第35話 封じられた門
「……ここが、父が調査していた遺跡。“ケデム遺跡”よ」
ナザルアド王国を出発して二日後、ザハラの父親が調査していたという遺跡に辿り着いた。
しかし――
目の前に広がっていたのは、低い草木がまばらに生える乾燥した大地だけだった。
「……ここが……遺跡……?」
あまりにも何もない景色に、僕は呆然と立ち尽くした。
「ね、だから言ったでしょ。何も残ってないって」
ザハラが肩をすくめる。
「でも、遺跡だってのは本当みたいだな。よーく見りゃ、残骸が残ってる」
ダンが足で地面を払うと、何かの破片のようなものが転がった。
「少しはね。ただ、アタシが前に来た時よりも減ってるみたい。……五年の間に雨風で飛ばされたんだと思う」
何もないとは聞いていたけれど、ここまでとは思わなかった。
心のどこかで“何か手がかりが残っているはずだ”と期待していた僕は、落胆を隠せなかった。
「まあ、せっかく来たんですから、辺りを少し見て回りましょう」
ケセフさんの提案で、僕らは遺跡を歩き回った。
……でも、目ぼしい成果は得られなかった。地面を掘っても出てくるのは壺や建物のレンガのかけらばかり。手がかりと呼べるものは何一つ見つからない。
「……はあ」
僕は空を見上げて大きくため息をついた。ずっと地面を見ていたせいで、腰と首が痛い。
みんなの様子を見ようと辺りを見渡したその時――
「何だあれ?」
近くの山肌が目に留まった。遺跡から少し離れた位置にある山で、草木が少なく、地形がよく見える。その中腹に、ぽっかりと暗い影があった。
なぜか妙に気になって、僕は山へ向かった。
15分ほど歩いて山の麓に到着する。暗く見えていた部分は洞窟らしい。斜面は緩やかで、登るのは難しくない。
洞窟の入り口に立ち、中を覗く。暗くて奥は見えないが、それほど深くはなさそうだ。
左手を壁に当て、右手を前に出しながら慎重に進む。
すると、右手が何かに触れた。
「……行き止まりか」
そう思って岩肌を撫でた。
……ん?岩?岩にしては妙に平らなような……。
洞窟の端から端まで手を当てて歩いてみる。
……間違いない。これは平らに加工された一枚岩だ。自然の岩ではない。
しかも、ところどころ溝のようなものが彫られている。暗くてよくわからないが文字かもしれない。
僕は急いで入り口に戻り、ラヴィに合図した。
「ラヴィ!みんなを呼んできて!」
「カアー!」
*****
しばらくして、息を切らした四人が洞窟に到着した。
「てめっ、いきなりいなくなりやがって、心配したじゃねーか」
「お説教は後で聞くから!それより明かりある?見てほしいものがあるんだ!」
「ちょっと待ってて」
ザハラが荷物からオイルランプを取り出し、火を灯す。
ランプの灯りで洞窟内を進むと、天井は三メートルほどあり、大人が余裕で立てる広さがあった。
少し進むと、平らに加工された一枚岩の壁が現れた。
中心には謎の紋様、そしてやはり文字らしき刻印が施してあった。
「……なんだこれ?」
ダンが呟く。
「ザハラ、これが何かわかる?」
「わからない。こんなのがあるなんて知らなかった。……それにこの文字。古代文字だ」
「古代文字?!」
「父が見つけた粘土板の文字と似てるから間違いない。……誰かのイタズラとは考えにくいから、ケデム遺跡と同時代、あるいは関連するものだと思う」
「なんて書いてあるんだ?!」
「ちょっと待って……」
ザハラは荷物から分厚い本を取り出し、壁と見比べながらページをめくる。
「これは、父が作った古代文字の辞書。アタシも古代文字は読めないから、調べないと……」
「じゃ、じゃあ、この紋様は?!何か意味があるのか?!」
「うるさい!今調べてるってば!」
その時――
「……汝、光を畏れ、影を愛し、道を歩む者。
汝の血が真であるならば、道は開かれん。
門は、ただ一つの血脈にのみ応える。
開かれし道が正しき先へと続かんことを」
少し後ろで様子を見ていたアリヤが、静かに読み上げた。
全員が一斉に振り返る。
「……アリヤ、古代文字が読めるの?」
僕の問いに、アリヤは答えず、ゆっくりと両腕を前に出し、手で三角形を作った。
「ソゲール・プタ・リ。道を閉ざす者よ、我に開け」
その瞬間、壁の紋様が青白く光り――
ガラガラガラッ、と壁が一気に崩れ落ちた。




