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最果てのアリヤ  作者: 霜月兎灯
ナザルアド王国編
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第33話 残された言葉

「“世界の果て”って言葉は、アタシの父が残した言葉なの」


 ザハラはそう言って、一冊の古びたノートを僕らに差し出した。


「これは父のノート。……ほら、ここ。殴り書きで“世界の果て”って書いてあるでしょ」


 言われて覗き込むと、確かに“世界の果て”と書かれ、その周囲が何重にも丸で囲まれていた。


「……実はアタシも、この言葉の意味はまだわからないんだ。だからアンタたちからその言葉が出た時、本当に驚いた。なんで父しか知らない言葉をアンタたちが知ってるのかって」


「お父様は、今どちらに?」


「……父は……死んだよ。いや、殺されたんだ。……教会に」


「教会に?!どうして……」


 僕は思わず声を上げた。


「アタシの父は考古学者だった。各地の遺跡を調査して、この世界の歴史を探究していたんだ」


 ザハラはベッド脇に置かれた写真を手に取った。

 そこには、スコップを片手に土まみれの顔で笑う男性が写っていた。

 その笑顔は、とても楽しげで、優しさが滲んでいた。


「ある遺跡を調査した時、父は一つの粘土板を見つけた。そこには、エハド教が成立するより前の時代のことが刻まれていた。今アタシたちが学んでいる歴史や神話とは矛盾する内容がね。……それから父は、遺跡の調査にのめり込むようになった。“教会は歴史を隠している。遺跡を調べれば真実がわかるかもしれない”って、いつも言ってた」


 ザハラは深く息をついた。


「父は調べたことを本にまとめようとしていた。……でも、それを教会に勘づかれた。父は捕らえられ、裁判にかけられ……処刑された。5年前、アタシが13歳の時だった。……今でも夢に見るよ。広場で、縄を首に括られた父が落ちていく姿を」


 声が震え、写真に涙が落ちる。


「父が死んだあと、父が見つけた粘土板も、調査していた遺跡も、全部教会に壊された。残ったのはこの手帳と、父が書斎として使っていたこの地下室だけ」


 ザハラは涙を拭い、悔しさを噛みしめるように唇を噛んだ。


「アタシの母は、アタシを産んですぐに死んだ。だから父は、男手一つでアタシを育ててくれた。それなのに教会は、父も、父の生きた証も、全部奪っていった。……だから決めたんだ。そんなに隠したいなら、全部暴いてやるって。アタシが父に代わって、真実を白日の下に晒してやるって!」


 ザハラは袖で涙を拭い、少し照れたように笑った。


「……みっともないとこ見せちゃったね」


 写真をそっと元の場所に戻す。

 僕は胸が締めつけられ、言葉が出なかった。


「……それからは、残された資料を必死に調べる毎日だった。幸い、ここには本にする予定だった原稿がいくつか残っていた。そこに書かれていたんだ。“魔女は本当は存在しない。あるいは全く別の存在だったのでは?”って」


「それってどういうこと!?」


 僕は思わず顔を上げた。


「アタシにもわからない。ただ、資料も調べ尽くして、新たな手がかりもなかったアタシは、賭けに出た。魔女のフリをすれば、父のように真実に気づいた誰かが反応するかもしれないって思ったの」


「だから、魔女のフリを……」


「今までは空振りばかりで、教会の犬どもに追われる日々だったけど……今日、ようやくアンタたちが釣れた」


 ザハラはニヤッと笑った。


「どうやら、アタシたちの目的は同じみたいだし、協力しない?」


*****


「……遅ぇなあ。何やってんだあいつら」


 作業小屋の壁にもたれながら、ダンが今日何度目かの同じセリフを呟いた。


「もう日も暮れて真っ暗だし……何かあったのかしら?」


 暖炉の鍋をかき混ぜながら、アリヤが言う。


「ケセフの野郎がついてんだ。やられるこたあねえと思うが……」


 その時、コンコンとドアが叩かれた。


「帰ってきたのかしら」


 アリヤが立ち上がるが、ダンが制した。


「待て、俺が出る」


 ダンが剣を手にドアへ向かう。


「ケセフか?」


「………」


 返事はない。代わりに、またコンコンと叩く音。


 ダンが勢いよくドアを開ける。


「カァーッ」


 そこにはラヴィがちょこんと立っていた。手紙をくわえている。


「なんだ……ラヴィか……」


 ダンは大きくため息をついた。


「手紙か?」


 ラヴィから手紙を受け取り、読み上げる。


“連絡が遅くなってすまない。私もエリオルも無事だ。帰り際、ちょっとしたトラブルに巻き込まれてな。だが、おかげで有力な情報と協力者を得ることができた。詳細は合流してから話す。私たちがいるところまではラヴィが案内してくれる。昼間の街は人通りが多い。明日、人混みに紛れて移動する方がいいだろう。くれぐれも見つからないようにな。ーーケセフ“


「野郎からの手紙だ。有力な情報と協力者って……信頼できる相手なんだろうな」


 アリヤは息をつき、首を横に振る。


「会ってみないことにはなんとも言えないわね。……でも、あの二人が信頼してる相手なら大丈夫だと思うけど」


 翌朝、二人はラヴィに続いて街を歩いていた。

 街は人通りが多く活気に溢れていたが、ナザルアド王国や教会の騎士もあちこちにいた。


 二人は注意深く周囲を見ながら、ラヴィの後を追った。

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