第12話 騎士道
「……総員、攻撃をやめよ!」
ケセフさんの声が響いた瞬間、騎士たちの動きがピタリと止まった。まるで時そのものが凍りついたようだった。
「……ケ、ケセフ団長?!」
静寂を破るように、騎士のひとりが声をあげる。
「なぜ、お止めになるのですか? この者たちは、工作員の疑いが――」
「この者たちは、工作員などではない」
騎士の言葉を遮り、ケセフさんはきっぱりと言い切った。
「私たちに、この者たちを捕らえる権利など……はなからない」
「……ど、どういうことですか?」
騎士が戸惑う中、ケセフさんはゆっくりと口を開いた。
「……私は、この国の騎士として務めを果たすべきだと信じていました。たとえそれが非道であろうと、国を、皆を護るためならば従わねばならないと……そう思い込もうとしていたんです」
ケセフさんは一度、苦しげに息を吐いた。
「……本当は、ずっとわかっていました。私が護っている“国”が、どれほどの犠牲の上に成り立っているのか。その犠牲に、私自身が加担していることも」
拳を握りしめる音が聞こえるほど、ケセフさんの手は震えていた。
「……怖かったんです。国のやり方に異を唱えればどうなるか……私は誰よりも知っていた。だから、自分の身のかわいさに負けて、全部見ないふりをして……“国を護る”なんて建前を並べて逃げていた。私は……騎士の風上にも置けない、ただの臆病者です」
そう言って顔を上げたケセフさんの瞳には、迷いと痛みが混ざっていた。
「……でも、この者たちは違う。騎士団を恐れ、誰も関わろうとしなかった人の墓を直してくれた。私が……最も護りたかったはずの、親友の墓を」
ケセフさんの声が震えた。
「私たちは騎士です。この剣は、国という“器”を護るためにあるのではない。その器の中で生きる、弱き者たちを護るためにある。それこそが、私たち騎士の“騎士道”だったはずです」
先ほどまで沈んでいたケセフさんの瞳に、強い光が宿る。
「……私は、もう逃げません。騎士としての自分からも、護るべきものからも」
ケセフさんは騎士たちを見渡し、静かに告げた。
「君たちの中で、私についてきたい者がいれば来なさい。ついてこない者は、速やかにこの場を離れなさい。 その選択を私は責めません。
これは命に関わることです。自分の意志で決めなさい」
そして、剣を構えた。
「ただし……この場でこの者たちを捕らえようとする者は、この私が相手だ。容赦はしない」
騎士たちは互いに顔を見合わせ、次々とおじいさんの家を後にしていった。
そして、最後に――
ただひとりの騎士だけが、その場に残った。まだ若い騎士だった。
「君は……」
ケセフさんが静かに声をかける。
「……俺は、カイといいます。最近騎士団に入ったばかりで、まだ騎士の称号もない従士です。騎士団に入った理由も……立派なものじゃありません。自分が“やられる側”になりたくなかった。ただ、それだけです」
カイさんは唇を噛みしめ、続けた。
「でも、団長の話を聞いて思ったんです。もし、自分の大切な人が危ない目に遭っていたとして……“自分のことしか考えてないような奴”に護れるのかって」
一度、深く息を吸う。
「……俺には、妹がいます。あいつには、この先も笑って、安全に生きてほしい。でも、今の俺じゃ……今のこの国じゃ……妹を護れない。だから――俺も団長と一緒に戦います。戦わせてください!」
そう言って、カイさんは深々と頭を下げた。
「……いいのかよ。もう後戻りはできないぜ?」
ダンが、少しだけ優しさを滲ませながら言う。
「……無論。もう戻るつもりはありません」
顔を上げたカイさんとケセフさんの表情には、不安の影はなかった。
まるで――夕立のあとに広がる青空のように、澄みきっていた。




