精霊ルートビッチ
その後のダンジョン攻略は順調に進んだ。
地下二階、三階と降りるたびにフロアは広くなり魔獣もちらほら出てきたのだが、ヤクモに対抗心を抱いたライベルがどんどん前に出て敵を倒していった。
それに呼応するようにヤクモも魔獣を進んで倒しに行くもんだから、俺は何もすることなく、ただ リア様と一緒に後ろをついて行くだけだ。
当然の事ながらダンジョンと言う割に宝箱とかはない。
あるのは壁画位の物だが、何を書いているのかはさっぱりわからん。
個人的に日本にいた頃のゲームのイメージがある為、壁画に何か関連性とかヒントがあるんじゃないかと考えながら見ているのだが、特に意味はなさそうだ。
何しろ壁画の謎を解かなければ開かない扉といったものも無いからである。
ともかく、そんなこんなでダンジョンを下に下にと向かっていくと、地下五階で大きな扉が現れた。
金属で出来た扉だ。
じっと見ているとリア様が扉をぺたりと触る。
「これは……自然に出来た扉でしょうか」
「人工物じゃないんですか?」
てっきり昔の人達が作ったものだと思っていたが。
「この遺跡を作ったのは太古の人々ですよ、流石にこの金属製の扉は新しすぎませんか?」
「確かに」
そもそもこういう金属製の類の建造物はここまでの道中で一度もなかった気がする。
じゃあ何か、誰かがわざわざ作ったって事か。
扉を開けるべく手をかけた所で、後ろからヤクモが俺の肩を叩いてくる。
「主様、開ける際はお気を付けください」
「どういう事ですか?」
「扉の向こうから魔力を感じます」
「ああ、しかも相当な魔力量だ」
続けてライベルが忠告してくれた。
俺じゃ分からないのだが二人はよくわかるものである。
まあ、二人が警告する位なら強い魔力を持った何かがいるのだろう。
「リア様、一応俺の後ろへ」
「はい」
後ろに熱を感じてから、俺は扉をゆっくりと開いた。
扉を開くと広い空間が現れた。
地面に敷かれているのは上等そうな赤の絨毯のような物。
天井からはカンテラが吊られており、壁は立派な石造りで所々に紋章のようなものが書かれている。
随分と立派だが、ここはかつて祀られていたという人物の墓だろうか?
恐る恐る入っていくと鈍い音が奥から聞こえてくる。
「誰だ、我の眠りを妨げるものは……」
血の底から響くような声、奥の暗がりからそれは現れた。
全体的に半透明な銀色の生命体だ。
幽霊にも見えるが、頭は道化師のような白塗りで顔の部分だけ赤く目立つように塗られている。何とも気持ちの悪い姿である。
「何だあれは」
「生き物……でしょうか」
「ヤクモは分かりますか?」
「私の記憶にはあんな生き物はいなかったと思いますが、雰囲気は精霊に似ていますね」
「精霊!」
思わず奴を見る。
精霊……あれが?
もう少し荘厳なイメージを抱いていたから精霊と言われても一瞬ピンとこなかった。
ぼんやり見ていると精霊はゆらゆらと揺れながらこちらに向かってきた。
「我はルートビッチ、オアシスを発見せし者。そして俗世を脱し世界の理を悟りし者。ぬ……貴様は」
精霊が俺をじっと見てくる。
「な、なんですか」
「混沌の神が遣わした邪悪な者め、ここで私が消してくれよう」
途端、奥から金属で出来た塊が飛んできた。
咄嗟にかわしたがそれは相当な速度であり、接地した地面をえぐった。
俺は大声でルートビッチに向かって叫ぶ。
「先に話しましょう! 俺は別に戦いに来たわけじゃない」
しかし、言っている傍から金属の塊が飛んでくる。
交渉の余地はなさそうだ。
「仕方ない。リア様は後ろで……最悪扉の向こうで隠れていてください」
「わ、分かりました!」
「ヤクモ、ライベル。行きますよ」
「ああ」、「御意」
ライベルやヤクモが飛んでくる物体を上手く受け流しながら進んでいく。
自分も……と小さな金属片を両手で弾いたがあまりの衝撃で強烈な痛みを感じる。
どうやら俺じゃ上手く受け流すことは出来なさそうだ。
でかいのを喰らったら流石に俺の身体でも穴が空くかも……。
「邪教徒め! こざかしい、滅びよ」
部屋中に叫び声が響く、興奮状態である。
魔法で少し大人しくするか。
金属を使うなら恐らく。
『我、現世に漂う聖霊に磁力を求む。暗弱たる漆黒の闇を一条の光が穿つ。引から斥へ斥から引へ。遠く離れた一対の虚ろな刃は終の地にて交わらん。来たれ雷の一撃』
【デナミス・ボルト】
俺がよく使っている魔法を使った。
電気なら金属を電導するだろう……そう思ったのだが。
「え……」
雷はそのままルートビッチの身体をすり抜けた。
「オラァ!」
続けてライベルが身体ごと拳を打ち付けたが。
「あん?」
ライベルはそのまますり抜けていき、それに対角線上から続こうとしていたヤクモが一歩後退する。
「効かぬ、我にはそんな物効かぬ」
構わず金属の塊を飛ばしてきた。
俺は氷やら炎やらの魔法を使ったがそれも全て空振りに終わる。
「どうして効かないんだ!」
避けながら叫ぶとヤクモがそれに反応する。
「主よ、恐らくこれは精霊で霊体だ。恐らく肉体は存在しない。よって物理攻撃ではダメだ」
魔法も効かないなら割と打つ手なしじゃないかこれ。
というか霊なら電気が効きそうだけど違うのか。
「糞、じり貧じゃねえか。じゃあどうすればいいんだ」
ライベルが受け流しながらキレている。
「私は出来ませんが、可能であれば魔力をぶつければダメージを与えられると思います」
「魔力をぶつける? 魔法とは違うんですか?」
「魔法は魔力を変換させて炎や氷に変えている物。魔力をぶつけるとはそのまま体に流れる魔力を相手にぶつけるのです」
「魔力をそのままぶつける……?」
「はぁ、そんなもん出来るか!」
ライベルがキレているが俺も理解が追いつかない。どういう事だ?
だがヤクモは意外そうな顔でこっちを見てくる。
「でもお二人は魔力を変換させないまま身体に纏わせているじゃないですか。それを塊として相手にぶつければいいんですよ」
そこまで言われたところは俺はやり方を理解した。
「馬鹿野郎、こう見えて俺は身体に留めるの苦労してんだぞ、そんな説明受けた所で一朝一夕に出来るか!」
「やっぱりそうですよねえ、私も出来れば良いのですが……」
ライベルは叫びヤクモがため息を着くが落ち着いて欲しい。
「んーと、こう……か?」
俺は手をかざし、弾をイメージしながら身体から魔力を放出した。
それはバレーボール大の淡く白く光る光弾であり。
「ぬっ!?」
高速で飛ぶそれは精霊ルートビッチの腹部を貫き、奥の壁に当たる。
「え……な……馬鹿な……」
ルートビッチは穴の開いた部分を抑えながらゆっくりと地面に倒れ込む。
「あー……なんとなくわかった気がする」
イメージと身体からポンって出す感じだ。うん。
何度か頷いてから出来ましたよ……と後ろを向くと。
ライベルは苦々しい顔をして俺を睨み、ヤクモは涎を垂らしながら笑顔で俺を見ていた。




