キース家のパーティ
「挨拶が遅れたがバサラ・ドウ・キースだ、息子が世話になっている」
キース家に戻るとナルドの父親が挨拶に来てくれた。
豊かな髭を生やした優しそうなおっさんである。
キース家特有の銀髪銀目でナルドに似ている。
お偉いさんという話だがわざわざ丁寧な事である。
更に言えば先日王都より援軍を出せなかったことを謝られた。
こういう上の立場の人でもしっかり謝れるって言うのは良いね。
ちなみに、話している横でたんこぶを作りながら、しくしく泣いているナルドが気になったが、ナルドはやっぱり王都の実家に戻らない方が良かったのだろうか?
でも家族には愛されている感じがするから心配かけやがって……ていう愛情の裏返し?
鉄拳制裁が多いけど、これがキース家の特徴なのかな。
ともかく、数日が経過しパーティ当日となった。
日が暮れ始めた頃、貴族が集まり始め、来た者は皆、キース家の飾りつけを見て圧倒されていた。
それは玄関から豪華絢爛に仕立てられており、柱の装飾で入った瞬間から圧倒される。
大広間に入ると数々の料理が並び、シャンデリア、燭台それぞれ金銀宝石で光り、外はまだ微かに明るいにも関わらず財がふんだんに使われているここだけ世界が違う。
吹き抜けになっている二階にも席があり、バルコニーに繋がっている、酒を飲み熱くなった身体を冷やすため、少し夜風に浴びるのも可能だ。
完璧な会場づくりである。
「凄い……」
ぼそりと呟くと隣で笑い声が聞こえた。
ナルドが二階席、手すりから下を見下ろす。
「これが大貴族のパーティだよ。まだ始まってないけどもう貴族が沢山来てる。早く来れば顔を覚えてもらえると思ってくるんだ。」
「へえ……」
見ているとナルドがちらっと俺を見る。
「馬子にも衣装だね。似合うじゃないか」
褒められて改めて自分の服を見る。
キース家に用意してもらった燕尾服に似た衣装だ。
「ありがとうございます。何か着慣れないから落ち着かないですけどね。ナルドは……慣れてる感じですね」
「まあ、子供の頃からこういうパーティには出ていたからね。慣れもするよ」
「子供の頃からですか。それは痛みにも?」
「言うなよ。忘れてたんだから……」
ナルドが頭やら顔やらを擦っている。
「勝手に飛び出した僕が悪いからね。家にいた頃は特に興味なさそうだったのに、凄い心配されてたんだなって気付かされたよ。でも殴る事ないよな。この家の奴らって皆口より手が先に出るんだ。困っちゃうよ」
困ると言いながらもなんだかんだ嬉しそうだ。
「ところでリア様は見ました?」
「キース家は男所帯だからメイドが張り切ってたからな。でもそろそろ……おっ、来たかな」
扉が開き、リア様がやってきた。
おずおずと近づいてくる。
「これはまた……」
隣でナルドが感嘆する。
リア様は俺の近くまで来てちらっとこちらを見る。
「どうしました?」
「……あ、いえ」
思わず言葉を失ってしまった。
肩口の無い、白のドレスを着ている。
手は二の腕まで伸びた白のレースグローブ、細身で生地より白い肌、金髪はサイドに垂れ、清楚に感じられる。
「何か言うべき事があるのでは? それともあんまり……でしょうか?」
不満げに口を尖らせる。
「……綺麗です。その……普段以上に美しいです」
語彙力の無さからそんな月並みの言葉しか出てこなかった自分が恨めしい。
だが、
「そ、そうですか」
俺もそうだが、リア様も恥ずかしそうにしている。
何だこの空気、何だこの雰囲気は。一応準貴族になったけどあくまでも俺はリア様の護衛、それだけのはずだ。
「こほん……」
ナルドがわざとらしく咳き込む。
そして目で合図する。
「ほら、挨拶回りに行くよ。もたもたしてたら大物が来てしまう。挨拶どころじゃなくなるよ」
「大物ですか?」
俺の問いにナルドが息を吐く。
「ああ、来ないって話だったのに急遽来ることになったんだよ。この国の王がね」
「ふう……」
既に来ている貴族にそれぞれ声をかけて挨拶回りをした。
あまり興味の無い人、リア様を見て息子の嫁にと言い出す人、ローファス家の領土を知っていて共同開発を持ちかける人、俺の噂を聞いていて婿に……と言い出す人、様々いて正直疲れた。
「挨拶回りってこんなに疲れるものなんですか?」
「貴族のパーティなんて顔を覚えてもらう場所だからね。覚えて貰えてなければパーティごとに行かなきゃいけないんだ。面倒だろう? ほら、料理でも食べると良い」
「ありがとうございます」
ナルドから料理の載った皿を貰う。
ちなみにリア様は向こうでまだ色んな貴族と話を続けている。
「リア様は元気ですね」
「彼女だって小さいころから伯爵令嬢だったなら色んなパーティに参加してたんじゃないか? なら慣れてるんだろう」
「俺は慣れそうにないな」
「君は貴族っぽくないもんな」
談笑していると入り口で声が上がった。
「これはこれは、ようこそ。まさか来るとは思っていませんでした」
「いや、国の主が急遽来るとなれば当方も出ないわけにはいくまい? それとも王家と親しい貴君の宴に私は邪魔だったかな?」
「貴公と私の仲でそんな事があるはずないではないか」
見れば二人の貴族がそれぞれ挨拶をしている。
一人はナルドの父親、バサラ・ドウ・キース。
もう一人は誰だか分からない。
年齢は三十を超えた位だろうか、金色の髪に金色の目、やや釣り目で相手を威嚇しているようにも見える。身長が高い美丈夫だ。
「あれは誰ですか?」
「……ベルント・フォン・イズールド公だ、ルグナ二大貴族の一角。彼は若くして当主を務める非常に力のある貴族だよ。彼も今日は来ないって話だったが来たみたいだね」
「へえ……」
見てる感じだと確かに有能そうだ。
にしてもなんか険悪じゃないか?
ナルドの父親もイズールド公も笑いながら話しているようでお互い睨んでいるようにも見える。
「仲は良いんですよね?」
「良いわけないだろう」
「そうなんですか?」
「イズールド公は王を狙っている……と言われている。王家を守る両輪と言われているくせにね。彼については君らも他人事じゃないだろう」
…………?
分からず首を傾げるとナルドが続けて言う。
「ウェルス公国との戦いの時に王都から援軍が来なかった理由だよ。イズールド公と意見が割れたせいだ。それにあそこはカートス家を派閥に入れていて親しいし、他にも悪い噂もある」
「カートス家?」
「レナウン子爵の件で口を出してきた貴族です、覚えていませんか?」
考えているとリア様が戻ってきた。
ああ、確かレナウン子爵家をけしかけてきた貴族だったか、じゃあもしかしなくてもうちとも仲が悪そうだな。
ぼんやり見ていると入り口の更に向こうから一際大きな歓声が上がった。
「お邪魔してしまいましたか?」
二人の貴族の所へ供を連れたどこか見覚えのある少女が現れる。
そのドレスは誰よりも豪奢で際立っている。
「あれ?」
「リナ……さん?」
俺と同時にリア様も声を出す。
先日街で一緒に観光した少女だ。
「二人は知ってるのかい? 元々王位継承権は下の方で王宮の外に出されてたし、即位後は貴族のパーティにもなかなか出ていないから知ってるとは思わなかったけど」
「リナさんですよね? どこかの貴族の」
「どこかの貴族っていうか、彼女はリーゼ・ナトラゼン・ルグナ。まごう事無くルグナ王国の現女王さ」
ナルドは険しい顔をしながらそう言った。




