第14話 静かな開戦
「……まとまったところに水を差すようで悪いけど、どうやって戦うつもり?」
盛り上がる空気の中、ずっと黙っていたアリヤがぽつりと呟いた。熱を帯びていた空気が、一気に静まる。
「私に考えがあります」
静寂の中、ケセフさんがそっと手を挙げた。声は落ち着いているのに、不思議と場の視線が自然と集まる。
「今、この国の民は、捕まるのを恐れて表に出さないだけで、みんな心の内に不満を燻らせています。なので、そこを突きます」
「どういうことだ?」
ダンが眉をひそめて尋ねる。
「……噂話を広めるんです」
ケセフさんは、ほんの少しだけ口元を上げた。
「噂話?」
そんなことで何が変わるのかと不思議に思い、僕は尋ねた。
「はい。手始めに、小さな噂から広めていきます。直接人と話す必要はありません。側で世間話をしているフリをするだけで充分です。最初は真剣に受け取られなくても、同じ話を聞く人が増えれば、噂は自然と広まっていきます。そして、小さな噂を少しずつ大きくしていき、革命の機運を高める。……軽いマインドコントロールみたいなものですね」
ケセフさんはフフッと笑った。けれど、その目は冗談ではなく、本気だった。
「……あんた、案外えげつないこと考えるなあ」
ダンが呆れたように笑う。
「戦力のない私たちが勝機を得るには、民衆の団結が不可欠です。……人は、誰か一人のカリスマの呼びかけより、“みんなと同じ”という理由のほうが動きやすい。それに、今の騎士団は実力者のほとんどが粛清され、入りたての従士ばかりです。……蜂起した民衆を殺しにかかるような思想も力も持っていません」
「なるほどな。力で勝てないなら、数で押そうというわけか」
ダンの言葉に、ケセフさんは静かに頷いた。
「ただ、問題もあります」
一呼吸おいて、ケセフさんは続けた。声は落ち着いているが、指先がわずかに机を叩いている。
「この作戦には、時間と人手が必要です。最近は連行される人があまりに多いので、騎士団もみなさんの顔を覚えていないと思います。ですが、街の人たちは違う。みなさんの知り合いもいるでしょう。いくら接触はしないと言っても、素性がバレる危険性は高い。それに、噂を広げるのに時間がかかればかかるほど、この場所が見つかる可能性が跳ね上がる。みなさんにその危険を負わせるわけにはいかない」
辺りがシーンと静まり返る。
「そんなことを言っていては、何も始まらない」
沈黙を破ったのは、一人の青年だった。先ほど、おじいさんの呼びかけに真っ先に答えた青年だ。
「何をやるにも多少のリスクは伴う。今まで散々護ってもらったんだ。今度は俺たちが頑張る番だろう?」
青年の言葉に、周囲から「そうだ」と次々に声が上がる。
「それに、本当にヤバくなったら……また助けてくれるんだろう?」
青年が微笑みながらケセフさんを見る。
ケセフさんは一瞬だけ目を細め、胸を張って答えた。
「もちろんです。私に任せてください」
「……方針が決まったようね」
アリヤがスッと立ち上がる。ダンも続いて立ち上がった。
「よっしゃ。いっちょ、このふざけた国、ぶっ壊しに行くぞ」




