第25話 四人目の旅人
カイさんがシェレト王国の新しい王となった日の夜。僕らとケセフさんは、宿屋の一室に集まっていた。
カヴォド王を捕らえたあの日から、僕らは城下町の宿屋で過ごしている。隠れ家にいた人たちも、それぞれの生活へと戻っていった。
「……お前はこの国に残れ」
ダンが真剣な表情で口を開いた。その声は、いつもの軽さが一切なかった。
「俺たちは追われてる身だ。俺らの国だけじゃねえ。聖エハド教会にもだ。俺たちについてきたら、生きてまたこの国に戻れる保証はねえぞ」
「いいえ。私はあなた方に着いて行きます。……もう、決めたことなので」
ケセフさんは迷いなく言った。
「なんでそんなに俺たちにこだわるんだ」
ダンが頭をガシガシと掻き、ため息をつく。
「言ったでしょう。私は、私たちを救ってくれたあなた方の力になりたいんです」
「貸しなんざ作った覚えはねえよ。それに、お前に万が一のことがあったら、この国の奴らになんて言えばいいんだ」
「そんな心配、必要ありません。もう、誰も死なせない。……死なせたくないんです。あの時のような思いは、二度としたくない。だから、必ず護り抜いてみせます。あなた方のことも、自分自身も。騎士の誇りにかけて」
ケセフさんは、真っ直ぐダンを見つめている。その言葉の強さからケセフさんの決意が伝わってきた。
しばらく沈黙が流れたあと、ダンが深く息を吐いた。
「……そんな説得力のない格好で言われてもなあ。……エリオル、アリヤ。お前たちはどう思う」
ダンがこちらを見る。僕はアリヤをちらっと見たが、アリヤは黙ったまま。
だから、僕が先に口を開いた。
「……ケセフさんが僕らの旅に着いてきてくれるのは、素直に嬉しい。でも、ダンの言う通り、僕らと一緒に行くということは、捕まれば死、それが常に付きまということだ。やっとこの国で平穏に暮らせるかもしれないのに、そんな危険に巻き込むのは……心苦しい。……それに、僕らにも色々と事情があるし……」
そう言って、僕はアリヤをもう一度見た。ケセフさんが同行するには、アリヤの力のことを話さなければならない。
「……平穏な日常、ですか」
ケセフさんがゆっくりと口を開いた。
「この国に残れば、見かけ上は平穏に暮らせるでしょう。でも、その時点で、私は騎士ではなくなります」
「どういう……意味ですか?」
「私は必ず後悔するでしょう。なぜ、無理矢理にでも一緒に行かなかったのかと。なぜ、彼らを見捨てたのかと」
「それは――」
「分かっています」
僕の言葉を遮り、ケセフさんは続けた。
「あなた方は、たとえ私が残ったとしても、見捨てたなんて思わないでしょう。だから、これは私のエゴです。騎士としての私の幸せのために、あなた方と共に戦いたいのです」
その瞳は真っ直ぐで、揺らぎがなかった。
そのとき、アリヤが大きくため息をついた。
「……わかったわ。その代わり、私たちから言わせて。……お願い、私たちに手を貸してほしい」
アリヤは手を差し出した。
ケセフさんは一瞬驚いたが、すぐに柔らかく笑い、その手を握った。
「ああ。もちろんです」
「……おいおい、本気かよアリヤ」
ダンが呆れたように言う。
「ええ、本気よ。あなたたちも短い時間とはいえ、この人を見てきたでしょう?こうなったら説得なんて無駄。それに、戦力的にも心強いわ」
ダンは大きくため息をついた。
「わかったよ……ったく、どいつもこいつも」
「……アリヤは、それでいいんだね」
僕が尋ねると、アリヤは肩をすくめた。
「……知らない人は少ない方がいいけどね。こうなったら仕方ないわ」
そして僕らは、ケセフさんにこれまでのことを話した。
僕がカドモン王国で幽閉されていたこと。
そこから逃げ出したこと。
アリヤに助けられたこと。
アリヤの力のこと。
教会に追われていること。
僕にしか聞こえない声のこと。
ケセフさんは黙って聞き続けた。
話し終えると、ケセフさんは長く息を吐いた。
「……あなた方の事情はわかりました。信じられない話ばかりでしたが、全て真実なのでしょうね。……安心してください。今の話を聞いて、やっぱりやめたなんて言いませんし、誰かに漏らすつもりもありません」
そう言って、ケセフさんはにこやかに笑った。
こうして――
僕らの旅に、新たな仲間が加わることになった。




