新しい配下
突然だがこの大陸には昔魔王と言う存在がいて、人間や他種族と戦ったりした時代が存在している。
その中でも東部に逃げた亜人種は多く、また魔王も東に進出しようとして失敗した例もある。
端的に言えば、大陸西部と違って東は他種族に寛容な方で、人間以外の他種族も非常に多いのだ。
それはこのルグナ王国でもそうであり、特にルグナ王国でも王都から北東に位置するローファス領は領土も大きく、それでいて他人種も多く裕福な土地柄、同じ国内で狙っている貴族がいたのも仕方ないと言える。
まあ、それは話の前フリのようなものだ。
そんなローファス領で最も発展している街、ノーザンラントは貴重な鉱石の取れる街だったが、先日とんでもない物が出土したのだ。
「呼ばれてきたのは良いが……何だこれ」
鉱山担当のケルンに呼ばれてきたものの、目の前に現れたのは日本でも見た事のない、漫画かアニメでした見た事の無いものだ。
「棺桶……ですかね」
そう、教会とか西洋の墓地を掘り起こせばありそうなあれだ。
「ナルドはこれを見た事は?」
「あ、いや待てよ。見た事は無いが棺桶って言葉は本で読んで知ってるぞ、西の方だとそういう物に入れて土葬する文化のある国もあったはずだ」
流石ナルド、博識である。
「じゃあこれは西の方の国の棺桶って事ですか?」
「そう言われるとなんか違うような気がする、そもそも棺桶に名前が彫られていない、本によるとどこかに彫られていると聞いたんだが……」
ナルドが棺桶の外側を見ていくが、そんなものは見つからない。
「あの……私も西の国にいましたので棺桶の話は知っていますが、お二人を呼んだのはそうじゃなくて、どうしてここからそれが出てきたのか……っていう話でして」
ケルンの話によると、人夫が鉱石を掘っていたらでかい何かにぶち当たったため、慎重に掘ったらこれが出てきたというのだ。
棺桶かぁ。
「くふふ……死体でも入っているのかな?」
声に振り返るとミスミさんとライベルが立っていた。
「あれ、どうしてここへ?」
「いやなに、面白そうなものが出たとこの男から聞いてな」
「嬢ちゃんが面白いもんは無いかって聞くから連れてきた。何やら騒いでいたからな」
野次馬か、まあこういうの好きそうだよね。
ちなみにフェイルはヒューネルでリア様を護衛している。
「僕は開けてみても良いかなと思ってるんだけど」
「ふむ……」
ミスミさんは俺とライベルと順々に視線を向けてから。
「まあ大丈夫だろう、ケルンとナルド。貴様らは少し離れろ」
「分かりました」
「僕が? どうして?」
黄色い目がじろりとナルドを睨む。
「年長者のいう事は聞いておくべきじゃな」
「年長者って君は僕より……」
「まあまあ、ナルド。ここは言われた通り下がりましょう」
なだめながらナルドを下げる。
多分ミスミさんの言う通りミスミさんはナルドより年上だ、好んで酒飲んでいる位だし。
ちなみに酒を飲む姿を見るたびにナルドにそんな歳から飲むと身体に悪いと注意はされている。
まあ、ミスミさんは身を案じて馬鹿正直に注意するナルドをにやにやと見てるだけで、酒を控えるという選択肢は無いのだが。
「ではハヤト、開けてみよ」
「俺ですか? ……分かりました」
ドキドキしながら言われた通り棺桶を開けた。
すると、中には。
「んん?」
タキシードを着た若い男が眠っていた。
骨とか入っているかと思っていたのだが、これは何だ?
「わっ!」
見ていると、男の目がカッと開いた。
男は驚愕している俺らを意にも介さず、目だけで左右を向いて、ゆっくりと起き上がった。
非常に整った顔立ちで、黒髪に赤い瞳、清潔感があり、身長も高い。
指を鳴らすと黒のシルクハットが無から現れ、それを自分の頭に載せた。
「少年少女よ、ここはどこかな?」
「ル、ルグナ王国のローファス領のノーザンラントって言う街です」
呆気に取られながら返答すると男は目を回す。
「知らないな。主はいずこに?」
「主……とは誰の事ですか?」
「炎鬼バリオス様だ」
バリオス? 聞いたことがない、他種族の王かな。
頭に疑問符が付く中、ミスミさんだけが口を開いた。
「あやつは死んだ」
「死んだ? 冗談かい?」
「いや、勇者達に倒された。そもそも四大魔王は全員とっくに倒されている」
「まさか、バリオス様の盟友、氷獣王リカンド様も?」
「全てだ」
「そうですか、参ったな。眠りすぎてしまったか」
困ったというように男は笑った。
四大魔王なんだ、名前までは本にも書いてなかったな。
見ているとナルドが前に出た。
「も、もしかして君は四大魔王の?」
「ああ、申し遅れました。私は吸血鬼の王、ヤクモ……と申します、バリオス様の第一の部下をしておりました」
あれ、もしかしてこいつ相当やばい奴なのでは?
様子を見ているとヤクモは周囲を見渡した。
「この辺は随分と魔力の匂いが濃厚ですね。思わず涎が出てしまいます」
「…………っ!」
暴れるのかと緊張感が走るが、ヤクモは手で違うと合図した。
「そう警戒しないでください、私はもう主を失った身。今は目的もありません……ですが、こうして目覚めてしまった手前もう一度眠るという選択肢はありません。どなたか私に血をくれませんか? もし私が気に入ればその方を主として力を貸しましょう」
俺らは顔を見合わせる。
「ちなみにあまり長生きしない人間族が良いです。私は飽き性なので数十年位なら飽きずに配下をしていられると思います。人間以外ならきっと途中で殺してしまうかもしれませんから。というわけでさあ、人間の方、血を下さい」
その言葉にナルドは引くが後ろからライベルが押した。
「な、何で僕を押すんだよ」
「貴様は魔力もあるし人間だろう、遠慮するな」
「遠慮するよ! 下手したら殺すって言ってる奴配下にしたくない」
「良いから早くしろ」
「…………」
押し負けたナルドが嫌そうに自分の指を切り、血を与えた。
ヤクモは口に含んでからペッと地面に吐き出す。
「……魔力が薄いです、配下になるか考えどころですね。もしかしたら殺してしまうかも……」
その言葉にナルドは喜んでいいのか悲しんで良いのか複雑な表情を浮かべてからライベルの後ろに隠れた、魔力のないケルンは数歩引いた。
それにしても魔力の強い人間か、となると俺かミスミさんだけど。
「ほら、ハヤト。行くと良い」
俺を前に促してきた。
「ミスミさんは良いんですか?」
「わらわは配下など要らんし、何より無理だ」
「無理……ですか?」
俺より魔力のあるミスミさんの方が適任だと思うんだけど。
「ええいうるさい、早く行け」
「さあ、次の方、どうぞ」
ヤクモがニコニコしながら次は誰かと待ちわびている。
しょうがなく俺は自分の指を切り、口を開けて待つヤクモに血を垂らした。
ヤクモは味わうように血を口の中で転がしながら目を瞑る。
静かに飲み込んでからゆっくりと目を開けた。
「この世界で味わったことのない美味しい、でも不思議な味です。血の中にある魔力もそうですがこの味は……あなた本当にこの世界の人間ですか?」
「あー……いや」
確かに別の世界から来たんだけど、分かるのか?
「興味深い……よし、私はあなたの配下になりましょう。これからよろしくお願いします」
「え、ああ……はい。よろしくお願いします」
「もし死にたくなったら教えてください。その芳醇な血液を全て私が飲み干して差し上げます。死因は人間でいう出血多量……という形になるのでしょうか。想像しただけで……おっと、涎が」
どこからか取り出したハンカチのような物で口元の涎を拭く。
「おい、大丈夫かこいつ。ハヤト、夜に殺されんじゃないか?」
「俺もちょっと怖いですけど、断ったらそのまま殺されそうじゃありません?」
「……確かに、えっとご愁傷様?」
「…………」
ヤクモは俺を見てまた垂れた涎を拭いた。
ナルドが可哀そうなものを見る目で見てくる。
こうして紳士さと危険と気持ち悪さが同居している吸血鬼の王、ヤクモが俺の配下に加わった。




