ハヤトの選択
リア様が連行されて数日が経過した。
あれ以来リア様の情報はまだ入ってきていない。
「シング兄に聞いてみたが何も情報は入ってきていないようだね」
「じゃあ連行したのは?」
「まず間違いなくイズールド家の仕業だろう。僕らに情報が入らないって事はつまりそういう事だ」
「イズールド家はそんなに力があるんですか?」
「そりゃ王家の双璧と言われる一角だからね。それに現当主ベルント・フォン・イズールドは剛腕と呼ばれているからね」
剛腕……。
思い出してみるが決して力が強いとかではなさそうだけど。
「君、勘違いしてるだろう。政治手腕がって意味だよ。近年イズールド家は落ち目だったんだけどね。前当主が優秀ではなかったから、まあ彼は実の父である前当主を追放して上に上がったんだけど」
「え、実の父を追放したんですか?」
「らしいね。もっとも反発も強かったらしいが、それをねじ伏せたそうだ。まさに剛腕だよ」
それは凄い。
「そういえばケルンはどうしたんだい?」
「俺も調べて欲しい事を調べてもらってる。ハーゲン商会の知り合いが戻ってきたそうだから」
「なるほど」
「リア様大丈夫だと良いけど……」
「ナルド、ハヤト君」
ナルドの兄、シングがやってきた。
「どうしました?」
「情報が入った、というか決していい情報じゃないけど」
「「…………?」」
「馬鹿な……っ!」
ナルドが叫びシングが悲痛の表情を浮かべる。
シングがもってきた情報は三つ。
一つは女王暗殺を企てたリア・ローファスの領土没収。
二つ目は暗殺者を王都に呼び寄せた容疑でキース家当主バサラ・ドウ・キース公爵謹慎。
そして最後の三つめは、女王暗殺未遂でリア・ローファス及び、三人の兄を毒殺容疑でリーゼ・ナトラゼン・ルグナ前女王両名処刑。
「女王まで? どうして?」
「何故そんな馬鹿げた事を誰も止めないんだ」
「……陛下の死後は王家の末席である我らキース家とイズールド家、両家の中から最適な人材が王の系譜を継ぐことになる。――が、答えは見えているがな。ローファス家と懇意にしようとした行動を逆手に取られたな。これで邪魔な俺らキース家も陛下も排除完了って事だ」
ナルドがシングに掴みかかる。
「ふざけんな! 何で来ただけのリア様とナトラが一緒に処刑なんだよ! キース家は王家を守るのが使命じゃなかったのか!」
「落ち着けナルド」
「シング兄! 何で!」
「落ち着け!」
シングがナルドの身体を離す。
「当主である父さんが黙ってそれに従おうとしてる。なら僕らが何かしたって意味のない事だよ」
「どうして父様は……」
「命令者が違うんだ。前二つとリア・ローファス処刑の命令が出た場所は女王陛下、そして陛下の処刑を決定したのは大臣達の総意だ。陛下の命令であれば父さんは従う事しか出来ない。そして陛下の処刑を決められるという事は上級大臣が全てイズールド派に寝返っているって事だよ」
「そんなの……陛下の命令だってイズールド公や大臣達が命令したに決まってるじゃないか。そもそもナトラは意識不明の重体なんだろう? どうしてそんなすぐに決定できるんだ」
「分かってる。そもそも陛下が重体という事自体本当か分からない」
けど……。
「キース家当主である父さんは陛下の命令に絶対だ。逆らったりはしないだろう。ナルド、お前もキース家の人間として当たり前の行動を取れ。少なくともキース家は何も出来ない」
「…………」
ナルドは反論しようと口を開く。
しかし、何度か顔を顰めただけでそれ以上は何も言わなかった。
俺はそれを横で聞きながら窓の外を見た。
視界にあるのは青空だ。
晴れ渡る空で俺はどうしてこんな窮屈な思いをしているのか。
昔を思い出す。
日本にいた頃、自分は決して自由に生きてはいなかった。
自分のやりたい事一つ出来ずに死んで。
でもこの世界なら、守りたいものを守れる。
少し前に満足したそれは錯覚だった。
自分が唯一守りたいものは手元になくて、そして守りたいものから突き放されて……。
このままじゃ勝手に死なれて……。
俺は今何をしているんだ。
もしこのまま黙って大事なものを失ってしまうのなら、ミスミさんの下で時に死にたくなるような厳しい修行に耐えたのは何だったんだ、彼女の為に手に入れた力を今使わないでどうする。
俺はどうしたい、決まってる。
「ハヤト」
ナルドが俺の肩を叩く。
「すまない、キース家は君の助けになれないみたいだ。これから君はどうするんだい」
どうする? 決まってる。
「リア様を助けるに決まってるじゃないですか」
「彼女は自分の意思で行ったんだぞ?」
「関係ないです。俺が助けたいから助けるんです」
ナルドが僕の両肩を掴む。
「君の気持は分かる、僕もナトラが処刑となれば助けてやりたい。けど誰の助けも得られないんだ。分かるか? 王都でキース家とイズールド家の助けを得られないというのは、いわばルグナという国全体が敵に回っているって事だ。孤立無援、自分の力だけで助けるって事だぞ」
「それがどうしたんです?」
「馬鹿か君は、そうなったら誰の助けも無く君一人で助けるって事だぞ」
「ナルドは助けてくれないんですか?」
「……僕は……君の領土の副領主だ。だけどキース家の人間だ。……キース家の人間なんだ」
「そうですか、分かりました。無理にとは言いません。俺は俺で何とかしますよ」
「正気か? 君一人で国を敵に回すって言うのか?」
思わず顔を顰めてしまう。
「リア様の敵なんでしょう? リア様の命を狙っているのが国なら、俺はリア様を守るために国と戦うつもりです。たとえ世界が敵になろうとも俺はリア様の為に世界と戦います」
「死ぬぞ?」
「大事な人を守れず生き残ったら後悔しか残りません。それともナルドはそれで生き残って満足だと?」
「それは……でも……」
「失礼します。これまでありがとうございました」
俺はキース家を後にした。




