リフル観光
え、誰?
最初に思ったのはそれだ。
こんな少女に見覚えは無い、というか王都に来た事すら初なのに知り合いなんていない。
「ハヤトさん、その可愛い方はお知り合いですか?」
リア様が薄い笑みを浮かべながら聞いてくる。
あ、なんか怒ってる。
「ち、違いますよ。俺に知り合いなんて」
「私追われているの。だから助けて」
少女が後ろを振り向く、視線を追うと白いフードを被った男達がこちらを指さし何か言っている。
それを見て瞬時に判断したのだろう。
「逃げましょう。向こうへ」
リア様が走り出し、俺も女の子の手を掴んで走った。
人ごみの中を上手くすり抜けながら進んでいく。
道は分からないがリア様を信じて進み続けて数十分。
どうにか追手を撒いたようだ。
「ふう……逃げ切りましたね」
「リア様、道知ってたんですか?」
「いいえ。ですが街に出る前に屋敷で地図を見ましたからね。大まかに覚えていました。後は勘です」
「勘……ですか」
勘と言う割にはしっかり逃げられたのだから凄い物である。
「さて、落ち着いたところで。あなたは一体どなたなんですか?」
俺とリア様の視線が少女に集まる。
「わ……私はリナ……です。」
「リナさんですか。どうして追われてるんですか?」
「それは……」
言いづらそうに口を紡ぐ。
どうやら訳ありの様だ。
どうしようかとリア様を見るとリア様は肩を竦めている。
「命に係わる重大な事ですか?」
「いえ、そういう事じゃないです。ちょっと外出しちゃ駄目って言われてるけど、遊びたくて外出してるから、家族に追われてるだけです」
「じゃあ捕まっても特には?」
「怒られるだけ……かも」
しょんぼりとするリナ。
追手って言うから何か事件に巻き込まれてるのかと思ったけどそうでもないんだな。
「それなら私達と追手? から逃げながら観光でもしますか? ねえ、ハヤトさんも良いでしょう?」
リア様がウキウキした顔で聞いてくる。
「良いと思いますよ」
リア様のそういうのレアだし。
追手に注意しながら観光を楽しむ。
スリルを味わっているようで割と楽しいかもしれない。
――とはいえ。
「これが今王都で流行っている食べ物です」
「へえ、ヒューネルには無いですね。ああ。生地がもちもちしてます」
「そうなんですよ。これが食べたいんですけど街でしか食べられなくて……」
服を見て甘いものを食べ、共感して笑い合う。
そういえばリア様がこういう女友達みたいな人と楽しく語り合って、街を散策している姿を見るのは初めてかもしれない。
会話が速いし女子会話って感じなので俺は入らず黙って聞いているだけなのだが。
「次はあそこ行きましょう。街でも高いから景色が綺麗なの」
「良いですね」
笑いながらリナに着いて行く、着いたところは銅像が立っている丘のような場所だ。
高いせいか強い風が吹き、気持ちがよい。
街が見渡せる良い場所だ。
「ここ、私のお気に入りの場所なの。昔はよく来てたんだ……」
「へぇ、素敵な場所ですね」
感慨深い場所の様だ。
そうこうしている間に、日が落ち始め、街が黄金色に染まっていく、鐘が鳴り、リナがああ……と呟く。
「もう時間ね。楽しすぎてつい我儘してしまったわ」
リナは目を細めながらリア様の手を取る。
「ねえリア、ハヤト。また友達として私と遊んでくれる?」
「勿論です、私達は友達……ですから」
リア様が恥ずかしそうに言ってから、ねえ……と俺の方を見る。
「はい、友達ですから当然です」
言うとリナは笑った。
「ありがとう」
その直後。
「…………っ!」
ふとどこかから視線を感じた。
俺は二人を庇いながら周囲を警戒する。
「ハヤトさん?」
「リア様、リナも離れないでください」
様子を窺っているとそいつらはすぐに現れた。
仮面を被った集団だ。
それは何人かは剣を持っている。
「話していた追手ですか?」
「ち、違います。私の追手とは」
じゃあ、この子は別に命を狙われてる?
「何の御用ですか?」
話しかけたが相手は何も言わない、そして。
「…………っ!」
無言で襲い掛かってきた。
【アイスアロー】
氷の矢を放ったが剣を持った二人は走ってくる速度を下げないまま、氷の矢を弾く。
弾くのか。
驚く俺を他所に先に走ってきた二人は剣を振り下ろしてくる。
その速度は速く、並の魔法使いならまず間違いなく仕留められていただろう。
……まあ、俺には効かないけど。
振り下ろされた剣はそれぞれ衝撃音と共に中ほどから折れる。
一拍、二人がそれに驚き動きが止まった。
しかし、その隙だけで十分だ。
俺はそれぞれの顎を強打すると二人が後方へ飛んでいく。
一人はそのまま倒れ、もう一人は何とか着地するがよたよたと地面に尻もちをつく。
【ファイアランス】
「アイスブロー」
後方で待機していた二人がそれぞれ魔法を放ってくる、魔法使いか。
威力はそれなりだが所詮中級魔法だ。
俺は無属性のシールドを展開しそれらをかき消す。
同時に突っ込んできた一人を俺は蹴り飛ばす。
「まだやる気ですか?」
冷ややかな目で見ていると仮面の奴らはそれぞれを一度見てから。意識を失った奴らを連れてさっさと引いて行った。
「今のは何だったんですか?」
聞くとリナは知らないと言いつつも苦い表情を浮かべる。
きな臭い感じがするがそれに首を突っ込むのもどうなんだろう。
考えていると今度は白いローブを羽織った集団がやってきた。
「ここにいましたか!」
さっきとは違い、それぞれが跪く。
一人がフードを外すと髪も目も茶色の男が現れる。
「ただでさえ御身は狙われておりますのに」
「ごめんなさい。でも彼らが助けてくれたので」
「その者らが?」
男は立ち上がり、俺らを怪しそうな目で見てくる。
「失礼ですがその方らは?」
「私はリア・ローファス、こちらはハヤトです。キース家のパーティに呼ばれて王都に来ていて今回リナ様と偶然会いました」
「ローファス……伯爵でしたか。ナト……いえ。リナ様をお守りいただきありがとうございました。礼はいずれ」
「構いません。礼が欲しくて助けたわけではありませんので」
ねえ……と同意を求めてきたから俺は黙って頷いておく。
「では行きましょう」
男に促され、リナは離れていく。
途中、こちらをちらっと見て、声なく口だけ動かしてから笑った。
多分またね……と。




