↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果てのアリヤ  作者: 霜月兎灯
ナザルアド王国編
PR
40/59

第36話 真実の粘土板

 目の前に立ちふさがっていた壁が、轟音を立てて崩れ落ちた。

 何が起きたのかわからず、僕たちはただ呆然と立ち尽くしていた。


「……アリヤ……あなたは、一体……」


 しばらくの沈黙のあと、ザハラが震える声で口を開いた。

 アリヤは答えず、ゆっくりと腕を上げ、崩れた壁の向こうを指差す。


 暗闇の中、四角い何かが地面に置かれているのが見えた。

 僕らは顔を見合わせ、慎重に近づく。ザハラがランプを掲げて照らした。


「……うそ……」


 ザハラは粘土板の前で膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。

 地面に置かれていたのは、先ほどの壁と同じ古代文字が刻まれた粘土板だった。


 ザハラはランプをそっと置き、粘土板を抱きしめた。


「……お父さん、やったよ。アタシも見つけたよ。……まだ、終わってなかった」


 洞窟の中に、ザハラのすすり泣く声だけが響く。

 僕らは、ただ静かにその背中を見守った。


 やがて沈黙を破ったのはダンだった。


「……で、そいつには一体なんて書いてあるんだ」


 ザハラが袖で涙を拭い、こちらを振り返る。


「その前に、答えてほしい。……アリヤ。あなたは一体何者なの?」


 みんなの視線がアリヤに集まる。

 アリヤは僕らを順に見渡し、大きくため息をついた。


「……それは、その粘土板を読めばわかると思う」


 そう言って粘土板へ歩み寄る。

 ザハラが立ち上がり、場所を譲った。


 アリヤは粘土板に刻まれた文字を指でなぞり、静かに読み上げる。


「ここに我らの罪を刻む。

神の施しに倚りて畏れを失いしこと、これ人の子らが未来永劫負うべき原罪なり。

我ら、神罰を畏れ、死を忌み、神に愛されし一族の娘子を供し奉りしは、まさに我らが傲慢の極みにてあり。

汝、神に愛されし一族の末裔よ。

愚かなる我らを赦し給え。

我らが犯せし大罪、ここに記し、末代に至るまで語り継ぐことを誓う。」


 アリヤの声が洞窟に淡々と響き、再び深い静寂が落ちた。


 原罪? 神に愛されし一族?

 ……一体どういう意味なんだ?


「……えーっと……つまり、どういうことだ?」


 ダンが静寂を破る。理解できていないのは僕だけではないらしい。

 アリヤは小さくフフッと笑った。


「……だから、ずっと言ってるでしょ。私は“魔女”だって」


 意味がわからず、僕は困惑した。

 ダンもケセフさんも怪訝そうな顔をしている。


「え……アリヤが“魔女”?どういうこと?」


 そういえば、ザハラにはまだアリヤの力のことを話していなかった。


「そのままの意味よ。私は“魔女”。そして、その粘土板に書いてある“神に愛されし一族”っていうのが、エハド記に記されてる“魔女”の正体。そして私は、その生き残りってわけ」


「ちょ、ちょっと待ってよ!理解が追いつかないよ!」


 僕は、次々と明かされる事実に脳が追いつかなくて、つい声を荒げてしまった。


「確かに、アリヤは自分は“魔女”だって言ってたけど、でも、何で力が使えるのかはわからないって言ってたじゃないか!」


 そうだ。あの洞窟で過ごした夜。確かにアリヤはそう言っていた。


「……嘘よ」


 その静かな一言に、胸がギュッと締め付けられた。何とも言えない虚しさが感情を支配し、僕は思わず目を伏せた。


 アリヤが大きくため息をつく。


「……仕方なかったのよ。あなたたちに力を使うところを見られた以上、誤魔化すことはできない。だけど、まだ完全に信用していたわけでもなかったから……」


 アリヤは慎重な人だ。あの状況でそう判断するのは合理的だとわかっている。でも、頭では理解していても、込み上げてくる悲しさは止められなかった。


「ちょ、ちょっと待って!一旦整理させてくれる?」


 今度はザハラが声を上げた。


「えーっと、アリヤの力っていうのは、さっき岩の壁を壊した時のやつ?他にもそういう力が使えるの?」


「そうよ」


 アリヤはひどく冷静に答えた。


「……他にも、霧を出したり、花を咲かせたり、風を吹かせたりもしていたな。俺たちが見たことがあるのはそのくらいだ」


 ダンが補足する。


「……確かに、不思議な力を使うという点では“魔女”と言えるわね。アタシも手品で似たようなことをしていたし。……それで、“魔女”の正体が“神に愛されし一族”だっていうのはどういうことなの?……というか、“神に愛されし一族”って一体何なの?」


「それには、まず“神”とは何なのかを話さなきゃいけないわね。……教えてあげる。エハド教が興るよりもずっと昔、この世界に何があったのか」


 そう言ってアリヤは微笑んだ。

 僕には、その微笑みがどこか寂しげに見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。