王都よりの使者4
音と共に現れたのは竜人、フェイルだ。
脱走しやがった……思いながらフェイルの視線は明らかにルードから落ちた石を見ている。
緑と赤に光る石、やっぱりこいつのだったのか。
俺は失禁して半ば混乱状態になっているルードに話しかけた。
「ひいい、今度は何だよ!」
「質問ですがその石はどこで手に入れました?」
「やだやだ、もう帰りたい。もう帰って」
「聞けよ!」
「うひぃ! ごめんなさいごめんなさい」
――と、柄にもなく怒ってしまった、こういうのは良くない。控えよう。
「それで、その石は?」
「こ、これ? 冒険者が見つけたらしくて、高かったけど買い取ったんだ。何か祀ってる所にあったって聞いたから不安になって、すぐに返そうと思ったんだけど。綺麗すぎて。だ、駄目だった? ごめんなさい、返すから許して」
こいつが取ったわけじゃないのか。
まあ簡易結界が敷かれてるって言うなら、魔法使いのいる冒険者パーティーじゃなきゃとる事すら無理そうだよな。
こいつの護衛、剣士だし。
「……殺す」
「ひ、ひいいい!」
フェイルが殺気混じりにルードに近づいている。
これ、マジで殺されそうだな。
「ハヤトさん……」
後ろから袖を掴まれる。
リア様は不安そうな表情で俺を見ている。
許せってか。さっきまですげえ怒ってたのにこの人も大概お人好しだよな。
まあ、一応石に関してはこいつにそんなに否はなさそうだよな。
デフに関してもタスマンとか言う雑魚も殴ったし。
失禁までしてる奴に追い打ちをかけるのは哀れ過ぎるからな、仕方ないか。
「竜族の秘宝を我が物にしようとは、死して罪を償え」
振りかぶるフェイルの手を俺は掴んだ。
「なんのつもりだ?」
フェイルが怒り心頭の顔で俺を見ている。
「いえ、リア様がそこまですることは無い、許してやれって言ってますので」
「見たところこいつとお前らは揉めていたように見えるが?」
「主の意向なので」
「俺の邪魔をするなら飯の恩があっても容赦はしないぞ」
「いえ、手加減は俺がする方です」
「ふん……生意気な。ならやってみろ!」
フェイルが笑みと共に俺を何もない壁に向かってぶん投げた。
地面と平行に仰向けのまま飛ぶ俺の前にフェイルが現れる。
振りかぶった拳が降りてくるのを俺は飛びながら片手で掴んだ。
急激な横Gからの縦Gは魔力で覆っているとはいえきつい。
若干の気分の悪さを感じながらも襲い掛かってくるフェイルの攻撃を受け続ける。
というか受ける事しか出来ない。
フェイルの攻撃が速すぎて反撃しようにも攻撃が全て躱される。
掴んだと思った時には別から攻撃されていて視界が揺れる。
それから暫く殴られ続けてそこでようやく攻撃が止まった。
終わった……こいつ超強い。超速い。
なんて考えていたのだが、目の前に立っている竜人の表情に見えるのは困惑だ。
「意味が分からん」
「何がですか?」
「あれだけの攻撃を受けて無傷だと? お前どんな身体してるんだ」
ずっと攻撃を仕掛けていた側がビビるっていうレアな体験をしていた。
はっきり言おう。こいつの攻撃速度はあの悪魔のライベルより速い。しかし威力だけで言えばライベルの方が強かった。
「現竜王ですら俺との模擬戦闘で怪我をした位なのにその頑丈さ。さては魔王か」
「人間ですよ。普通の」
「普通の人間が俺の乱打を耐えられるもんか」
「耐えられますよ。少なくとも俺はもう一人耐えられそうな人を知ってます」
俺をぼっこぼこにしまくってた師匠ですけど。
あれ、今の感じだとこいつその竜王っていう強そうな奴並みに強いって事だよな。てことはこいつと同じ位強いライベルも相当強いって事だ。
……ミスミさんってもしかしてそれ以上に化け物なんじゃないか?
あの人こそ本当に人間かよ。
……と、まあいいや。
今の感じだと肉弾戦だと俺は負けないとは思うけど勝てないだろうな。
はぁ……とため息をついてから身体の中で魔力を練る。
フェイルの顔が警戒色を帯びていく中、俺は睨みつける。
「あなたは強いからちょっとだけ本気を出しますね」
「本気だと? だがお前のその拙い体術じゃ俺を止められないはずだ。速度が違う」
「ええ、俺の体術は所詮人間レベルらしいですからね。なので」
【アースロック】
盛り上がった土がフェイルの足を掴む。
【トリプルプロテクト】
更に土を固めた、しかも三段も強化を増やしてだ。
「この程度……ぬ!?」
両足が動かせないようだ。それもそうだ、暫くは動けないだろう。それを喰らっても瞬時に動けるのはミスミさん位のものだ。
「俺の得意な魔力で勝負しますね」
【アイスアロー】
俺は数本の氷の矢を出すが、フェイルは咄嗟に空気を吸っている。
何だ? 足を掴まれて息を吸う……。
もしかして……。
俺は瞬時にアイスアローを解除する。
「喰らえ」
炎と氷の混合ブレスが飛んできた。
周囲の草が凍りながら燃えるっていう矛盾現象を起こしている中。
「はっは……油断したな。これを喰らえばいくら貴様でも……」
煙が晴れるや否やフェイルは青ざめた顔をした。
「嘘だろ……」
「危なかったです。氷か炎どちらのヴェールにしようかと悩みましたがどちらも却下して良かったです」
属性のないシールドを七重展開し防いだ。
あと一枚まで解除されている所を見ると、よっぽど強力なブレスだったのだろう。
正直ギリギリだった。下手したら俺死んでたかもしれないな。
「さて」
俺は近づき、拳を構える。
「おい、待て」
「大丈夫、俺の体術は弱いです。本当は魔力でやりたかったところですけど、ここ街中ですからね。貴方を倒す位の魔法じゃ流石に被害が出ちゃう気がしたので変えます」
集中し、腰を落とし拳に力を込める。
相手は動けない、遅くても避けようがないな。
「腹に力を入れてくださいね」
「ま、待て!」
『ズゥゥン……』
鈍い音がした。
肉を巻き込む感触。
フェイルは声なき声を上げながら、口から液体をまき散らす。
汚いな……と思いながらかかった服の部分を払い、離れると。
フェイルは足を固定されたまま、だらりと上体を地面に堕とした。




