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最果てのアリヤ  作者: 霜月兎灯
シェレト王国編
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第26話 暴君の最後

 次の日、王城にてカヴォド元国王の処遇について話し合いが行われた。

 メンバーはカイ新国王、オレフさん、ケセフさん、ダン、アリヤ、僕。そして、隠れ家にいた人たちの中から数名が参加していた。


 約一時間の議論の末、カヴォド元国王の処遇は“死刑”と決まった。


* * *


 そして迎えた、死刑執行の日。

 城前の広場に設置された臨時の処刑台には、多くの国民が集まっていた。


 オレフさんに連れられて現れたカヴォド元国王は、以前の威圧的な姿とはまるで別人だった。

 虚ろな目、乱れた髪、伸びた髭。憔悴しきったその姿に、国民たちはただ静かに視線を向けていた。


 彼が俯きながら階段を一段ずつ登っていく。

 やがて処刑台に立つと、オレフさんがその首に縄をかけた。


「……最後に言い残すことはあるか?」


 問いかけに、カヴォド元国王は何も答えなかった。


 オレフさんがレバーに手をかける。

 そのレバーを引けば、カヴォド元国王の足元の床が開き、彼の体は落ちていくことになる。


 その瞬間――


 キィィィィィィン!!


 あの不快なノイズが、突然脳内に響き渡った。


「ゔっ……!」


 思わず耳を押さえてしゃがみ込む。


「エリオル!?」


「おい、大丈夫か!」


 アリヤとダンが駆け寄り声をかけるが、二人の声が遠のいていく。

 ノイズはどんどん大きくなり、頭が割れそうに痛む。


 そして――


「どうしてっ!!」


 耳元で誰かが叫んだ瞬間、意識がぷつりと途切れた。


* * *


 気がつくと、僕は暗闇の中にいた。

 立っているのか寝ているのかもわからない、ふわりと浮いたような感覚。


 やがて遠くに光が見え、その光へと体が引き寄せられていく。


 光に包まれ、目を開けると、そこは広い部屋だった。

 王冠を被った男性とドレス姿の女性が椅子に座り、近くには十歳ほどの男の子がいる。


「母上、見てくださいっ!」


「まあ、この子ったら……すごいわ!」


「我が国の将来も安泰だな」


 穏やかな笑い声が響く。


「あのー……」


 声をかけようとした瞬間、後ろから足音が近づいてきた。

 振り返ると、別の男の子がこちらへ走ってくる。


 ぶつかる――そう思ったが、男の子は僕の体をすり抜けた。


 驚いて自分の手を見ると、薄く透けていた。


「母上!ぼくのも見てください!」


 男の子は紙を差し出すが、女性は少し厳しい声で言った。


「……前よりは勉強したのね。でも、まだ足りないわ。あなたは将来、お兄ちゃんを支えなければいけないのだから」


「……頑張って励みなさい、“カヴォド”」


 その名を聞いた瞬間、僕は息を呑んだ。


 ――カヴォド元国王。


 この少年が、あの暴君だというのか。


 よく見ると、この部屋は王城の一室に似ている。

 まさか、カヴォド元国王の過去を見ている……?


 カヴォド元国王と思しき少年は、紙を握りしめ、悲しそうに俯いていた。


 すると、目の前の光景が急に霞み始め、ゆっくりと遠ざかっていった。

 驚いていると、背後から話し声が聞こえ、振り返った先はもう別の部屋だった。


 そこには、先ほどの王冠を被った男性とドレス姿の女性がいて、二人で話し込んでいた。


「カヴォドが女の子だったら良かったのに。そうすれば、貴族や他国の王家に嫁ぐことができて、いくらでもこの国の繁栄に貢献できたのに」


「そう言ってやるな。カヴォドも努力しているようだし、王の側に信頼できる者がいるのは良いことだ」


 また光景がぼやけ、視界が遠のく。

 次に気づいたとき、僕はどこかの廊下に立っていた。扉の前ではメイドたちが話している。


「第一王子の病気、なかなか良くならないわね」


「もしこのまま良くならなかったら、やっぱり第二王子のカヴォド王子が次の王様ですかね?」


「縁起でもないこと言わないでよ。でも最近、カヴォド王子は勉強もせずに遊び歩いているらしいわ。あれで王様が務まるとは思えないけど」


「国王も王妃さまもお気の毒ですね。この先どうなさるのかしら」


 また目の前が霞んで遠ざかっていく。今回はどこかへ移動せず、あたりは暗闇に包まれた。


 ふと足元を見ると、処刑台に上がったはずの憔悴しきったカヴォド元国王がうずくまっていた。


「うわあ!」


 僕は、驚いて数歩後ろに下がった。カヴォド元国王は何も反応せず、何かボソボソと言っているようだった。


「……なんなんだ、どいつもこいつも……」


 彼は誰に向けるでもなく、低くつぶやき続ける。


「兄上がいるうちは、どんなに頑張っても兄上には勝てない。それなのに、兄上がいなくなると、今度はその代わりを求められる。……ふざけるな……余は兄上の“予備”じゃない! 余は余のやり方で国を治める……そのはずだったのに……どうして……どうしてっ!!」


 顔を上げたその目は、深い闇のようだった。


「うわああっ!!」


 叫んで目を覚ますと、ダンとアリヤが覗き込んでいた。


「おい、しっかりしろ!」


「エリオル、大丈夫?」


「あ、ああ……大丈夫。心配ないよ」


 立ち上がると、二人はまだ心配そうにしていたが、僕が何も言わないのを見ると、二人もそれ以上聞いてこなかった。


 ふと辺りを見渡すと、先ほどまでいた国民たちは、ほとんどいなくなっていた。

 処刑台を見ると、カヴォド元国王の顔には黒い布が被せられ、体がゆらゆらと揺れていた。周りでは何人かの騎士が作業しており、カヴォド元国王の遺体を下ろそうとしているところだった。


 帰り道、僕は先ほどの出来事を思い返す。


 あれはきっと夢ではない。

 でも、可哀想だとは思わない。


 ――これは、カヴォド元国王が選んだ道の先にあった、当然の“結果”なのだ。

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