酒場の誘い2
人と人の繋がりに置いて価値観の相違とは避けられない物である。
寝る時、電気を全て消すか豆電球だけ残すか。
食事の際、好きな物を最初に食べるか後に残すか。
自分の今の実力は何から形成されているのか。
些細な事だがはっきりと言った。
お前の所は全く関係ないよと。
その結果がこれである。
「お前は何言ってるんだ? ガレリアにどれだけ世話になってると思ってんだ、今があるのはガレリアのおかげだろ。恩知らずも甚だしいとはお前の事だよ、それに僕より強いって冗談だろ?」
罵倒のような事を言われ続けている。
事実を言っただけなのに凄い怒ってくるんだけど、こいつ本当に何しに来たの?
俺を誘いに来たんじゃないの?
普通スカウトに来たんだから多少酷い事言われてもめげずに説得しろよ。
いやま、これも説得かもしれないけど、それに俺としても意地悪で言ってるわけじゃなくて事実を言っただけなのに。
というかこいついつの間にこんなにガレリアの事が好きになってんだろう。
そう思いながらふと服に着いているアクセサリーに目が行った。
それはどこかで見た事のある物がモチーフのアクセサリー、思わず何だそれ……と指さして聞いてしまった。
「ああ、これは正式なガレリア国民であるっていう証拠だよ。アカデミーでも貰ったのは僕だけかな。君も僕の下で頑張れば貰えるかもしれないな」
かもしれない……それって頑張っても貰えない可能性があるって事なのでは……。
あり得ない事だが、万が一俺がガレリアの為に必死に頑張ったけどそれを貰えなかった場合、結局役目を終えた俺は追放されるって事だろう。
そんなもん、誰が協力するか。
深いため息をついてから改めてサクマを見る。
「俺は今いるルグナ王国の手助けしかするつもりはない。熱心な説得は良いが諦めてくれ」
何度目かの拒絶でサクマの表情が変わった。
無言で立ち上がる。
片手に魔力が集まっていくのを感じた。
まさかこいつこんな街中で魔法をぶっ放すつもりじゃないだろうな。
周囲には一般人だっているんだぞ。
そう思ったが、そういえばガレリアは自国以外の人間はゴミ位にしか思ってないんだという事を思い出した。
「待てよ」
俺の制止を振り切って片手を俺に向けた所で。
「おい、これはどういうつもりだ。黙って見てるんじゃなかったのか、シュエ」
いつの間にか隣に立っていた綺麗な女性が細腕でサクマの腕を掴んでいる。
サクマは不機嫌そうにシュエと呼ばれた女性を睨むが彼女は怯んだ様子もなく、サクマの腕から手を離さない。
「そのつもりでしたけどね。いけませんわサクマさん。あなたへの今回の命令は彼の説得。駄目なら駄目で諦めろ……という主の命令に背くつもりでしょう?」
「背くつもりはない。だがこちらを軽く見られた。黙っているわけにはいかない」
「それで手を出すと? それこそ軽く見られるだけでしょう。何しろあなたが魔法を使った所で恐らく彼は無傷ですし」
「無傷? ふん、魔人のくせに冗談も言えるんだな」
「私は大まかにですが魔力が分かりますので。だから断言しますが彼の魔力量は人とは思えない位に絶大です。サクマさんでは勝てないと思います」
「僕でも? 馬鹿か?こいつにそんな力があるわけないだろう」
サクマは小馬鹿にするような目で俺を見て来るが、シュエと呼ばれた女性は首を振る。
「サクマさんの魔力量も人にしては相当ですが、それを差し引いても絶対に勝てません。桁が違います。まあ、だからこそ女神は我々を呼び出すようにあなたに命じたのをお忘れですか?」
「…………」
言われたサクマは俺を一度睨んでから手を下ろした。
それと同時に魔力も霧散したようで安心する。
隣の女性はそれに満足してから俺に向きかえって一礼する。
「ハヤトさんですね。お初にお目にかかります。私は雷神シフの従者である魔人シュエと申します。お見知りおきを」
「魔人?」
初めて聞いた種族名だ。
「ええ、魔族の形態の一つです。まあ、魔族と同じように考えてくれて構いません」
ソプラノボイスで話す姿は人と変わらないが、目を見てぞっとした。
その瞳は俺を見ているようで見ていない。
どこか寒気のするような冷たい目をしている。
「ふふ、怯えなくて良いですわ。今回は戦う気はありませんからね。命令も受けていませんから」
「命令を受けたら戦うんですか?」
「勿論です、主の命であれば……殺しますよ」
日常会話のように殺すというものである。
それも冗談で言っているわけではなく、きっと本気だ。
「ちなみに女神とは混沌の女神ザーラの事ですか?」
「……あれ、知ってるんですか? 私も主から聞くまでは知りませんでしたのに。――と、話し過ぎましたか、昔なじみが来てしまいましたね」
視線の先を見ると、シルクハットを頭に載せた赤目の吸血鬼、ヤクモが珍しく真顔で店の入り口に立っているのが見えた。
シュエはクスクスと笑ってからサクマの肩を叩く。
「では、この辺で。さよなら」
「はぁ……僕の誘いに乗らなかったのを後悔しても遅いよ」
それだけ言い残し、二人は店から出て行った。
その間も、いつもへらへらしているヤクモは真顔のままシュエの姿が消えるまで見ていた。




