『狂公』
「疲れが取れない……」
その日の俺はばてていた。
本部に作った簡易ソファーで横になりながら窓から入る風の心地よさにまどろむ。
だらだらと寛いでいると部屋に怒声が響く。
「君は領主としての意識が無いのか!?」
もう半分夢を見ていたのを起こされた。
見ればナルドが持っていた書類を置き、俺を睨んでくるではないか。
「そんな事は無いですよ。俺領主です。男爵です」
「その割には何もしてないじゃないか! 僕の方が仕事してるぞ!」
「だってナルド優秀ですし、俺より内政も得意じゃないですか」
「それは……ならしょうがないな」
ちょっと嬉しそうな顔をして引き下がってくれた。
チョロいな。ナルドチョロい。本当チョルド。
「それで、今日はどうしてそんなに疲れてるんだ?」
ナルドが書類に目を通しながら聞いてくる。
「昨日ね、ミスミさんが来たんですよ」
「いつもじゃないか」
「夜に」
「それは……いやまあ、聞こう。それで?」
「不敵な笑みを浮かべて言うんですよ。お前、最近修行サボってないか? って」
「サボってるのかい?」
「いえ、ただ暇だから殴らせろって意味だと思います」
「え、ミスミさんってそんな狂暴なのか?」
「自由なだけですよ。でボコられました」
「君が? 君最強だろう?」
ナルドが呆けた顔で見てくる。
「俺は最強ですよ。けどミスミさんは俺の師匠ですからね。多分ミスミさんの次に俺は最強なんだと思います」
「二番目なのに最強って変な言葉だな」
ナルドはへの字に眉を歪ませながら首を傾げているが、俺は知っている。
俺の仮説が合ってればだけど、多分だけどミスミさんは昔魔王を倒してる位の伝説上の強者だと思う。
試しに本人に聞いたらはぐらかされたけど。
そう考えると今の俺の強さも違うんじゃないかと思えてくる。
多分俺に才能があったってよりはミスミさんが化け物みたいに強いからこそ、弟子の俺も化け物扱いされてるだけなんじゃないかって。
「それよりほら」
ナルドが一枚の紙を持ってきた。
「なんですかこれ」
「新しくこの街に住みたいって言ってきた奴らの情報だ。一応目を通しておけ」
「あれ、今までそんなの書類でやってました?」
「一応僕の方でやってたぞ。ただ今回のは君も目を通すべきだ」
「ええ、何でまた」
紙を見るとそこには、ずらっと名前やら個人情報が書かれているが。
「ちょっと待ってください、何で他種族がこの街に来たがってるんですか?」
種族欄にエルフやらドワーフやら悪魔と書かれている。
「この街の噂を聞いて住みたくなったそうだ」
「他種族を入れて大丈夫なんですか? 人間じゃないって事はきっと強いんですよね? 喧嘩とかになったらどうするつもりですか」
「君やライベルやフェイルがいるだろう。少なくともその三つの種族にはこの街には怖い悪魔であるライベルがいるって伝えておくから、それでもめ事は起こさないと思う」
「ライベルは色んな種族に怖がられてますね」
「『暴君』って呼ばれてる位だからな、まあそれを言ったら君だって別名で呼ばれて怖がられてるぞ、王都で貴族達が言ってた」
「ええ」
俺に二つ名が? どんなのだろう、かっこいい奴かな。
そう聞くとちょっとワクワクして来るな。
「俺が? どんなのですか?」
「『狂公』ハヤトって」
「……きょうこう?」
「ああ」
「何故? そもそも俺公爵じゃないですけど」
そう言うんじゃなくて……とため息をつかれた。
「君さ、初めてリア様救う時に二千の兵にデフと二人で突っ込んだんだろう? テイズ高原戦でも包囲されてるリア様の為に一人で敵陣に突っ込んだし、王都でも一人で突っ込んだし。命知らず、戦闘狂の貴族って思われてるらしいぞ」
「心外ですよ! もう少しなんかあるでしょう!」
それ絶対暴君より評判悪いよ。
「僕もさ、その異名ってどうかと思ったんだよ」
「でしょう? 訂正してくれましたか?」
「けどさ、冷静にやってる事考えたら確かに頭おかしいよな。主の為とは言え一人で色んな所に行きすぎじゃないか? それでいてしっかり主護って出世してって結果だけ見るとどうかしてるぞ。王都の貴族が怖がる理由も分かる。ちなみにリア様も恐れられているらしいぞ」
「リア様も? どうしてまた」
「君みたいな戦闘狂をしっかり飼いならしているからな。それに下手にリア様に手を出そうとするとけしかけられるってさ」
「俺は猛獣か」
俺の突っ込みに ナルドは呆れ笑いをする。
「まあでも良かったじゃないか。おかげでそんな怖そうな奴がいると分かれば治安も悪くならないだろうし、それに向こうも人材が沢山仕官して来てるらしいぞ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、さっきの話の続きでさ。『狂公』を従えているローファス家なら、ってそれまで様子見してた有能な隠遁者が殺到してるらしい」
「……それ、俺が喜んでいい事なんですかね?」
「ローファス家は人材不足だってリヒトさんがいっつもぼやいてた位だから良い事だろ。そのうちリア様も仕事を任せてこっちに来るようになるんじゃないか?」
「リア様なぁ……最近忙しいらしくて全然こっちに来てないですもんね」
「ああ、だから良い事だよ……多分」
「うーん……」
答えの出ない事を考えながら、とりあえず俺は紙に視線を戻した。




