天才
リア様が久しぶりにノーザンラントにやってきた。
「久しぶりです、忙しかったんですか?」
「はい、もう聞いていると思いますが仕官希望者が沢山いましたのでその人選選びをしていました」
「それはそれは、お疲れ様です」
「いえ、ある程度を行ってからあとは副領主に任せてきましたので」
副領主? はて……と首を傾げる。
俺が分かっていないと思ったのだろう、リア様はクスっと笑った。
「リヒトですよ、ハヤトさんがナルドさんを副領主にしてこき使っているのを見て私も真似しました」
「こき使ってなんて言葉が悪いですよ」
「いえ、合ってますよ。僕はこいつにこき使われてます。副領主って言葉に釣られてしまったばっかりに……」
「ナルドは頼りになりますから、何でも任せてしまうんですよ」
「む……なら仕方ないか」
ナルドは相変わらずチョロい。
「ところで、ハヤトさん。久しぶりですし少し歩きませんか?」
リア様が流し目を送ってくる、何か話したい事でもあるのだろうか?
視線を送られて断る理由もない。
「分かりました。ご一緒します」
二人で街を歩く。
二人で……と言うのは王都以来だがあの後すぐにリーゼ様が来たからな……。
なんて事を考えているとリア様がちらっと俺を見てきた。
「ハヤトさん」
「はい?」
「改めて、王都では有難うございました」
「いえ、俺はやるべきことをしたまでです」
「それでもあの時助けに来てもらえなかったら私は……」
「…………っ!」
突然手を握られた。
驚き隣を見るとリア様は耳まで真っ赤になっていて。
「初めては好きな人とが良いですし、なにより……」
そっと身体を寄せてきた。
その温かさは俺に伝わってきて、俺まで赤くなってくる。
温度だ、これは温度が移ったせいだきっと。
何も言えず黙っているとリア様はさっと離れた。
「すいません。人も見ているというのに失礼しました」
「え、あ……いや。その大丈夫……です」
何が大丈夫なんだろう、でもこういうの経験無いからどういう反応をすればいいのか分からない。
はっはっは、俺もですよ! とか言って肩を抱けばいい?
流石にリア様にウザ……って言われそう。
表情に出さないようにしながらも頭の中でどうしよう……という言葉がぐるぐる回っていると、いつの間にか俺の部屋の近くに来ていたようだ。
「落ち着いて話をしたいので少し休憩しませんか?」
リア様が暗に部屋で話しましょうと言ってくる。
これはどういう意味で取ればいいんだろうか? 俺はどうしたらいい?
「そ、そうですね」
え、何この雰囲気。おかしい、確かに夕方ではあるけどそういう展開になるにはまだ暗くないよ? そういうのは深夜枠で始まるものじゃない?
なんて脳内で突っ込みを入れながら俺は扉に手をかける。
ドクン……という心臓の音が響く。
ほう……とリア様の息が聞こえた。
扉を開いたら、もしかしたら……。
関係が変わるんじゃないか、そんな感覚が身体を駆け巡った。
『ガチャッ』
扉を開けると。
「おお、お帰り。美味しい土産を買ってきたから食べよう」
ミスミさんが寛いでいた。
いやまあ、なんかこんな感じになるんじゃないかと知ってたけどね。
「……美味しい」
「確かに、美味しいですね」
「ふふ……わらわの名采配だな」
現在俺達は三人でミスミさんの持ってきた食べ物を食べている。
扉を入る前は緊張したものの、中の空気に拍子抜けしてしまい。
結局普通に寛ぐことになった。
夜、暗くなるとミスミさんは酒を飲みながらリア様と旅の話をしていて、旅をしたことのないリア様は興味津々と言った様子で聞き入っていて。
俺は昨日の疲れもあり、気付けば先にベッドで眠ってしまっていた。
☆☆☆
「ああ、ハヤトさん眠ってしまいましたね」
ベッドで横になりながら一緒に話を聞いていたはずだが、すっかり寝息を立てている。
「昨日、久しぶりにしごいたからな、疲れていたんだろう」
「昨日ですか?」
「ああ、やっぱり自分は近接戦闘があまり強くないとぼやいていたからな、少々手入れをしたまでよ」
「ミスミさんは本当に強いんですね。ハヤトさんの言う通りです」
「む? 言う通りとは?」
「ミスミさんは凄い、自分より遥かに強いってよく言ってますよ」
「そうか……」
ミスミは嬉しそうに頷いてから少し考えるように上を見る。
そしてちらっとハヤトさんに目をやり、眠っているか確かめた。
「……ハヤトはわらわを褒めるが実のところわらわだってこいつの事は認めている」
「そうなんですか?」
「うむ、普段こいつは卑屈だろう?」
「卑屈……なんでしょうか? 謙虚なだけな気もしますけど」
「たまに最強と口走っているそうだが実際こいつは自分を最強なんて思っていない、相手より多分自分の方が強いかな……これなら勝てるかなぁ……なんて若干不安を感じながら戦っている。自分の強さを自分が一番信じていないんだ」
そう聞くと控えめって感じはしますね。
「出会った時からそうだが自分にどれだけ才能が溢れているか気付いていないんだ。こいつは魔法を見ただけで出来るようになるだろう?」
「あー……ライベルと戦った時、見ただけで魔法を模倣したらしいですね、ライベルが私の護衛中少しだけ不満げに毒づいていました。それもミスミさんの教えですか?」
「いや、わらわと修行を始めてすぐの頃からそうだった。一度教えれば次には出来てるんだ。魔力の使い方は魔法ごとに違うのに身体から魔力を最適な形で出す。あれは一種の天才だ。そのくせ自分はあまり才能が無いと思っている。意味がわからん」
ミスミさんは苦笑した。
天才……確かに魔法に関してハヤトさんは間違いなく天才の域にあると思います。
古今東西一回見ればどんな魔法も使える魔法使いなんて聞いた事ありません。
それも年齢的にハヤトさんは若いですからきっと今でも発展途上というのです。
末恐ろしいとはこの事を言うのでしょう。
「良かったな」
「何がですか?」
ミスミさんが手に持った酒を飲む。
「当たりの護衛を引いた事だ。こいつは我も強くなく、私利私欲も無い。ただお前を守れればそれでいいって言う男だからな。そんな護衛はなかなかいないぞ」
「そうですね。頼りにしています。でもいつかは彼も好きな人が出来てその愛する人を守るためどこかへ行ってしまうのでしょうか……」
正直それを想像すると胸が痛くなりますが、本人の気持ちを尊重するべきですからね。
私は笑みを作って見送らなければ。
「……それは無いだろう」
「え?」
「こいつは器用そうに見えて不器用だからな。きっと一度決めたらそれ以外の選択肢を選べない」
「選べない……というと?」
「こいつにとってはお前が一番、それ以外は全て二番以下。そういう位置づけが出来てしまったら変わることは無い、多分一生涯な。そういう男だ」
言われて私はベッドで眠るハヤトさんを見た。
そうか、いなくならないのか……そう思うと思わず頬が緩んでしまう。
不器用という言葉が合っているのかは分からない、けど合っていれば良いな……と思ってしまう。
それと同時に私はミスミさんという人物の評価を上げた。
傍若無人な自由人という話だが、決してそうではない。
外での彼女はその話の通りに演じているが、実際に話をしてみると聡明で思慮深い一面が見えてくる。ハヤトさんの内面をしっかり把握して彼女なりに可愛がっているのだ。
じっと見ているとミスミさんは視線に気づかないのか気付かないふりをしているのか。
酒を飲み、目を細める。
「さて、じゃあそろそろ旅の話の続きをするか?」
「はい、お願いします」
私はハヤトさんが風邪をひかないよう上着をかけてあげてから、再びミスミさんの話に耳を傾けた。




