↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果てのアリヤ  作者: 霜月兎灯
ナザルアド王国編
PR
51/59

第47話 また会う日まで

 その夜、僕らは今後のことについて話し合った。


「……これだけの騒ぎを起こした以上、もうこの国にはいられねえな」


 切り出したのはダンだった。

 アリヤが静かに頷く。


「……ショーメルは私のことを知ってた。それに、あれだけ派手に魔法を使ったから、マラアフに報せがいくのも時間の問題ね。私たちはいつものことだから、さっさと国を出ればいいだけ。でも……ザハラは……」


 アリヤはちらりとザハラを見た。

 僕らにとってナザルアド王国は通過点にすぎない。

 けれど、ザハラにとっては“故郷”だ。それを追われるなんて――。


「……無論、それくらい覚悟の上よ」


 ザハラは顔を上げ、静かに言った。

 その目は、先ほどまでとは違い、力強く前を見据えている。


「本なんて、その気さえあればどこだって書けるしね」


 ザハラは僕らを見渡し、ニッと笑った。


「乗りかかった船だもの。アタシもアンタたちと一緒に行くわ」


「ザハラ……」


 その時、ケセフさんがすっと手を挙げた。


「すみません。それについては、実はもう話がついているんです」


「どういうこと?」


 僕が尋ねると、ケセフさんは頷いて続けた。


「ザハラさんとエリオルが養生している間に、シェレト王国へ手紙を送りました。……ザハラさんの身柄を保護してほしいと」


「なっ!?何を勝手に……」


 ザハラが驚いて立ち上がる。

 そういえば、しばらくラヴィの姿を見ていなかった。


「勝手なこととは承知しています」


 ケセフさんはザハラの言葉を遮り、続けた。


「けれど、これが最善だと判断しました」


「どうして……アタシたち仲間じゃなかったの?」


 戸惑うザハラに、今度はダンが口を開いた。


「だからこそだよ。俺たちと一緒に来れば、今回みたいな危険が常につきまとう。今回は運良く全員助かったが、誰かが死んでてもおかしくなかった」


 部屋の空気が重く張り詰める。


「俺たちはいい。覚悟の上だし、その先に目的があるから進むしかねえ。だが、お前は違うだろ、ザハラ」


 ダンは真っ直ぐザハラを見た。


「お前の目的は、本を書いて、親父さんに代わって真実を明らかにすることだろ。だったら、それを達成するために最善の手を尽くさなきゃならねえ。そうだろ」


 ザハラは俯き、何も答えない。

 握りしめた拳が小さく震えている。


「……でも、ここでサヨナラなんて……いっぱい助けてもらったのに……」


「……ザハラが本を出してくれれば、そしてその本を一人でも読んでくれる人がいれば、それは必ず私たちの助けになる」


 アリヤが立ち上がり、ザハラの手を取った。


「それに……あなたは、私にとって初めての女の子の友達だから。無事でいてほしいのよ」


 ザハラは驚いたようにアリヤを見た。

 アリヤはふいっと顔を背けたが、耳が真っ赤になっている。

 その様子を見て、ザハラはハハッと笑った。


「そんなの、アタシも一緒だよ!」


 アリヤも照れくさそうにニコッと笑った。


 その時、ザハラがハッとしたように目を見開いた。


「そうだ、粘土板!家に置きっぱなしだよ!なんとか取りに戻れない?」


 ケセフさんは首を横に振った。


「それは難しいですね」


「そんな!本を書くにはあの粘土板が絶対必要なのに!」


「なんとか粘土板と資料を回収できないか掛け合ってみます。教会の騎士たちに場所がバレていなければいいのですが……。とにかく、今はザハラさんの安全確保が最優先です」


「……わかったわ」


 こうして、その日の話し合いは幕を閉じた。


*****


 翌日、ラヴィがシェレト王国からの返事を持ち帰ってきた。

 返事はカイ国王陛下からで、ザハラの身柄保護の了承と、数日後に北側の谷付近で使者と落ち合うようにとのことだった。


*****


 約束の日がやってきた。

 傷は治りつつあったが、あの斜面を降りるのはやはりしんどかった。


 谷を降りると、森の入り口にシェレト王国の使者が待っていた。

 数名の騎士と馬車、そしてオレフさんの姿があった。


「オレフさん!」


 僕は嬉しくなって駆け寄った。


「みなさん、お久しぶりです」


 オレフさんは僕の包帯だらけの体を見て、困ったように笑った。


「……また随分と無茶をしたようですね」


 僕はバツが悪くなり、エヘヘと笑って誤魔化した。


「オレフ、お前も来てくれましたか!」


 ケセフさんたちもやってきた。


「お前がいてくれるなら、道中も安心して任せられますね」


「お任せください。必ずや無事に送り届けます」


 オレフさんはちらりとザハラを見た。


「あなたがザハラさんですね」


 ザハラはこくりと頷いた。


「長居するのも危険ですから、早速行きましょう。さあ、こちらへ」


 ザハラはオレフさんに向かって歩き出す。

 差し出された手を取ろうとして――ふと止まった。

 くるりと振り返ったザハラの目には、大粒の涙が溜まっていた。


「……これでさよならじゃないからね!……いつか必ず、アタシが書いた本の感想を直接言いに来てよね!」


「……当たり前でしょ。……必ず会いに行くわ」


 アリヤの言葉に、僕も力強く頷いた。

 ザハラも僕らの顔を順番に見て、同じように頷いた。


 ザハラを乗せた馬車が出発する。

 ザハラは身を乗り出し、大きく手を振った。


「みんなー!ありがとうー!」


 僕らも大きく手を振って応えた。


 ーーこうして、僕らはナザルアド王国を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。