処刑日時
「ハヤト様は無茶な事を言い出しますよね」
キース家を半ば勢いで飛び出した俺に最初に声をかけてきたのは、屋敷に戻ってくる途中だったケルンだった。
「ケルンも難しいと思いますか?」
「いえ、あなたならきっとやり遂げると思いますよ。思ってなければ私は貴方に仕えていません。しかし、流石に大味すぎるかと」
ハーゲン商会が貸し出している宿の一室でケルンは腕組みしながら諭してくる。
「大味すぎますか?」
「……珍しく熱くなったハヤト様の姿を見れて嬉しく思いますが、私は思い違いしている事があると思います」
「思い違い?」
「はい、一人ではない。私がいるという事です。それにノーザンラントにいる方々ならきっと助けになってくれると思います。ですので、すでに連絡は出しておきました」
「……はい、ありがとうございます」
確かにフェイルやライベルは俺の味方になってくれるか。デフとリヒトさんはリア様の危機となれば来るだろうしハーゲンは……分からないな。
「ただ、彼らが来てくれるとしても処刑の日までに間に合うかは分からないです」
「期間はどのくらいになると思いますか?」
「少々お待ちください。それらの情報はもう集め終わっていましてもうすぐ……」
話していると一人の男がやってきた。
ケルンと同じくターバンを頭に付けた男だ。
真剣な顔をしたそいつは紙を手に一礼する。
「お初にお目にかかります。私はビルス。ハーゲン商会王都支店の支店長を務めております。ケルンと同じくこのハーゲン商会の門を叩き、立派な商人となるべく共に切磋琢磨した仲です。先日は店番が失礼しました」
「店番?」
「テレジっていうあの……」
「ああ」
あいつ店番だったのか、このビルスって人の方が若く見えるがきっと優秀なのだろう。
ま、初対面の客にあんな態度する奴じゃ店長は任せられないよな。
「ともかく、これを見てくださいビルスが拡げたのは地図だ」
「これは?」
「これは王都の地図です。商会の情報筋を使って調べまくりました。これがばれたらハーゲン商会は潰れるでしょう」
さらっととんでもないことを言い出す奴である。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。ハヤト様はハーゲン様のお気に入りですから、手助けしなければハーゲン様に怒られて私は首です。それより成功したらハヤト様にはハーゲン商会をもっと使ってもらう予定なので、リスクを取って利益を取る形になります」
当たり前のように言うが。
「あれ?俺ハーゲン商会を使う約束なんてしましたっけ?」
「今して下さい。それとも私の情報が要らないんですか?」
ビルスが冷ややかな目で俺を見ながら笑いかけてくる。
こいつ俺が困っているタイミングで吹っかけてきやがった。
なるほど、若くしてあのハーゲンに支店を任されているだけのことはある。
「要ります、要りますので続きをどうぞ」
ビルスはニヤッと笑ってから再び口を開く。
「捕まっているのは王宮東側、離宮の外れにある建物です。基本的にこの辺りに要人が連行されます。普段はキース家とイズールド家の両家が警備を担当していますが、今はイズールド家の関係者しか警備しておりません。しかし、警備は厳重です。侵入するなら王都北東の地下水路から入る手がありますね」
「ていうか完全に俺忍び込む流れになっていますけど、正面から行くのは駄目なんですか?」
「まず無理でしょう。下手すると処刑時刻を前にローファス伯は殺されると思います」
処刑時刻前でも平気で殺すのか。
処刑時刻……あれ?
「待ってください、処刑時刻って今言いました?」
「はい、それが何か?」
「そもそも処刑っていつなんですか?」
「明日です」
思わず頭がクラっとしてしまう。
何がノーザンラントの味方が処刑日に間に合うか分からないだ。
絶対間に合うわけねえだろ。
「急すぎませんか?」
「それは思いますが考えてみてください。奪還が間に合う期間にこんな情報が流れてくると思いますか? もうどうしようも無いと相手が思っているからこそ口が滑った人間が出てきたんです。もし処刑が五日後であればこの情報はあと五日遅れた事でしょう」
なるほど、結局土壇場じゃなければ分からなかったって事か。
「敵はイズールド家の抱える騎士団って事で良いんですか?」
「そうですね、キース家は今動けないのでそうなるとは思います。最もイズールド家の傘下の貴族や、上級大臣達の私兵も入ってきますのでもっと数は上になると思いますけど、ハヤト様の相手になる者は……イズールド家の騎士団にしかいないと思います」
「ねえビルス、本当にハヤト様の相手になる奴がイズールド家にいるんですか? こう見えてハヤト様の強さはえげつないものがありますよ?」
えげつないかどうかは知らないが、悪魔と竜人には勝ったよ。
ケルンの言葉にビルスは顔を顰める。
「ハヤト様が強いとは聞いています。しかし、イズールド家には一年前に二人新しい護衛が入りまして、そのうち一人はそれまで最強だった騎士団長を倒してしまったという話があります。それも凄腕の魔法使いだったと」
「凄腕の魔法使いですか」
ふとミスミさんを思い浮かべるが、あの人がこういう事に首を突っ込んでくるわけがないなと思う。
「一応用心はしますね」
今回は特にもしもがあったら困るからな。




