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酒場の誘い3

 サクマ達が去ってから俺は店の外に出た。

 ヤクモは店の壁に背を預けながらいつも通りへらへらしながら俺を見ている。


「心配して来てくれたんですか?」

「半分は」


 半分……ならもう半分はきっとさっきの奴が知り合いだからそれを察してという事だろうか。


「さっきの相手の事を知っているようでしたけど、一体彼女は誰なんですか?」


 答えないかな……と思ったが、予想に反してヤクモは答えてくれた。


「あれは魔人シュエという鬼神将ジフの側近の一人です」


 鬼神将! なんか凄い強そうな二つ名持った奴の名前出てきた。


「一応聞きますけど強いんですよね?」

「はい、かつて大陸の半分以上を支配していた魔王の話は存じていると思いますが、その前に大陸で名が売れていた者です。強さは十分でしたが魔王の方々は奴の力を邪魔に思い大陸の端へ封じてしまいました。その位の強さです」


 魔王に一目置かれてたってわけだな。

 うん、絶対やばい奴だなそれ。


 ついでに言えばヤクモの知り合いというにはこいつ真顔だったなと思ったが理解した。

 要するに、こいつ過去魔王の部下だったそうだから、きっと封印する時にでも戦ったんだろう。

 昔なじみって言うか相手の仇敵みたいなもんじゃないか。

 相手としたら敵意倍増だな。


 それにサクマと一緒にいたという事は、あいつがその封印を解いたのか。

 多分それでガレリアに協力してるんだろう。


「アカデミー連中もあとは強そうな奴はいなそうだし、サクマさえ何とかすれば良いと思っていたのに、そこにやばい奴が二人増えたのか……」


 こっちの味方も強いのにもっと強そうな奴らが向こうに行ったなんて。

 呟いているとヤクモが楽しそうな顔で俺を見ている。


「なんですか?」

「いえ、主が困ったような顔をしているので追加でもっと良い事を教えようかと思いまして」

「良い事……ですか?」


 何だろう?弱点とか教えてくれるんだろうか。


「一応聞きますが何ですか?」

「主は勘違いされていますが、鬼神将ジフの側近は魔人シュエの他に拳王トルク、空帝ベセトがいますので増える敵は四人になります」


 なるほど、主が将なのに部下が王と帝とかいう二つ名が付いているのは良いのか……と言う突っ込みは置いとくとして。


「勿論そいつらも強いんですよね?」

「シュエとあまり変わらない位ですね。主に比べたらそうでもないですよ」


 絶対嘘。そんな二つ名ついている奴が俺より弱いわけがない。


「戦うのが楽しみですね」


 嬉しそうに笑うヤクモの隣で俺は頭を抱えた。


☆☆☆


 ガレリアへ行く貸し切り馬車の中で一人の青年が項垂れている。

 その瞳は虚ろで力がない。


 その正面では女性が窓の外をじっと見ていた。

 青年とは違いその瞳には力があるが、どこか冷たさもある。


 所々舗装されていない道を行く馬車は時々車輪が地面を跳ね、左右に揺れる。

 静寂に包まれる車内で、青年はゆっくりと口を開いた。


「僕は弱いのか……」


 うめき声のような小さい声。

 正面の女性は、聞こえているにも関わらず反応しない。

 話しかけているわけではないと分かっているのだろう。


「あんなに努力したというのに一番になったと思ったのに、この世界でも見下していた相手に負けるのか」


 青年、サクマの脳裏に日本にいた頃の屈辱がよぎる。

 目を強く閉じ、ため息をついた。


 そして、いくばくか黙ってから、下がっていた顔が上がる。

 サクマは正面に座る女性、シュエを見た。

 シュエは視線を感じながらも決してサクマを見ない。

 弱者を視界に入れたくないというように。


「なあ、シュエ」

「どうしました?」


 窓の外を見ながらシュエは応答する。


「僕は弱いのか」

「はい、雑魚です」


 即答する。

 その反応に怒ることなく、サクマは頷く。


「なら……どうすれば僕はあいつに勝てる? 努力をすればいいのか?」

「努力しても無理でしょう。努力で勝てる程実力差は拮抗しておりません」


「じゃあ何を捨てても勝ちたいと言えば方法はあるのか?」

「先ほどまで力だけでなく心も負けていた方が何か言い出しましたね」


「良いから質問に答えろよ。僕はどんな方法を使ってもあいつに勝ちたい。何か手は無いのか?」


 そういった時、初めてシュエはサクマの方を見た。


「本気で言ってるんですか?」

「本気だ。僕はどうしても負けたくないんだ」


 サクマのまっすぐな瞳にシュエは冷ややかな目で答える。


「主ジフ様に話しましょう。純粋に力を求める者を主は見捨てません。ですがもう一度聞きますがどんな手でも宜しいのですね?」


 こくん……と頷くサクマ。

 シュエは了解しました……とだけ言い、再び窓の外へ目線を戻した。

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