↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果てのアリヤ  作者: 霜月兎灯
ナザルアド王国編
PR
42/59

第38話 赤髪の騎士

 ザハラはアリヤと固い握手を交わしたあと、再び粘土板に近づいた。


「何してんだ?」


 ダンが問いかけるが、ザハラは粘土板をあちこち見たり触ったりしていて、こちらを見向きもしない。


「……これ、何とか持って帰れないかと思って」


「持って帰るのか?!」


「だって、本にできたとしても証拠がなかったら誰も信じてくれないでしょ?」


「そりゃそうだけど……」


 よいしょ、と小さく声を出しながらザハラが粘土板を持ち上げる。

 脆くなった粘土板は、かすかに軋みながら地面から離れた。


「だいぶ脆くなってるから、丁寧に運ばないとね」


 ザハラは荷物の中から大きな布を取り出し、粘土板を慎重に包み始めた。


「そのカバン、何でも入ってるのね」


「お父さんの手帳に書いてあったんだ。『遺跡には何があるかわからないから備えるに越したことはない』ってね」


 手際よく包み終えると、ザハラは粘土板をそっと両腕で抱えた。


「これでよし。……じゃあ、帰ろうか」


 僕らは洞窟を後にし、遺跡の入り口へ戻った。


 ――その瞬間。


 そこには、どこから現れたのか、大勢の騎士が僕らを取り囲むように立っていた。


「なっ……こいつら、どっから湧いて出てきやがった!」


 ダンとケセフさんが狼狽しつつも、咄嗟に剣を抜く。

 空気が一瞬で張り詰めた。


「……やはりお前だったか、ザハラ。」


 騎士たちの前に立つ男が兜を脱ぐ。

 真っ赤な髪――ザハラと同じ色。


「……兄貴」


 ザハラがその男を睨みつけながら呟いた。


「兄貴!?兄妹がいたのか!?」


 僕らが驚く間もなく、男は淡々と続けた。


「ここには近づくなと言ったはずだ。」


「アンタに指図される謂れはない」


 男は深くため息をつく。


「……その持っているものを渡せ」


「嫌だ」


「これはお前のためなんだ」


「ふざけるな!!今さら兄貴面しないでよ!アンタなんかに助けてもらわなくても、アタシは一人で生きていける!」


「……そうか」


 男が手を掲げた。


「赤髪の女を捕えろ。……その他の奴は殺しても構わない」


 男の号令と同時に、騎士たちが一斉に駆け出した。

 地面が震えるほどの足音。砂埃が舞い上がる。


「……ちっ!てめぇら逃げろ!ここは俺とケセフで抑える!」


 ダンとケセフさんが僕らの前に飛び出す。


「でも!」


「早く行ってください!」


 その瞬間――


「……アーファル・クム。砂よ、立ち上がれ!」


 アリヤの声が響いた。

 直後、背後から強烈な風が吹き荒れ、砂が巻き上がる。

 砂嵐が騎士たちを一瞬で飲み込んだ。


「うわあああ!」


「ま、前が見えない!」


 風の轟音と騎士たちの悲鳴が混じり合い、視界が茶色に染まる。


「早く逃げるわよ!」


 僕らは騎士たちに背を向け、一目散に走り出した。


*****


「ハアッ、ハアッ……ここまで来れば大丈夫ね」


 がむしゃらに走り続けた僕らは、乾燥地帯を抜け、森の中へ逃げ込んでいた。


「……すまねぇな、アリヤ。あいつらの前で力を使わせちまって」


「仕方ないわ。ああしなければ、みんな死んでたもの」


「……ごめん、こんな事に巻き込んじゃって」


 ザハラがぽつりと呟いた。

 正座したまま俯いている。


「……あいつ、ほんとにお前の兄貴なのか?」


 ダンの問いにザハラが頷く。


「……だけどアイツは、アタシたち家族を裏切ったの」


「裏切った?……どういうことだ」


 ザハラはゆっくりと話し始めた。


「……アイツは、お父さんが教会に狙われてると気づいてた。それなのに、お父さんが調べた情報を渡す代わりに教会の騎士になった。……知らせていればお父さんは逃げられたかもしれないのに。……騎士になるのは兄貴の夢だった。アイツは!お父さんの命をダシにして、それを叶えた!アイツがお父さんを殺したも同然なんだ!」


 太ももに置いた拳はギリギリと握られ、涙がぽろぽろと落ちる。


「……あんな奴、兄貴でも何でもない」


 僕らは、そんなザハラに何も言えなかった。

 重い沈黙がおりる。


 そんな中、アリヤがハッとした顔をし、沈黙を破って話し始めた。


「……でも身内に騎士がいるなら、あの古本屋にいるのは危険じゃないの?あそこが家だったのは、彼も同じでしょ?」


「……それについては、大丈夫よ」


 ザハラが涙を拭きながら、アリヤの問いに答える。


「アタシ、お父さんが死んだ後、一度あの家を出たの。思い出の詰まった家に居続けるのが辛くって……。アタシが家を出たのはアイツも知ってるわ。でも、お父さんの無念を晴らすため、真実を暴こうと決めて、あの家にまた戻ったの。戻ったのがバレないようにずっと地下室に閉じこもっていたし、これまで一度も騎士がやってきたことはないから、アイツはアタシがあの家に戻ったことに気づいてないと思う」


「そう。それならいいんだけど」


 その後、僕らは思い沈黙の中、帰路についた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。