アルマン遺跡
アルマン遺跡はダクフマ国最古の遺跡の一つだ。
かつて今みたいにオアシスが無かった頃、砂漠で水がここにあると言い当てた者が預言者として信仰の対象になっていた。
彼の死後、敬意を表し巨大な墓として人々が作ったのがこの遺跡の成り立ちである。
最も、彼の墓建設から十数年後、ぽつぽつと水源が生まれ、色んな所でオアシスが生まれたので、 ひっきりなしに参拝に来ていた人々の足も止まり、信仰自体廃れてしまったのだが。
買い物の時、アルマン遺跡に行くと言ったらそんな話を店の人にされた。
ついでに忠告も受けた。
遺跡に行くにしても騎士様を連れて行きなさいと。
もっとも、リア様は隣に立っていた俺の袖を掴んで、私には最強の護衛がいますから大丈夫ですと力強く言ってくれた。
そう、リア様の隣は俺の物だ。ライベルには渡さないぞ。
ともかく、準備を整えた俺らは遺跡に向かった。
遺跡は石造りの割と立派な建造物だ。
所々蔦が巻き付いていたり、柱のてっぺんが崩れていたりするものの原型を留めている。
表層部は特に何もない、単なる遺跡……という感じだが。
「主様」
先行していたヤクモに呼ばれて行くと、遺跡の奥に地下への階段を見つけた。
「中は薄っすらと光っていますね」
「光る苔が所々にあるみたいです、中は魔力の濃度が高いので魔力を吸って苔が変化したのかもしれません」
「これをノーザンラントに持って帰っても駄目という事ですか?」
「ノーザンラントも魔力濃度が低いわけではありませんが無理でしょうね、少し経てば元の苔に戻ってしまうと思います」
「そうですか、仕方ないですね」
ノーザンラントは基本的に夜の明かりは松明だよりなのでもう少し便利にしたかったのだが、なかなかうまくいかない物である。
いや待てよ。
「魔力が濃いという事はこの階段を下りたらすぐに魔獣と出くわす可能性も?」
「十分にあるでしょうね」
俺はリア様の方へ振り返った。
「リア様、本当に行くおつもりですか? いや、行くなとは言いませんけど、魔獣がいるんですよ」
俺の物言いにリア様は俺の袖を掴む。
「私を護る自信が無いのですか?」
「いえ、命に代えても護りましょう」
「では参りましょうか」
俺達は階段を下りて行った。
階段は思ったより長かった。
地下一階の通路は広く、天井も思った以上に高い。
壁を叩くが反響音は無い。
恐らく壁の向こう側は土の地面があるのだろう。
もし魔獣と戦うことになって壁に当たったとしても崩れることはなさそうだ。
それから暫く歩いていると、低い唸り声と共に大きな獣が現れる。
赤い体躯、身体は数メートルはあるだろうか、頭から背中にかけて白い体毛が生えており、口は尖った牙が沢山ある。
恐らくかみつかれたら身体に無数の穴が空く事だろう。
「レオデュラゴに似ていますね……」
「ヤクモ知ってるんですか?」
「猛禽類の魔獣です、魔力で変化したのでしょう……一匹でも小国の騎士団程度であれば壊滅させられる位に危険な魔獣ですね」
やばいじゃん、何でそんな奴がここにいるんだよ。街と遺跡はそう遠くないぞ。
「とはいえ、この魔獣は一定距離から動かないのでレトまで行くことは無いでしょう。それにこの魔獣が街に出る可能性は絶対にありません」
「絶対ですか?」
「絶対です、何故なら」
言葉の直後、一瞬姿を消したヤクモがシルクハットを抑えながら魔獣の後ろに立つ。
「こいつはもう死んでいますからね」
見れば頬に鮮血が飛んでいる、右手の先からはポタポタと血がしたたり落ち、魔獣は小さなうめき声と共にズウウン……と身体を地面に墜ちる。
見れば胸のあたりに穴が空いている。
ヤクモは手の中でびくびくと跳ねている赤い塊を口に含んだ。
「下賤な獣ですが味は悪くないです」
どうやら一瞬でヤクモは獣の身体を穿つ一撃を放ち、心臓を奪ったようだ。
ギリギリと隣で歯ぎしりが聞こえてくる。
「おもしれえ……」
ボソッと呟きながらライベルが血走った目でヤクモを見ている。
もし喧嘩になったら止めなきゃ……なんて考えていたが、ヤクモはおやつを食べながら先に向かい、ライベルは無言でそれについて行く。
「ハヤトさん顔色悪いですけど大丈夫ですか?」
「え、あ、はい大丈夫です」
ダンジョンだからリア様が危険だと思ってたけど、これ一番危険なのはあの二人の仲裁に入らなきゃいけなくなりそうな俺かもしれないな。
少しだけ胃に痛みを感じながら二人を追いかけた。




