第40話 迷い猫
今日もダンとケセフさんと街の人たちから来た依頼をこなしていた。
まだ本を出版する資金には足りないけど、評判は上々で、毎日いくつかの依頼が僕らのところに届く。
今日の依頼は“迷子の猫を探す”だ。
「はあ、めんどくせーなあ」
ダンが盛大なため息をつく。
「まあまあ、ザハラのためと思ってがんばろ。ちなみに、その迷い猫はどんな特徴なの?」
「えーっと、依頼人からのメモによると、性別はメス。三毛猫で、首に鈴のついたピンクの首輪をしているようです。……名前はカリコというそうです」
「猫なんてそこらにいっぱいいるだろ。似たようなの連れて行けばいいんじゃね?」
「そんなわけにいかないよ。飼い主にとっては家族なんだから」
僕はそう言って、ダンを軽く睨んだ。
「はいはい、わかったよ」
「手分けして探したいところですが、騎士に見つかる恐れもあります。固まって探しましょう」
こうして、僕らの猫探しが始まった。
「カリコちゃーん!出ておいでー!」
名前を呼んでみたり、猫がいそうな狭い路地をいくつも見てみたけど、結局夕方になっても迷い猫は見つからなかった。
「なかなか見つかりませんね」
「あー。もう一歩も動けねえ」
「これは闇雲に探すより、作戦を考えた方が良さそうですね。明日はいくつか餌場を作って巡回しましょう。……それから、家の側に戻ってきている可能性もあります。家の周りも探してみましょう」
僕も歩き疲れて座り込みながら、二人の会話を聞いていた。
明日こそは見つかるといいな――そう思った時だった。
――チリン。
どこからか微かに鈴の音が聞こえた。
辺りを見渡すが、猫の姿はない。
今度は目を閉じて耳を澄ませる。
――チリン。
また聞こえた。今度は方向がわかる。
「今鈴の音が聞こえた!こっちだ!」
僕は立ち上がり、音のした方向へ走り出した。
「!? おい、待てエリオル!」
ダンの声が後ろから聞こえたが、僕は音を見失わないように走るので精一杯だった。
鈴の音は何度か聞こえ、どんどん近づいていく。
「あ!見つけた!」
狭い路地の真ん中に、ピンクの首輪をした三毛猫がいた。側には黒白のハチワレ猫もいる。
僕は驚かせないようにしゃがんでゆっくり近づいた。
「カリコちゃーん。こっちにおいでー」
名前を呼ぶと、カリコちゃんは僕に近づいてきてくれた。
差し出した指をフンフンと嗅ぎ、僕の足に体を擦り付ける。
「カリコちゃん、捕まえた!」
僕はそっと抱き上げた。
ハチワレも近づいてきて様子をうかがっている。どうやらオス猫らしい。
「ボーイフレンドかい?なかなか隅におけないねえ」
そう言いながらカリコちゃんの頭を撫でた。
さて、帰ろうと立ち上がった瞬間――僕は足を止めた。
……ここがどこだか、まったくわからない。
無我夢中で走ってきたせいで道を覚えていないし、いつの間にかダンとケセフさんともはぐれてしまったようだ。
参ったな……と考えていると、
――フーッ。
後ろから猫の威嚇する声が聞こえた。
振り返ると、尻尾を膨らませて威嚇するハチワレ猫と――騎士たちが立っていた。
先頭には、赤髪の騎士。
ザハラのお兄さんだ。
「やあ、また会ったな」
無表情のまま、僕に声をかける。
僕はゆっくりと後退りしながら彼らを睨みつけた。
「……捕まえろ」
合図と同時に、騎士たちが一斉に迫ってくる。
逃げる暇もなかった。
僕はなす術なく捕まってしまった。
*****
「……座れ」
声がして、大人しく従う。顔に被せられていた布が取られた。
そこは牢屋だった。手は縄で縛られ、身動きが取りづらい。
後ろでガチャンと扉が閉まる音がする。振り返ると、ザハラのお兄さんが鉄格子の向こう側に立っていた。
「……殺されたくなかったら大人しくしておけ」
「僕をどうする気だ」
問いかけても、彼は答えずに去っていった。
牢の前には見張りの騎士がいる。
どうにもできそうにない。
「はあー。やってしまったな」
僕は牢屋のジメジメした床に座り込んで、何もない天井を見上げることしかできなかった。




