表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

第12話 騎士道

「……総員、攻撃をやめよ!」


 ケセフさんの声が響いた瞬間、騎士たちの動きがピタリと止まった。まるで時そのものが凍りついたようだった。


「……ケ、ケセフ団長?!」


 静寂を破るように、騎士のひとりが声をあげる。


「なぜ、お止めになるのですか? この者たちは、工作員の疑いが――」


「この者たちは、工作員などではない」


 騎士の言葉を遮り、ケセフさんはきっぱりと言い切った。


「私たちに、この者たちを捕らえる権利など……はなからない」


「……ど、どういうことですか?」


 騎士が戸惑う中、ケセフさんはゆっくりと口を開いた。


「……私は、この国の騎士として務めを果たすべきだと信じていました。たとえそれが非道であろうと、国を、皆を護るためならば従わねばならないと……そう思い込もうとしていたんです」


 ケセフさんは一度、苦しげに息を吐いた。


「……本当は、ずっとわかっていました。私が護っている“国”が、どれほどの犠牲の上に成り立っているのか。その犠牲に、私自身が加担していることも」


 拳を握りしめる音が聞こえるほど、ケセフさんの手は震えていた。


「……怖かったんです。国のやり方に異を唱えればどうなるか……私は誰よりも知っていた。だから、自分の身のかわいさに負けて、全部見ないふりをして……“国を護る”なんて建前を並べて逃げていた。私は……騎士の風上にも置けない、ただの臆病者です」


 そう言って顔を上げたケセフさんの瞳には、迷いと痛みが混ざっていた。


「……でも、この者たちは違う。騎士団を恐れ、誰も関わろうとしなかった人の墓を直してくれた。私が……最も護りたかったはずの、親友の墓を」


 ケセフさんの声が震えた。


「私たちは騎士です。この剣は、国という“器”を護るためにあるのではない。その器の中で生きる、弱き者たちを護るためにある。それこそが、私たち騎士の“騎士道”だったはずです」


 先ほどまで沈んでいたケセフさんの瞳に、強い光が宿る。


「……私は、もう逃げません。騎士としての自分からも、護るべきものからも」


 ケセフさんは騎士たちを見渡し、静かに告げた。


「君たちの中で、私についてきたい者がいれば来なさい。ついてこない者は、速やかにこの場を離れなさい。 その選択を私は責めません。

これは命に関わることです。自分の意志で決めなさい」


 そして、剣を構えた。


「ただし……この場でこの者たちを捕らえようとする者は、この私が相手だ。容赦はしない」


 騎士たちは互いに顔を見合わせ、次々とおじいさんの家を後にしていった。


 そして、最後に――

 ただひとりの騎士だけが、その場に残った。まだ若い騎士だった。


「君は……」


 ケセフさんが静かに声をかける。


「……俺は、カイといいます。最近騎士団に入ったばかりで、まだ騎士の称号もない従士スクワイアです。騎士団に入った理由も……立派なものじゃありません。自分が“やられる側”になりたくなかった。ただ、それだけです」


 カイさんは唇を噛みしめ、続けた。


「でも、団長の話を聞いて思ったんです。もし、自分の大切な人が危ない目に遭っていたとして……“自分のことしか考えてないような奴”に護れるのかって」


 一度、深く息を吸う。


「……俺には、妹がいます。あいつには、この先も笑って、安全に生きてほしい。でも、今の俺じゃ……今のこの国じゃ……妹を護れない。だから――俺も団長と一緒に戦います。戦わせてください!」


 そう言って、カイさんは深々と頭を下げた。


「……いいのかよ。もう後戻りはできないぜ?」


 ダンが、少しだけ優しさを滲ませながら言う。


「……無論。もう戻るつもりはありません」


 顔を上げたカイさんとケセフさんの表情には、不安の影はなかった。

 まるで――夕立のあとに広がる青空のように、澄みきっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ