酒場の誘い
ダンジョンから戻った俺達は、もうあそこから魔獣は現れないというと店の人たちは皆喜んでお土産をくれた。
宿に向かうと、すでに会議は終わっていたようでナルド達は戻っていた。
「僕らが頑張っている時に君達はダンジョンで遊んできたというわけか」
チクリとナルドにくぎを刺されたが、その表情は決して硬くない。
それもそのはず、聞くと同盟は無事締結された。
南の諸国連合の準備が完了次第、ルグナ王国と共に西のガレリア帝国に攻め込むという算段になったそうだ。
「リーゼが頑張ったんだ」
聞くと小さな所でまだ引っかかりがあり、決まりそうになかったのだが、リーゼ様が上手く説得して今日中に同盟まで持っていたのだそうだ。
ナルドは自分の事じゃないのに凄く嬉しそうに話していた。
成長が見れた嬉しいみたいな事を言っていて、いつから親目線になったんだろうと思ったが、突っ込むのはやめておいた。
――ともかく、これで無事ダクフマ国での案件も終わった。
数日中にはルグナ王国に帰れる。
そう思っていたのだが。
宿に手紙が届いた。
あて先は俺であり、どうして俺なんだろうと思いながら部屋で確認すると、差出人の名前を見て思わず目を見開いた。
その差出人はサクマだった。
夜。
リア様達に用事があると断って宿を抜け出した。
宿から少し離れた酒場の隅の席に行くとそいつは座っていた。
昔見た時と変わらない。
長い黒髪と細身の身体。理系大学生のような雰囲気を纏っている。
「久しぶり、来てくれるとは思わなかったけど、来てくれたんだね」
「俺も行く気はなかったけど気になったからな」
「何か頼むかい? 酒とか」
「俺は飲まない」
「まあ、僕らは身体が若返ってるしね、仕方ないか」
適当な飲み物だけ頼んで俺は正面に座った。
周囲を確認するがサクマの護衛のような人は見当たらない。
「警戒しているのかい、だが大丈夫だよ。僕は一人で来たからね」
「そうか、でこれは何だよ」
俺は手紙をサクマに見せた。
「文章の通りだよ」
手紙には久しぶりに話さないか? という言葉と、店までの地図だけ書かれていた。
「レナは元気にしているかい?」
「ああ、ガレリアから離れられて幸せそうだよ」
「ふーん、元気なら良いよ。アキラも元気かい?」
「あいつは知らない、牢屋に入ってるんじゃないか」
「レナだけじゃなくアキラまで捕まるとはね……君が倒したって本当かい? 報告を疑うわけじゃないけど、昔の君を知っている僕からするとどうも信じられなくてね」
馬鹿にするわけでもなく、本当に不思議そうに聞いてきた。
「そうだと言ったら?」
「やるじゃないか、まさか君がこんなに強くなるなんてね」
「そういえばお前は俺をさんざん限界だって言ってくれたな」
「そりゃね、あれだけ努力してあの程度の魔力量だったら限界だと思うだろう、僕が間違っていたとは思わないよ」
悪びれる様子もない。
というかこいつは世間話でもしに来たのか? そもそもどうしてこいつはここにいるんだろう。
「本題は?」
「君はせっかちだね、ま……手間が省けて良いけど」
サクマは両腕を机に載せ息を吐いた。
「単刀直入に言う、今日僕がここにいるのは君を誘う為だ。一緒にガレリアに来ないか?」
言葉に詰まっていると理由を求めていると判断したのだろう、サクマは勝手に喋りだした。
「君は確かにガレリアから追放された人間だ。でも君はアカデミー上位魔法使いを次々と倒すほどに成長した。その努力をアカデミー主席の僕は認めているよ。力がある。君が頑張ったからルグナ王国という国はレブナントさん達の目論見が外れて盟主となった。間違いない」
だが……と言葉を切る。
「考えてみて欲しい、君が成長した理由は一つ。ガレリアから追放されたからというのも間違いじゃないんじゃないかな。同時に僕らアカデミーの面々に不要だと言われたから奮起して今がある。いわば僕らやガレリアが成長させたと言っても過言じゃないと思うんだけどどうかな?」
「…………」
「僕が言いたい事は分かっただろう? 僕らは君を受け入れる準備が出来ている。今こそガレリアに来て君の力を活かそう。どうかな、悪い話じゃないと思うんだけど。勿論僕の下に付くことになると思うけどね」
手を合わせサクマは笑顔を見せる。
その表情はこれ以上ない譲歩をしている……とでも言いたげな顔だ。
俺は思わず笑ってしまった。
「来てくれるかい?」
「そんなわけないだろう」
こいつはこんなにポジティブなあほだっただろうかと首を傾げたくなった。
「お前は何を言ってるんだ。まずガレリアが俺を追放したのが俺の成長に繋がった? そんなわけあるか。死にかけたんだぞ、俺が強くなったのは俺を拾ってくれたリア様へ恩を返す為に良き師の下で頑張ったからだ。
次に、ルグナ王国が大陸東の盟主になったのだって俺だけじゃない、皆が頑張った結果だ。俺がいたからじゃない。
最後に、どうして俺が尊敬もしていない、まして自分より弱い相手の下で働かなきゃいけないんだ。あほか」
サクマの表情が固まるのを気にすることなく言ってやった。




