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最果てのアリヤ  作者: 霜月兎灯
レヴナ公国編
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第50話 奪われた玉座

「どうした?食べぬのか?」


 アリヤ、ダン、ケセフの三人は席に座ったものの、お茶とお菓子に手をつけずにいた。


「手をつけぬと話も進まぬぞ?」


 ネオラ侯爵がクッキーをかじりながら言う。三人は仕方なくカップを手に取り、お茶を一口啜った。


「……よろしい」


 その様子を見て、ネオラ侯爵は満足そうに笑った。


「では、まずはエリオル殿を攫った理由を説明しようかの」


 ネオラ侯爵はお茶を一口啜り、話を切り出した。


「エリオル殿は、今我が国が行っている戦争のキーとなる。これから激化していく戦争に勝利するため、何としてでも手元に置いておきたかった」


「戦争とは、一体どこと」


 ケセフが尋ねる。


「マルクド帝国じゃ」


 その名を聞いた瞬間、ちょうどお茶を飲んでいたダンがゴホゴホと咳き込んだ。


「マルクド帝国だって!?なんでよりによってそんな大国と!というか、ここはその帝国領じゃなかったのかよ!」


「ふむ。その問いに答えるには、余がなぜレヴナ公国の主となったのかから話さねばならん。……それと、口の聞き方には気をつけよ。余は見た目はガキでも、この国の領主じゃぞ」


 ネオラ侯爵が鋭い目でダンを睨む。

 見かねたケセフが「謝れ」と目で合図する。


「……失礼……いたしました……」


「ふむ。よろしい」


 ネオラ侯爵は満足げに頷き、続けた。


「貴様の言う通り、レヴナ公国は確かに帝国の領土だ。普通なら反旗を翻そうなどとは思うまい。帝国が今まで通り帝国民のために運営されていればな」


「それはどういう意味ですか」


「……今、帝国の支配権は教会に乗っ取られている」


「教会に……?!」


 ケセフが驚きの声を上げると、ネオラ侯爵は静かに頷いた。


「帝国の現皇帝、余の叔父上は元々お優しい方で、いつも国民を思う方であった。それと同時に熱心なエハド教徒でもあった。そこを教会につけ込まれた」


 ネオラ侯爵はお茶を啜る。


「叔父上の信仰心に漬け込んで、横から余計なことを吹き込み、気づいた時には叔父上は教会の操り人形になっていた。……そこからはあっという間だった」


 ネオラ侯爵はカップをテーブルに置き、暗い表情で続けた。


「叔父上は、先代皇帝であった我が父上をでっち上げた理由で処刑に追い込み、本来皇位を継ぐはずだった余をレヴナ公国の領主へと追いやり、継承権を奪った」


 深いため息をつく。


「……それでも、どんな仕打ちを受けようとも、国民が幸せに暮らせるならそれでよかった。しかし皇帝となった叔父上は、国民のためではなく教会のための政治を行うようになった。……このクーデターで叔父上をよく思わない勢力も少なからずいる。しかし叔父上……いや、教会はその者たちを異端者として虐殺して回っている」


 ネオラ侯爵の目が鋭く光る。


「余は帝国を治めてきた一族の末裔として、このまま黙って見ているわけにはいかない。どんな手を使ってでも皇帝に返り咲く。……しかし敵の戦力は強大だ。普通に戦って勝てる相手ではない。そこでエリオル殿の力が必要というわけだ」


 ネオラ侯爵がティースプーンでカップをチンと鳴らすと、執事が素早く現れ、お代わりのお茶を注いだ。


「なるほど、この国の事情はわかった……わかりました。だが、エリオルにそんな大きな戦争をどうにかできるような力があるとは思えませんが?」


 ダンが言うと、ネオラ侯爵はニヤリと笑った。


「それはいずれわかることだ」


「私たちをエリオルに会わせてもらえませんか?」


 ケセフが尋ねる。


「ふむ。それはまだ出来ぬな」


「なぜですか?」


「今回このような手法をとったのは、エリオル殿を必ず手中に納めるためであるが、貴様らを呼び出すためでもある」


「私たちを?」


 ケセフが驚く。


「……特に、其方だ」


 ネオラ侯爵はアリヤを指差した。


「其方が教会に追われている“魔女”なのだろう?」


 ニヤッと笑うネオラ侯爵。

 同時にダンとケセフがガタッと立ち上がる。

 横の扉が開き、鎧を着た騎士たちがドカドカと入ってきた。


「待て!」


 ネオラ侯爵の声が響く。


「両者とも落ち着け。騎士たちは下がれ」


 指示を受け、騎士たちは扉の外へ消えていった。


「まあ落ち着け。捕まえたり、教会に引き渡そうなどとは考えておらん。其方の安全は余が保証しよう」


 ネオラ侯爵がお茶を飲む。

 ダンとケセフは再び椅子に座った。


「だが、こちらもまだ貴様らを信用したわけではない。余の派閥の者の中には、急に現れた貴様らを不審に思う者もいるだろう。そこでだ」


 ネオラ侯爵は立ち上がり、三人に近づく。


「貴様らに任務を与える。余の期待に応えることが出来れば、考えてやらんこともない」


「こっちに拒否権なんてないんでしょう?」


 ダンがため息をつく。


「わかっているではないか」


 ネオラ侯爵は笑い、軽い足取りで椅子に戻った。


「ここ最近、帝国側が公国の領地を侵犯する事案が度々発生しており、その度に異端者狩りと銘打った虐殺が行われておる。見るも無惨な有様だ。そこで援軍を派遣し、形勢逆転に出たいと考えている」


 ネオラ侯爵はニッコリと笑った。


「というわけで、貴様らには我が騎士たちと共に公国と帝国の境へ行き、帝国軍を追い返してもらいたい」

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