第24話 新たな王
騎士団が城へ走っていくのを見届けたあと、僕らはすぐにケセフさんの手当てに取りかかった。
傷はかなり深かったが、急所は外れていて、なんとか一命を取り留めた。
手当てが終わり、混乱もようやく落ち着いた頃、捕らえた王の処遇について話し合うことになった。
「今までの国民の苦しみを思えば……処刑で決まりだろ」
ダンが淡々と口にする。
「しかし、カヴォド王には世継ぎがいません。シェレト王国の王は、最初の王から代々直系で受け継がれてきました。処刑となれば、その血筋が途絶えます」
オレフさんが静かに言う。
「だけど、生かしておいても面倒だぞ? あの王サマのことだ、また必ず騒ぎを起こす」
「カヴォド王の処遇も大事ですが……一番の問題は、誰が次の王となるのか、ということですね」
オレフさんの言葉に、場の空気が一気に重くなる。この国の貴族も、有力者も、みなカヴォド王の暴虐で失われた。王に足る血筋や後ろ盾がある者はもう残っていない。
沈黙が落ちたそのとき。
「……この国は、みんなの国なんでしょ?」
アリヤがぽつりと呟いた。
「それなら、その“みんな”に聞いてみればいいんじゃない?」
****
数日後。
僕らは再び城の前に立っていた。
目の前には、この国の国民たちがずらりと並んでいる。風が吹くたび、ざわりと衣服が揺れ、緊張と期待が入り混じった空気が流れる。
僕らは結局、次の王を誰にするか決められなかった。そもそも僕やダン、アリヤはこの国の人間ではない。だからこそ、アリヤの提案通り、国民に決めてもらうことにしたのだ。
「皆、ご足労痛みいる!」
オレフさんが声を張る。その声はよく通り、広場に響いた。
「皆知っての通り、今日集まってもらったのは、この国の次期国王を決めるためだ! ……この国の王は、最初の王の血筋が代々継いできた。しかし、カヴォド元国王の暴虐により、その地位を継ぐ者はいなくなった。だが、国をまとめる強きリーダーは必要だ。そこで、この国の誉を自らの手で取り戻した諸君らに問いたい! 次の王に相応しいのは誰なのか!」
民衆がざわめく。前代未聞の事態に、誰もが戸惑っていた。
その中で、一人の老人が手を挙げた。
「……わしから、少し良いかな?」
「アモスおじいさん!」
僕らを助けてくれたあのおじいさんだ。
「この国の最初の王は、六百年前、この地を侵略から守り抜いた者だった。その者を王たらしめたのは、皆がその勇敢さを讃えたからじゃ。……わしは今こそ、その伝説に習うべきと思うがね。暴君に逆らえばどうなるか知っていたにも関わらず、危険を顧みず捕まった者たちを逃がしていたのは誰か? 傷つけられても諦めず、この国のために声を上げ続けたのは誰か? ……わしはその者こそ、最初の王が繋いできた精神を継ぐに相応しいと思うがね」
おじいさんはゆっくりとケセフさんを見た。
「アモスさん……」
ケセフさんは驚いたように目を見開いた。
「その爺さんの言う通りだ!」
民衆の中から声が上がる。
「そうだ! 彼がふさわしい!」
「私も助けてもらった!」
「彼がいなければ、この国は終わっていた!」
声は波のように広がり、やがて一つにまとまった。
「「ケセフ国王万歳! ケセフ国王万歳!」」
「決まりましたね」
僕は笑ってケセフさんに言った。
死んだような目をしていた国民が、今は明るい顔で彼を讃えている。その光景が、胸の奥を温かくした。
ケセフさんはフッと笑い、松葉杖をついて前へ出た。
「……みなさん、ありがとうございます。こんな情けない姿の男を王に選んでくれて。……では、王として最初の仕事をしたいと思います。……私は、この王位を……カイに譲ります」
「…………えーーーーーっ!?!?」
少しの静寂のあと、みんなが一斉に叫び、広場が揺れた。
「ちょ、ちょ、団長!? 何言ってるんですか!?」
カイさんがケセフさんに詰め寄る。
「怪我して頭までおかしくなったか?」
ダンも呆れた声を上げる。
「……いいえ。おかしくなんてなっていません」
ケセフさんは静かに続けた。
「カイは、私よりも勇敢な男です。……自らの考えを改め、この無謀な戦いについてきてくれた。それは誰にでもできることではありません。皆を思う優しさと、恐怖に打ち勝つ強い心を持っている証です。そして、最後まで諦めなかった。私たちが戦っている裏で、彼もまた皆に呼びかけ続けていた。その諦めない精神が、皆さんの心に届いたのです」
ケセフさんはカイさんを見て、再び前を向いた。
「どうですか、みなさん! 彼もまた、最初の王の勇敢な精神を継ぐに足りる人物だと私は思います! そこで私は――」
「ちょっと待ってくださいよ団長!」
カイさんが慌てて遮る。
「僕に王様なんて無理です!」
「そんなことはないさ」
ケセフさんはフッと笑って言うと、国民の方に向き直った。
「みなさんの期待を裏切るような真似をして、本当に申し訳ないと思っています。……それでも私は、どうしてもやりたいことが出来てしまったんです」
「やりたいこと……?」
ケセフさんは小さく頷き、僕らの方へ向き直った。
「私が立ち上がれたのは、あなた方が騎士とは何かを思い出させてくれたからです。そして、あなた方はこの国と関係ないにも関わらず、共に戦ってくれた。……ですが、あなた方の戦いはまだ終わらないのでしょう。この国を変えてくれた英雄たちが戦い続けているのに、私だけ王の椅子にふんぞり返って座るわけにはいきません」
ケセフさんは真っ直ぐ僕らを見た。
「今度は私の番です。騎士として、友として、あなたたちの隣で戦います」
突然のことに、僕は言葉が出なかった。
そのとき、パチパチと拍手が起こり、すぐに大きな波となった。
「「英雄万歳! カイ国王万歳!」」
「えーー……」
カイさんがため息をつく。
ケセフさんはフフッと笑った。
「大丈夫ですよ。あなたは自分が思っているより、ずっとリーダーの素質があります。……それに……」
ケセフさんはオレフさんを見る。
「オレフ。あなたに一つお願いがあります。大臣としてこの国とカイを支えてくれませんか?あなたの真っ直ぐな忠誠心は、この国をまとめる力になるでしょう。……ただし、行き過ぎないように」
最後は冗談めかして言った。
「……仰せのままに」
オレフさんは跪き、深く頭を下げた。
「「カイ国王万歳! オレフ大臣万歳!」」
その日、新しい国王と大臣を称える声と拍手は、日が沈むまで絶えることはなかった。




