第44話 護りたかったもの
【エリオルside】
僕らは北の森へ急いで向かっていた。
もうすぐ森の入り口が見える――その時。
「ダン!」
ケセフさんが叫び、足を止めた。
指差す先を見ると、森の方から騎士たちがゾロゾロと歩いてくる。
その中の一人が何かを抱えていた。それは、手足を縛られ、口に布を噛まされたアリヤだった。
「ちっ……エリオル、ここで待ってろ」
ダンは僕を木陰に降ろし、ケセフさんと共に騎士たちに向かって走り出した。
「おい!そいつを離せ!」
「なんだきさ――!」
騎士は二十人ほど。多勢に無勢のはずなのに、ダンとケセフさんは互いを守りながら、目の前の敵を次々と倒していく。
息の合った連携で、あっという間に騎士たちを制圧した。
「アリヤ!大丈夫か!」
ダンが猿轡を外す。
「っ……ダン!ケセフ!ザハラが危ない!私のことはいいから、早く小屋へ!」
二人は顔を見合わせ、うなづいた。
ダンが僕の元へ戻り、ケセフさんがアリヤを立たせる。
「アリヤさん、まだ走れますか?」
「私は平気。それより早く、ザハラを!」
僕らは森の中へ入り、ザハラの元へ急いだ。
*****
【ザハラside】
ザハラは、木々の枝をかわしながら飛ぶラヴィを見失わないように必死で走っていた。
上ばかり見ているせいで何度も枝につまずき、転びそうになる。
後ろでガサガサと音がする。
アイツがもう追ってきたのだろうか。
アリヤはどうなったのか。
振り返る余裕もなく、ただ走る。
前方に小さな小屋が見えた。
あれがアリヤたちが言っていた小屋なのだろう。少し安堵したその瞬間――ヒュッと風を切る音がした。
「あ゛っ!」
右足に鋭い痛みが走り、ザハラは地面に倒れ込んだ。
ふくらはぎには矢が深く刺さっていた。痛みでザハラの額に脂汗が滲む。
「ハハッ!やったぞ!」
茂みの奥から声がした。
ガサガサと音がして、数人の男たちが姿を現す。
無精髭の、身なりの悪い男たち。弓や剣を持っている。
「こいつが例の女で間違いないんだな?」
「ああ。騎士共が追ってた赤髪の魔女だ。こいつを差し出せば報酬も期待できる」
野党集団――ザハラの噂を聞きつけ、騎士より先に捕まえようとしていたらしい。
「それじゃあ、さっそく教会に行きますか」
男がザハラの髪を掴み、引きずろうとする。
「痛いっ!痛い!」
抵抗しても振りほどけない。
「ちょっと待て」
別の男が止めた。
「焦ることねぇだろ。どうせこいつはもう逃げられねえ。……あそこにおあつらえ向きな小屋もあるし、どうせ吊るし首だ。どうなってもいいだろ?」
男はザハラの体を舐め回すように見た。
周りの男たちも下品な笑みを浮かべる。
別の男がザハラの頬を掴み、品定めするように顔を覗き込む。
「……確かに、顔も悪くねえな。お前も、死ぬ前にいい思いしたいだろ?」
ガハハと笑う男たち。
ザハラはその手にガブリと噛みついた。
「なっ!」
男が手を離す。
髪を掴んでいた男が、ザハラの体が浮くほど強く髪を引っ張った。
「こいつ!舐めやがって!」
噛まれた男が剣を抜き、ザハラへ迫る。
「遊びはやめだ!今ここで殺してやる!」
剣が振り上げられる。
ザハラは咄嗟に目を瞑った。
――しかし、痛みは来なかった。
ザハラが恐る恐る目を開けると、両手を広げて自分の前に立ち塞がるショーメルの姿があった。
「カハッ」
斬撃を受けたショーメルは血を吐き、片膝をつく。
「なっ!こいつ、教会の騎士か!?」
困惑する野党に、ショーメルは体勢を整え斬りかかった。
斬りつけた男が倒れる。
「なんなんだこいつ!……と、とにかくやっちまえ!」
*****
【エリオルside】
「あっ」
木の根につまずき、アリヤが転ぶ。
「アリヤさん!大丈夫ですか!」
「ハァ……ハァ……平気……よ……急ぎましょう」
アリヤの体力も限界に近い。
「小屋はもう少しです!行きましょう!」
森を走り続け、小屋が見えたその時――
ダンが急に脚を止めた。
背中越しに見えた光景に、僕は絶句した。
足に矢を受けて座り込むザハラ。
その周囲には血まみれの男たちが倒れている。
一人だけ立っている男と赤髪の騎士が、互いの腹に剣を刺していた。
――相打ちだ。
赤髪の騎士が男から剣を抜くと、男は倒れた。騎士は、自分の腹に刺さった剣も抜き、地面に落とす。傷口からドプドプと血が溢れ続ける。
騎士は腹を押さえながら、よろよろとザハラへ近づいた。
「……ザハ……ラ……」
消え入りそうな声。
そのまま膝から崩れ落ちた。
「兄ちゃんっ!」
ザハラは立ち上がろうとするが、立つことができず、足を引きずりながら近づき、倒れた兄の体を抱き起こした。
「……どうしてっ……なんで……」
涙が溢れ、兄の顔に落ちる。
その時――
キーンッと耳鳴りが頭に響いた。
「う゛っ」
「エリオル?大丈夫か!」
ダンが僕に声をかける。
耳鳴りは強まり、頭痛もひどくなる。それでも僕は目を離してはいけないと思い、痛みに耐えた。
「……ふっ」
ショーメルは力なく笑い、震える手をザハラの顔へ伸ばした。
「……俺の……たい……せつな……妹……お前……だけは……護り……たか……」
手が力なく落ちる。
「兄ちゃん?……兄ちゃんっ!」
キーーーンッ!
耳鳴りと頭痛がさらに強まる。
「っ!」
「エリオル?おいエリオル!しっかりしろ!」
ダンがしゃがんで僕を背中から降ろし、抱き起こす。しかし、ダンの声はどんどん遠くなっていき、僕は気を失ってしまった。




