領主である理由
ガレリアの仕掛けたルグナ王国包囲網。
集中攻撃を防ぎ切ったルグナ王国に様子を見ていた更に外側の国々は雪崩を打って従属を誓って来た。
かつて東方の覇者と呼ばれたルグナ王国の復権である。
女王であるリーゼは攻めてきた国の代表を厳格に処罰し、後始末に追われていた。
例えばウェルス公国ではウェルス公の息子を新しい国主とし、牢に入っていたベルーガ将軍を後見人にしたり……などである。
王都では忙しい日々を送っている中、俺はと言うと。
「君もいい加減仕事をしたらどうだい!」
「ええ……」
ナルドに怒られていた。
無事にノーザンラントに帰ってきたわけだが、正直言って何も変わっていない。
あえて言えば褒美でまた領土が増えた位だが、別に領土を貰っても全然嬉しくない。
だって、西に延びた所で死霊の森があるからそれより先に街なんて作っても森に入れないから道も作れない、街作っても往来を作れないから意味が無いし、ウェルス公国側に村ごと土地を貰ったけど そこまでの道が険しくてそちらもそちらで旨味が無い。
既存の土地が十分広いし良すぎるせいか全く嬉しくないのだ。
むしろ既存の土地を開発していった方が遥かに良い説まである。
亜人種も多いしね。
「ねえ、ナルド」
「なんだ?」
「ナルド、俺の代わりに領主になりません?」
書き物をしている手がピタリと止まる、そしてすぐに同じ速度で動き始めた。
「どうしてだ」
「俺よりナルドの方が領主に向いているように思えるんですよね」
これは本当だ。
ナルドの方が何かと物を知っているし実務能力もある。
なんだかんだノーザンラントに住んでいる人々の信頼も厚い。
戦いになっても用兵だけならナルドは相当なものだ。
どうせ俺作戦とか立てられないし、ただ突撃するだけだし。
「急に自信でもなくなったのか?」
「いえ、いつも俺仕事してないってナルドに怒られてるなと思って」
「ふん、僕が領主か……確かにそれも選択肢の一つだろう」
「でしょう?」
「だが却下だ」
「ええ」
逆にどうして……と見ていると書類へのサインを書き終えたナルドが顔を上げる。
「君が領主の方が最善だからだ。確かに君はハーゲンやケルンと違って内政とか出来ないし書類作業も僕より遅いしデフと違って木材で細かな仕事も出来ない、作戦指揮も出来ない」
「そうでしょう」
「だがそれ以外は君じゃなきゃ出来ない。まず仕事が出来るハーゲンやケルンは君が領主じゃなければどこかへ行くだろうし、ライベルやフェイル、ヤクモもそうだが僕じゃ抑えられない。デフもリア様の所へ戻るだろう。君は何かというと自信がなくなるようだが昔何かあったのか?」
「え……無くはないですけど」
なんだかんだ言って俺、この世界に来るまではほとんど評価とかされなかったし自分の思い通りに物事が運ぶことも無かったからね。
「それにもしリア様とリーゼが仲違いしたとしよう。僕はリア様を尊重しつつもリーゼ側に立つかもしれない。主はリア様だがその上の主はリーゼだからだ。でも君は同じ立場になっても僕と違ってリーゼの味方にはならない。違うか?」
「まあ……そうですけど」
ナルドがふっと笑う。
「馬鹿な事を言うな。僕だって君が領主でなかったら領主どころか副領主すら断っている所だ。自信を持て」
したたかに右胸を叩かれた。
ナルドとの会話の後、俺はリア様に呼ばれた。
ヒューネルのリア様の屋敷の応接室に入る中にはリア様とリヒトが待っていた。
「わざわざここまでお呼び立てしてすいません、人づてでは話せない内容でしたので」
「はぁ」
何か大事な用件だろうか。
思い当たることは無いなと思っているとリア様がおもむろに話始めた。
「大陸東は現在ルグナ王国が盟主となりほぼ手中に収めています」
「そうですね、実質そんな感じです」
「ですがガレリアは現在北の大国カナリア国が率いる北国連合国に攻め入っており、恐らく勝つでしょう。北まで取られてはルグナ王国がいかに東を制した所で太刀打ち出来るかと言うと難しいです」
「はい」
「そこでリーゼ様は大陸南の諸国と同盟を結び、ガレリアに対抗しようと考えました」
「あー……なるほど」
確かに大陸南の国々が味方になればガレリアに対抗出来るか。
でもそれが今回俺が呼ばれたのと何の関係が?
「そこで、大陸南の諸国の代表であるダクフマ国へ行く事になったのですが、キース家と共にローファス家……私が呼ばれています」
「リア様が? 失礼ですが有力貴族が他にいるのでは?」
言っちゃあれだがローファス家は元々辺境伯であり、ルグナ王国内の序列的にも決して上位ではない。政治にもほとんど関与していないし発言力はあまりない。
はっきり言ってローファス家より力のある貴族はもっとあると思うのだけど。
「長年ルグナ王国を支えてきた双璧の一つ、イズールド家亡き今。王家としては新しく王家を支えてくれる家を台頭させたいのです」
ええ、つまりイズールド家の代わりとして国の中核をなす家としてローファス家に白羽の矢が立ったと。前回のイズールド家クーデターで上げた名で成長株とか思われたのだろうか。
「リア様ってそんなに期待されてるんですね」
「いえ、私と言うか私の家臣団……いえその……特に私のハヤトさんが……」
途中からぼそぼそ声で良く聞こえなかったのですが。
「お嬢様、最後ははっきりと言っても宜しいかと」
「……リヒト!」
顔を赤くして怒っているが冗談でも言ったのだろうか。
もし冗談だとしたらもう一度聞き返すのは失礼になるな。
「とにかく! 私と共にハヤトさん、そしてナルドと他にも戦える人達を連れてきてください。一応同盟に向かいますが敵地は敵地ですから」
「畏まりました、すぐにノーザンラントへ戻り準備をしてきます」




