第47話 また会う日まで
その夜、僕らは今後のことについて話し合った。
「……これだけの騒ぎを起こした以上、もうこの国にはいられねえな」
切り出したのはダンだった。
アリヤが静かに頷く。
「……ショーメルは私のことを知ってた。それに、あれだけ派手に魔法を使ったから、マラアフに報せがいくのも時間の問題ね。私たちはいつものことだから、さっさと国を出ればいいだけ。でも……ザハラは……」
アリヤはちらりとザハラを見た。
僕らにとってナザルアド王国は通過点にすぎない。
けれど、ザハラにとっては“故郷”だ。それを追われるなんて――。
「……無論、それくらい覚悟の上よ」
ザハラは顔を上げ、静かに言った。
その目は、先ほどまでとは違い、力強く前を見据えている。
「本なんて、その気さえあればどこだって書けるしね」
ザハラは僕らを見渡し、ニッと笑った。
「乗りかかった船だもの。アタシもアンタたちと一緒に行くわ」
「ザハラ……」
その時、ケセフさんがすっと手を挙げた。
「すみません。それについては、実はもう話がついているんです」
「どういうこと?」
僕が尋ねると、ケセフさんは頷いて続けた。
「ザハラさんとエリオルが養生している間に、シェレト王国へ手紙を送りました。……ザハラさんの身柄を保護してほしいと」
「なっ!?何を勝手に……」
ザハラが驚いて立ち上がる。
そういえば、しばらくラヴィの姿を見ていなかった。
「勝手なこととは承知しています」
ケセフさんはザハラの言葉を遮り、続けた。
「けれど、これが最善だと判断しました」
「どうして……アタシたち仲間じゃなかったの?」
戸惑うザハラに、今度はダンが口を開いた。
「だからこそだよ。俺たちと一緒に来れば、今回みたいな危険が常につきまとう。今回は運良く全員助かったが、誰かが死んでてもおかしくなかった」
部屋の空気が重く張り詰める。
「俺たちはいい。覚悟の上だし、その先に目的があるから進むしかねえ。だが、お前は違うだろ、ザハラ」
ダンは真っ直ぐザハラを見た。
「お前の目的は、本を書いて、親父さんに代わって真実を明らかにすることだろ。だったら、それを達成するために最善の手を尽くさなきゃならねえ。そうだろ」
ザハラは俯き、何も答えない。
握りしめた拳が小さく震えている。
「……でも、ここでサヨナラなんて……いっぱい助けてもらったのに……」
「……ザハラが本を出してくれれば、そしてその本を一人でも読んでくれる人がいれば、それは必ず私たちの助けになる」
アリヤが立ち上がり、ザハラの手を取った。
「それに……あなたは、私にとって初めての女の子の友達だから。無事でいてほしいのよ」
ザハラは驚いたようにアリヤを見た。
アリヤはふいっと顔を背けたが、耳が真っ赤になっている。
その様子を見て、ザハラはハハッと笑った。
「そんなの、アタシも一緒だよ!」
アリヤも照れくさそうにニコッと笑った。
その時、ザハラがハッとしたように目を見開いた。
「そうだ、粘土板!家に置きっぱなしだよ!なんとか取りに戻れない?」
ケセフさんは首を横に振った。
「それは難しいですね」
「そんな!本を書くにはあの粘土板が絶対必要なのに!」
「なんとか粘土板と資料を回収できないか掛け合ってみます。教会の騎士たちに場所がバレていなければいいのですが……。とにかく、今はザハラさんの安全確保が最優先です」
「……わかったわ」
こうして、その日の話し合いは幕を閉じた。
*****
翌日、ラヴィがシェレト王国からの返事を持ち帰ってきた。
返事はカイ国王陛下からで、ザハラの身柄保護の了承と、数日後に北側の谷付近で使者と落ち合うようにとのことだった。
*****
約束の日がやってきた。
傷は治りつつあったが、あの斜面を降りるのはやはりしんどかった。
谷を降りると、森の入り口にシェレト王国の使者が待っていた。
数名の騎士と馬車、そしてオレフさんの姿があった。
「オレフさん!」
僕は嬉しくなって駆け寄った。
「みなさん、お久しぶりです」
オレフさんは僕の包帯だらけの体を見て、困ったように笑った。
「……また随分と無茶をしたようですね」
僕はバツが悪くなり、エヘヘと笑って誤魔化した。
「オレフ、お前も来てくれましたか!」
ケセフさんたちもやってきた。
「お前がいてくれるなら、道中も安心して任せられますね」
「お任せください。必ずや無事に送り届けます」
オレフさんはちらりとザハラを見た。
「あなたがザハラさんですね」
ザハラはこくりと頷いた。
「長居するのも危険ですから、早速行きましょう。さあ、こちらへ」
ザハラはオレフさんに向かって歩き出す。
差し出された手を取ろうとして――ふと止まった。
くるりと振り返ったザハラの目には、大粒の涙が溜まっていた。
「……これでさよならじゃないからね!……いつか必ず、アタシが書いた本の感想を直接言いに来てよね!」
「……当たり前でしょ。……必ず会いに行くわ」
アリヤの言葉に、僕も力強く頷いた。
ザハラも僕らの顔を順番に見て、同じように頷いた。
ザハラを乗せた馬車が出発する。
ザハラは身を乗り出し、大きく手を振った。
「みんなー!ありがとうー!」
僕らも大きく手を振って応えた。
ーーこうして、僕らはナザルアド王国を後にした。




