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最果てのアリヤ  作者: 霜月兎灯
ナザルアド王国編
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第32話 赤髪の魔女

第32話 赤髪の魔女


 ハアッ、ハアッ、ハアッ。


 狭い路地を右へ左へと駆け抜ける。追っ手がしつこく、なかなか振り切れない。

 さっき転んだ時に足を挫いたらしく、ズキズキと痛む。それでも足を止めるわけにはいかない。


「あっ……しまった……!」


 痛みに気を取られ、袋小路に入り込んでしまった。

 引き返そうとした時にはもう遅く、騎士たちが続々と路地に集まってくる。


「ついに追い詰めたぞ、魔女め……!」


 剣を構えた騎士たちがじりじりと迫る。背中が壁に当たる。

 まだ捕まるわけにはいかないのに……!


 その時――


「なんだ!? うわあー!!」


 騎士の後方で悲鳴が上がった。

 見ると、騎士たちが次々と宙を舞い、地面に倒れていく。


「何事だ!」


 騎士を薙ぎ倒しながら近づいてきたのは、外套のフードを深く被った金髪の男と少年だった。

 その少年には見覚えがある。さっき逃げる途中でぶつかった少年だ。


「貴様ら、一体何者だ!」


「私たちもそこの女性に用があります。悪いが、ここは退いてもらう」


「魔女の仲間か?……ええい、構わん! この魔女以外はどうなってもいい! 斬り捨てろ!」


 騎士たちが一斉に斬りかかる。

 しかし、多勢に無勢にも関わらず、金髪の男は少年を庇いながら次々と敵を倒していく。

 ……あっという間に、追っ手の騎士たちは全員地面に転がっていた。


*****


「……あの、大丈夫ですか?」


 壁際に立つ赤髪の女性に声をかけた。

 僕らが追いついた時、彼女は捕まる寸前だったが、なんとか間に合った。


 そっと近づくと、女性は僕を鋭く睨みつけた。


「……アンタら、何者? アタシに用があるってどういうこと?」


「不躾に失礼しました。ですが、私たちはあなたの敵ではありません。あなたは彼らに“魔女”と呼ばれていましたね。その理由をお聞きしたいだけです」


 ケセフさんが剣を納めながら答える。


「……それを聞いて、一体どうするつもり?」


「どうもしません。ただ、我々が探しているものの手がかりになるかもしれないと思いまして」


「探し物って?」


 僕とケセフさんは顔を見合わせた。

 確かに、何者かもわからない彼女に情報を渡すのはリスクだ。


 でも――僕には確信があった。


 彼女が僕にぶつかった時に聞こえた声。あれは、彼女の声だ。……彼女も“真実”を求めている。その真実は、僕らが求めているものと同じだと、なぜかそう思えた。


「……“世界の果て”です」


 その言葉に、女性の目が大きく見開かれた。


「……世界の果てだって!?」


「……うっ……」


 倒れていた騎士がうめき声をあげた。

 ケセフさんは殺さず、気絶させただけだったのだ。


「彼らが起きてしまいます。ひとまず、ここから離れましょう。立てますか?」


 ケセフさんが手を差し出す。

 女性は迷いながらも手を重ねたが、すぐに痛みに顔を歪めて座り込んだ。


「申し訳ありません。失礼します」


 そう言ってケセフさんは女性を抱き上げた。


「え、ちょっ、何すんのよ!」


「エリオル、逃げますよ」


「う、うん!」


 僕らは袋小路を抜け、路地を駆け抜けた。


「ちょっと! 下ろしてよ!」


「それはできません。少し我慢してください」


 女性は暴れたが、ケセフさんは意に介さず走り続ける。


「わかった、わかったから! アタシが指示する方に向かって!」


 彼女の指示通りに細い路地をいくつも抜けると、城下町の外れにある古本屋に辿り着いた。

 店内には誰もおらず、今は営業していないのかあちこちに埃が積もっている。


「そこのカウンターの裏に隠し扉があるから、そこから地下に降りて」


 言われた通りに隠し扉を開けると、地下へ続く階段があった。

 降りると、小さな部屋が広がっていた。


 ケセフさんは女性をベッドに下ろす。


 部屋には小さなキッチン、机、本棚がぎっしりと並んでいた。


「……ここはアタシの家だよ。適当に座って」


 座ると言っても、床や椅子の上にも本や紙束が山のように積まれている。なんとかスペースを見つけて腰を下ろした。


「……その……さっきは助けてくれて、ありがと」


 女性はそっぽを向いたまま、小さな声で言った。


「いいえ、お気になさらず。……ところで、あなたは“世界の果て”という言葉を知っているようでしたね。詳しく教えていただけますか?」


 ケセフさんの問いに、女性はくるりとこちらを向き、真剣な目で見つめた。


「……その前に聞かせて。なんでアンタたちがその言葉を知ってるの?」


「……信じてもらえないかもしれないけど、僕には人には聞こえない声が聞こえるんだ」


「エリオル……」


 ケセフさんが心配そうに僕を見る。

 でも、僕に迷いはなかった。


「ケセフさん、僕はこの人を信じます」


 ケセフさんは一瞬考えたが、力強く頷いた。


 僕は女性に向き直る。


「そして、ある時聞こえたんだ。“世界の果てに向かえ”って。意味はわからない。でも、そこに行けば、なぜ僕だけに声が聞こえるのか、僕がすべきこと何なのかわかる気がして……だから向かいたいと思ってる」


 女性は僕の目をじっと見つめた。

 長い沈黙のあと、深く息をつく。


「……本当に突拍子もない話ね。でもいいよ。アンタがアタシを信じるって言うなら、アタシもアンタたちを信じる。助けてくれた恩もあるしね」


 そして、彼女は名乗った。


「アタシの名前は、ザハラ。アンタたちの名前は?」


「僕はエリオル」


「私はケセフです」


「エリオルとケセフね。……いいわ。アタシが知ってること、教えてあげる」

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