと捨て置いていたが、貴様らはやり過ぎた。“五つの光”は大変お怒りである」


「てっ……テメェは!?」


 その顔を見たダンが目を見開いた。


「ダン、知り合いか?」


 ケセフが尋ねる。


「……なんで……お前が……」


 しかしダンは答えず、騎士を見つめ続ける。


「……誰だ、貴様」


「なっ……!?」


 騎士はダンを一瞥し、冷たく言い放った。


「て、テメェ!俺は――」


「貴様らに選択肢をやる!」


 騎士がダンの言葉を遮り、大声で宣言する。


「大人しく降伏し、帝国にくだれ。さすれば命までは取らん」


 一度言葉を切った。


「だが、なお反抗を続けるというのならば……神への叛逆とみなし、この場で全員処刑する」


 騎士の言葉に、公国軍が再びどよめく。

 その時――。

 カラン、と乾いた音が響いた。一人の騎士が持っていた剣を落としていた。


「い……嫌だ……俺はまだ死にたくない」


「おい!」


 ギボル副団長が叫ぶ。


「お……俺も……」


「マラアフ相手なんて無理だ……」


 次々と騎士たちが剣を落としていく。

 そして一人が逃げ出した。それに釣られ、次々と騎士たちが背を向け始める。


「レヴナ公国騎士団誓条第三条ッ!!!」


 その時、腹の底を震わせるような怒号が響く。

 声を聞いた騎士たちの足がピタリと止まった。


「如何なる理由があろうとも、敵前にて背を向くべからず!」


 ギボル副団長が吠える。


「誓条に背きし者は騎士たる資格なし!!」


 副団長は部下たちを振り返った。


「お前たちは何のためにここにいるのだ!」


 鋭く部下たちを睨み据える。


「権威の前にひれ伏し、逃げ出すなど……それでも誉れ高きレヴナの騎士かっ!!」


 その時。

 パチパチパチパチ――。

 乾いた拍手が響いた。


「……素晴らしい」


 先ほどのマラアフの騎士だった。


「我々を前にしてなお抗おうとするとは」


 馬鹿にするような眼差しを向ける。


「貴様、名は何という」


「……レヴナ公国騎士団副団長、ギボルだ」


「サー・ギボル。貴様の度胸に免じて、別の条件を出してやろう」


「何……?」


 騎士はニヤリと笑って続けた。


「貴様らが匿っている魔女を差し出せ。そうすれば、この場だけは特別に見逃してやろう」


「魔女……?何のことだ?」


 ギボル副団長は怪訝そうに眉をひそめた。

 アリヤの力のことをネオラ侯爵は知っていたが、その他の者には知らされていない。


「ふむ。貴様らには知らされておらんか」


 騎士はダンとケセフを指差す。


「だが、そこの二人は知っているようだぞ」


 公国軍の視線が一斉に二人へ向いた。


「どういうことだ……まさか、あの娘が……?」


 ギボル副団長がハッとする。

 まずい。

 アリヤの正体がバレる。

 二人が顔をしかめた、その時だった。

 突然空が暗くなり、雷鳴が轟く。

 そして大粒の雹が降り始めた。


「な、何だ!?」


 戦場が騒然となる。

 その時、公国軍とマラアフの間に、白い人影が現れた。


「アリヤっ!」


 ダンが叫ぶ。


「ほう。貴様が噂の魔女か」


 騎士は冷たい目でアリヤを見る。


「……サタル・アナン。神の白きベールよ、道を閉ざせ」


 アリヤが呪文を唱える。

 刹那、濃霧が辺りを覆い尽くした。

 マラアフたちの姿がみるみる霧の中へ消えていく。それを見たケセフがギボル副団長の肩を叩いた。


「副団長っ!」


「総員撤退!!」


 呼びかけられたギボル副団長が頷き、叫ぶ。

 霧の向こうからマラアフたちの怒声が聞こえてくる。

 しかし、公国軍はその混乱に乗じて、辛くも戦場から脱出することに成功した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。