第34話 古代への道
ラヴィの後を追って、ダンとアリヤが辿り着いたのは街外れの古本屋だった。
中に人の気配はなく、どう見ても営業している雰囲気ではない。
「……ラヴィ、本当にここで合ってんだよな?」
ダンが思わず確認したその時、ガチャッと扉が開き、エリオルが顔を出した。
「ダン!アリヤ!待ってたよ!」
*****
「紹介するね。彼女が僕らに協力してくれるザハラだよ」
僕は、店に到着したダンとアリヤにザハラを紹介した。
「私はアリヤ」
「ダンだ」
顔合わせの後、僕は昨日あった出来事、ザハラの過去と今の目的を話した。
「……なるほど。確かに、私たちとあなたの目的は一致してるわね」
「でも、状況としてはほとんど変わってないと言っていい。アンタも“最果ての地”って言葉の意味までは知らないようだし……アンタの親父が見つけたっていう粘土板に何が書いてあったのかはわからないのか?」
ダンの問いに、ザハラはフルフルと首を横に振った。
「粘土板も、内容を詳しく記した資料も、全部教会に持ってかれちゃったから断片的にしかわからない。……アタシが知ってるのは、今のエハド教の元になった宗教があること。その宗教は、今の支配者層の都合の良いように改竄された可能性があること。そして、その鍵が現エハド教に記されてる“魔女”にあるかもしれないこと。……それだけよ」
「……なんだか、ずっとモヤがかかってるみてえにはっきりしねえな。全てが憶測の域を出ねえ」
「何か一つでも決定打になることがあれば、そこから広げられそうなのですが……」
沈黙が降りる。ヒントとなるピースは揃っているのに、それを繋ぐ“何か”が足りない。
「……ザハラは、お父さんが調べてたっていう遺跡の場所はわかるの?」
「ええ、父が残した地図があるから場所はわかるよ。でも、アタシも何か残ってるかもしれないと思って行ってみたけど、徹底的に壊されていて、本当に何も残ってなかったわ」
「……それでも、僕もその遺跡を見てみたい」
「良い考えかもしれないですね。その時は見つけられなくても、違う人物、違う視点で見れば見え方が変わることもありますし」
「行っても無駄だと思うけど……まあ、でも、今は手がかりもないし、ダメ元で行ってみるか。……でも、遺跡はナザルアド王国の外にあって少し離れてるから、多少の準備が必要よ」
「はあ!?王国の外にあるのかよ!?」
ザハラの言葉にダンが驚きの声をあげる。それもそうだ。一昨日、やっとの思いで密入国を果たしたばかりなのに、また外に出て同じことを繰り返すなんて、僕だってごめんだ。
「……何?何か問題でもあるの?」
僕らの嫌そうな顔を見て、ザハラが不思議そうに尋ねた。
「じ、実は私たちにも少々込み入った事情がありまして……その……正規の入国者じゃないのです」
ケセフさんが説明すると、今度はザハラが怪訝そうな顔をする。
「え……アンタたちヤバい奴なの?もしかしてアタシ、協力する相手間違えた?」
「いや……そういうわけでは……」
ケセフさんが言葉に詰まると、ザハラはアハハッと笑った。
「冗談だよ。今さら協力解除しようなんて言わないし。……アタシは真実を知るためなら何でもやる。たとえ、それが危ない橋を渡るようなことだとしてもね。……安心して、門を通らずに国外に出る抜け道なら知ってるから」
こうして、僕らはザハラの父が調査していたという遺跡に向かうことになった。
この日は、ザハラとケセフさんが遺跡調査の準備の買い出しに行き、僕らは古本屋で留守番をしていた。
「……あの娘には、どこまで話したんだ」
二人が出かけた後、ダンが尋ねた。アリヤは本棚から勝手に本を取って読みふけっている。
「僕に聞こえる声のことは話したけど、それ以外は何も。もちろん、アリヤの力のことも話してないよ」
「アイツ、魔女のフリしてたって言ってたよな。一体どうやってたんだ?」
「手品だって言ってたよ。最初から仕込みをしておいて、それっぽく見せてたって」
「んだよ……」
ふと、僕はアリヤの方を見た。アリヤはいつも静かだが、ここに来てから少し様子がおかしい気がする。
「……アリヤ……大丈夫?」
「……何が?」
アリヤは本から顔を上げずに答えた。
「いや……その……ザハラが偽の魔女だったから……落ち込んでるんじゃないかって……」
僕がそう言った瞬間、アリヤはハハッと笑った。
「まさか。……これまで私と同じような力を使う人はいなかった。……これからも、現れることはないわ」
そう言ってアリヤは、また視線を本へと戻した。
翌日、準備が整った僕らは遺跡へ出発した。
ザハラが案内した“抜け道”は国の南側、城壁が続く場所だった。
「おいおい、本当に抜け道なんてあるんだろうな」
「まあ、任せてよ」
壁沿いに西へ歩くと、壁の一部が崩落し、茂みに隠れるように穴が空いていた。
その穴を潜る時、ザハラが僕らに向かって「ほらね」とウィンクした。
そこから南へ進む。最初は森の中だったが、次第に木々が少なくなり、乾燥した地域へと変わっていく。
そして――遺跡は突然、目の前に現れた。
王国を出発してから二日後のことだった。
「……ここが、父が調査していた遺跡。“ケデム遺跡”よ」




