第41話 救出作戦
「おーい!エリオル!どこだー!」
「エリオルー!聞こえたら返事してくださーい!」
エリオルが牢屋に閉じ込められていた頃、ダンとケセフは走り去ったきり姿の見えないエリオルを必死に探していた。
陽はすっかり沈み、街は薄暗い影に包まれている。
「おい、あいつどこ行ったんだ!全然見つからねえぞ!」
「……もしかしたら、先に戻っている可能性もあります。ダンはお店を見てきてください。私はこのまま探します!」
「わかった!」
ダンがザハラの古本屋へ走る。
ケセフは声を張り上げながら路地を探すが、エリオルの姿はどこにもない。
胸の奥では嫌な想像ばかりが膨らんでいく。
ただ迷子になっているだけならいい。
だがもし誰かに誘拐されていたら――
もし騎士に捕まってしまっていたら――
命の保証はない。
焦りばかりが募る中、辺りはどんどん暗くなり、ついには真っ暗になってしまった。
その時――
「ケセフ!」
古本屋へ向かったダンが戻ってきた。ザハラとアリヤも一緒だ。
「エリオルは?!」
「これを見てくれ!」
ダンの手には一通の手紙。
ケセフはすぐに受け取り、中を読む。
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“お前たちの仲間の身柄は我々、ナザルアド大聖統教会所属騎士隊が預かっている。
生きて返して欲しければ、ザハラと粘土板を我々に引き渡せ。
期限は明日の正午までとする。
命令に背く場合、お前たちの仲間を異端者に組みする者として即刻吊るし首に処す。
ナザルアド大聖統教会所属騎士隊
隊長 ショーメル“
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ケセフは手紙をクシャッと握りつぶした。
「クソッ……私としたことが……!」
「今すぐアイツを助け出しに行くぞ!」
ダンは剣を抜き、今にも走り出しそうな勢いだ。
だがケセフが腕を掴んで制止する。
「待ってください!ナザルアド大聖統教会は、この国の聖エハド教を統治する教会。つまり、この宗教国家ナザルアド王国で最も権力が集中している場所です。無策で突っ込んでいい場所じゃありません!」
「そんなこと言ってる場合かよ!」
「それに!」
ケセフはダンの声を上回る勢いで言い放つ。
「この手紙がザハラさんの元に届いたということは、教会は我々の居場所を把握していたということです。あえて泳がせておいて、今になって手を打ってきた。……私が言いたいこと、わかりますね?」
その言葉に、場の空気が一気に重くなる。
「……でも、だからこそ救出に行くべきかも」
沈黙を破ったのはザハラだった。
「どういう意味だ?」
「手紙の差出人、騎士隊長のショーメルは、兄貴の名前だ」
「……アイツ、そんなお偉いさんだったのかよ」
「エリオルを助けるためなら、粘土板だって差し出すし、アタシもどうなっても構わない。もともとアタシが巻き込んだようなものだし。だけど……アイツがそれだけで終わるとは思えない」
「つまり……粘土板を差し出しても、エリオルの命の保証はないと」
ケセフの言葉にザハラが頷く。
「……そもそも、私たちに選択の余地はないんじゃないかしら」
静かにしていたアリヤが口を開いた。
「手紙には粘土板とザハラを引き渡せと書いてあった。粘土板はともかく、ザハラを渡すわけにはいかない。けれど、要求に応じなければエリオルの命はない。……私たちは強引にでもエリオルを取り戻すしかないんじゃないかしら」
アリヤの提案にケセフも頷く。
「粘土板だけ引き渡して交渉する手もありますが、ショーメルの様子を見る限り、甘い手が通用する相手とは思えません。……とはいえ、強襲するにしても相手はこの国の教会の本拠地。どう攻めるか……」
「……私に考えがある」
アリヤがすっと手を挙げた。
「私が教会の外で力を使って騒ぎを起こすわ。できる限り騎士たちを引きつける。その隙にダンとケセフはエリオルを救出して」
「却下だ」
ダンが即座に遮る。
「危険すぎる。お前、自分が教会にどう扱われてるか忘れたのか」
「ダンの言う通りです。あなた一人にそんな危険は負わせられません」
「……じゃあ、こういうのはどうかな!」
ザハラがパンッと手を叩いた。
「アタシは偽魔女として活動してきて、顔も割れてる。だからアタシが表立って動いて、アリヤに影から力を使ってサポートしてもらうのはどう?顔が割れてるアタシのほうが騎士を引きつけられるし、土地勘もある。なにより、一人より二人のほうが逃げ切れる確率も上がる」
「却下だっ!!」
ダンがさらに大きな声で制した。
「一人から二人になったところで、たかが知れてる!それに、そんなことしたらお前、もうこの国にはいられなくなるぞ!」
「そんなのどうだっていい!いざとなればこんな国出てってやるよ!本だってその気になればどこでだって出せるしね」
ザハラは怒りと覚悟を混ぜた声で言い返す。その勢いにダンが一瞬たじろぐ。
「じゃあせめて、俺かケセフのどっちかが陽動に付く!」
「いいや!それこそダメ!ケセフさんがさっき“教会の本拠地“だって言ってたでしょ。本丸に攻め込むのに戦力減らしてどうすんのよ!」
「だが……」
「ダン」
アリヤが静かに遮った。
「私たちの戦力には限りがある。時間もない以上、多少のリスクは覚悟しなくちゃいけない。……それに、私だってこれまで散々教会から逃げ回ってきたの。そう簡単に捕まらないし、ザハラのことも捕まえさせない。こっちはこっちでなんとかするから、二人はエリオルの救出に集中して」
アリヤは真っ直ぐダンとケセフを見つめた。
「……お前、そんなキャラじゃなかっただろ」
ダンがフッと笑う。
「……誰かさんの影響かな。私も覚悟を決めたのよ」
アリヤも同じように笑った。
「……それじゃあ、アリヤさんとザハラさんは教会の外で陽動を。私とダンは教会内部へ侵入し、エリオルの救出に向かいます。……お二人とも、くれぐれも無茶はしないように」
「ヤバくなったら後先考えずに逃げろ。いいな」
「わかってる。ダンとケセフさんも気をつけてね」
こうして――
明日、エリオル救出作戦が幕を開ける。




