第17話 ぶつかる想い
アリヤに腕を引かれながら、全力で駆け抜ける。
「ま、待ってよ、アリヤ……!」
「だめ。走り続けて」
倒した騎士から奪った剣が重くて、足がもつれそうになる。息が切れ、胸が焼けるように痛い。
「はあっ、はあっ……で、でもダンが!」
「……俺ならここにいるぜ」
後ろを振り返ると、ダンが兄妹を両腕に抱えたまま走っていた。
「援護ありがとうな、アリヤ!」
「助けるのが遅くなってごめんなさい。人目につかない場所を探してて」
「いいや、十分だ! 助かったぜ!」
しばらく走った僕らは、隠れ家のある北の森に到着し、すぐに茂みの影に倒れ込むように身を潜めた。
「はっ……はっ……追っ手は?」
「な、なんとか……まけたようね」
街から全力で走り続けたせいで、僕もアリヤもダンも息が上がっていた。
しばらくして呼吸が整うと、アリヤがダンに向き直った。
「ダン、何を考えているの? あなたの軽率な行動で、作戦が失敗するどころか、みんな死んでいてもおかしくなかったのよ」
淡々とした声なのに、怒気がはっきりと滲んでいた。
「この人は悪くない!」
ダンに抱えられていた男の子が、ダンを庇うように前に立った。
「この人は、ぼくらを護ろうとして……」
言葉の途中で、男の子の目に涙が溜まっていく。
「……ぼうず、こっちこい」
「わっ」
ダンは男の子を引き寄せ、あぐらをかいた足の上に座らせた。
「……もう大丈夫だからな」
優しく頭をぽんぽんと撫でる。
「何があったの?」
僕はダンに尋ねた。
「俺たちゃあ、集合場所に向かって撤収してる最中だった。そん時に怒号が聞こえてきてな。行ってみると、こいつが妹に覆い被さってて、それを騎士がボコボコに蹴ってやがった」
ダンは一度息を整えて続けた。
「俺はみんなに先に帰るよう伝えて、騎士に殴りかかった。……どうにも見てられなくてな。そしたら、あれよあれよという間に連中が集まってきやがった。で、あのザマよ」
「……ぼくのせいだ」
男の子が、今にも消えそうな小さな声で話し出した。
「……父ちゃんも母ちゃんもお城に連れてかれて……妹がお腹が空いたって泣くから、なにか食べさせなくちゃって思って……」
言葉が詰まり、男の子は大粒の涙をこぼした。
「でもお金がなくて……それで……どうしようもなくて……ダメだってわかってるのに……お店の食べ物を……盗っちゃって……それで……」
「にいちゃん、泣かないで?」
そばにいた妹が、兄の涙を拭うように頬を撫でた。
「……泣くことなんかねえ。お前はただ、妹を護ろうとしただけだろ。お前は、立派な男だ」
ダンは優しく男の子の頭を撫でた。僕はその兄妹を見つめながら、胸が締めつけられる思いだった。こんな小さな子たちが、犯罪に手を染めないと生きられない国なんて……。
しばらく男の子をあやした後、ダンが険しい顔で僕を見た。
「……ところで、お前は何勝手な真似してんだ、エリオル」
「なに? 勝手な真似って」
「お前、俺を見るや否や、敵陣に突っ込んできただろ。なんで逃げなかった」
「だって! ダンが戦ってるのに黙って見てるわけにはいかないだろ! それに、ダンだって僕が戦えるように訓練してくれてるじゃないか!」
「ばかっ。あれはお前が自衛できるようにするために教えてんだ。先頭きって突っ込むためじゃねえ」
「そりゃ、僕はまだ弱いけど……僕だって護られるばかりじゃなくて、護れるようになりたいんだ! ダンだって、『信じてる』って言ってくれたじゃないか!」
「……いいんだよ、お前は。自分が生き延びることを優先に考えろ」
そう言って、ダンは僕の頭にぽんっと手を置いた。僕はその手を払いのけた。
「……ダンのわからずや」
そのとき、パンッとアリヤが手を叩いた。
「そこまで。追っ手も来てないようだし、今のうちに隠れ家へ戻るわよ」
僕はモヤモヤした気持ちを抱えたまま、隠れ家へと歩き出した。




