キース家のパーティ2
「重鎮である両公が入り口でどうしたのですか?」
「これはこれは女王殿下、いえ挨拶をしていたまでです。では失礼」
イズールド公は先に離れていく。
「女王殿下、よくぞおいで下さいました」
「いえ、本日は招待有難うございます。楽しませていただきますね」
笑いながら女王はちらっとこちらを見た。
ともかく、主賓が揃ったところでバサラ・ドウ・キース公の挨拶の後、パーティが始まった。
多数の貴族が集まる賑やかな会、あらかた挨拶回りを済ませたリア様と食事をしているとそれは現れた。
「おお、臭いと思ったら田舎の山猿が混じっていましたか」
見覚えのある顔である。
「これはリックン様」
リックン・D・カートス。名門カートス侯爵家の直系の人間だ。
数人の取り巻き貴族を引き連れやってきた。
「以前はお世話になりました」
「そんなものはどうでも良い。何故ここにいるのです?」
「はい、キース家より招待を受けましたのでこちらに」
「違う。どうして招待を受けられたのかと聞いています、何か送ったのですか?」
「何か……とは? ただの好意かと」
「好意だと? 王家の末席に位置する大貴族が好意で一辺境伯に?」
はっ、と鼻で笑う。
「つまらない冗談ですね。辺境では流行っているのですか?」
取り巻きと共に小馬鹿にするように笑う。
ていうかこいつ何しに来たんだろう。わざわざ嫌味を言うために来たのだろうか?もしそうなら相当暇人だなと思ってしまうんだけど。
「おや、そうですか? 辺境の子爵とも付き合いの深いリックン様には分からないかもしれませんね」
リア様はさらっと嫌味を返す。
お前は士爵にしか相手されないんだから分からないんだろ……という意趣返し、リア様もなかなか辛辣である。
「何だと」
だが予想外にもそれに怒ったのは取り巻きの貴族だ。
顔を赤くしている所を見るともしかしたらこの貴族は子爵なのかもしれない。
ブーメランが味方に刺さるとはこれを言うのかもしれない。
顔を怒り顔に変えた貴族が手に持つグラスに力を込める。
咄嗟に俺が前に出るとリックンが急に顔色を変えてその貴族を手で制した。
「カートス卿!?」
「止めておけ。辺境伯は狂犬を飼っている。口はともかく、下手に手を出すと噛まれるぞ」
「狂犬……まさかこいつがあの士爵ですか? ウェルス公国の名将ベルーガ将軍率いる数千の包囲網の中に単身突っ込み、主を救出したというあの?」
「いかにも」
貴族はじろじろと俺を見てせせら笑う。
「カートス卿も冗談がきつい。こんな弱そうなガキが嘘でしょう?」
「……ヒューネルに来て早々、主を軟禁していた大臣と将軍を兵ごと単身撃破、竜人を倒し、悪魔族の暴れん坊を手懐け、ローファス家きっての武闘派士爵と聞いております」
「だ、れだ……」
通った声がした。
貴族が振り返り言葉を途中で止める。
「じょ、女王陛下!」
「その辺にしてはどうですか?」
リナ……もといこの国の女王リーゼ・ナトラゼン・ルグナが護衛の兵と共に立っていた。
☆☆☆
「先日は黙っていて失礼しました」
「いえ、こちらこそ知らぬとはいえ失礼を致しました」
リア様に倣って俺も礼をする。
「黙っていたのは私の方ですから、むしろ楽しい時間が過ごせたと思っています。さて……少しだけ話しませんか?」
続けて流し目で誘うので俺らはバルコニーに移動した。
「以前よりああいった事が?」
ああいった事……恐らく命を狙われた件だろう。
「……王都の治安は現在キース家とイズールド家、二大貴族によって保たれています。勿論両派閥傘下の貴族も治安維持を行っていますが、それにより非常に広い王都は安全に外を歩けるようになっています」
そういえばキース家のナスタさんと初めて会った時、散歩がてら警備……みたいな事言ってたっけ。
あれ、でも両貴族が警備してるのに何で最も守られるべき女王が狙われてんだ?
思わず顔に出てしまったのだろう。俺をちらっと見てクスリと笑う。
「おかしいでしょう?」
「はい、どうしてそれなのに女王陛下が襲われるのかと」
そんなに警備がしっかりしているのに要人が襲われるなんてまずありえない、あり得るとしたら……。
女王はバルコニーの手すりに寄りかかりながら目を細める。
「私は女王になんてなりたくなかった。そのせいで……いえ」
首を一度振る。
直後、護衛の兵が近づいてきて頷く、それから俺とリア様を見た。
「お二人に出会えて良かったです。パーティにも来れましたし。それと私の事はリーゼ……とお呼びください」
それだけ言い、離れていく途中、キース家として家族と挨拶回りに行っていたナルドが俺らを見つけて近づいてきた。
「ハヤト、リア様。二人ともここに……」
言葉の途中でリーゼの姿を見て止める。
「ルウ」
「ナトラ……」
小さく呟いてからナルドはハッとした顔をして一礼する。
「陛下、失礼します」
「……いえ」
二人はそれぞれ目を合わさずにすれ違う。
こうして何事もなくパーティは終わった。
短い王都生活だったが、リア様はこの機会に様々な貴族と付き合いが出来たと言っていた。
ケルンはリア様に言われて何か調べものをしていてあんまり屋敷にいなかったし、ナルドはあれから元気が無いが。
「また機会があったら来ると良い。バカ息子を連れてね」
「ワシは寂しい」
「ナルドをよろしくおねがいします」
バサラ・ドウ・キースを筆頭にキース家の人達が俺らを見送ってくれた。
時々豪快だが気の良い人達だった。
また来るとしよう。
手を振り馬車に乗り込むと、前から兵士が走ってきた。
もしかしてリーゼも見送りの為に来てくれたのだろうか。
ぼんやり見ていると兵士の様子がおかしい気がする。
続けて乗り込もうとしていたリア様に兵士が槍を向けた。
俺が飛びだして兵士の武器を払おうとした直後、
「リア・ローファス伯爵。あなたに女王暗殺容疑がかかっています。直ちに我々と共に出頭を願います」
兵士の後方に立つ隊長が叫んだ。




