王都よりの使者5
「終わりました」
「はい、お疲れ様です」
戻るとリア様が出迎えてくれた。
「デフはどうなりました?」
「医務室に連れて行きました。命に別状はなさそうですから大丈夫でしょう」
「そうですか。分かりました」
「み、認めないぞ!」
声の方を見ればフォード・レナウン子爵が青ざめた顔で震えながら叫んでいる。
「ちゃ、茶番だ。竜人とかいう奴相手に貴様のような奴が勝てるものか、タスマンだって油断しなければ貴様になど……なあ!」
言いながら倒れていたタスマンを見るが、タスマンはそこにはいなかった。
「奴はどこへ」
「と、父さん」
「タスマンは?」
「タスマン、護衛辞めるって……」
「な……そ、そうだ。リックン様。ねえ。流石におかしいですよね。こんな事……」
フォード・レナウン子爵は護衛に逃げられたにも関わらずリックン・D・カートスに縋りつく。
――が。
「…………」
リックンは冷たい視線を送る。
そしてこちらを睨んだ。
「この借りはいずれ……」
「あ、あれ? リックン様? リックン様」
小さな舌打ちだけして別方向へ歩き出し、フォード・レナウン子爵は追いかけて行った。
続けてルードが追従しようとするのを俺は咄嗟に止めた。
「待ってください」
「な、なんだ……なんでしょうか」
少し前の勢いはどこへ行ったのか。
戦意喪失っていうレベルじゃない。
「その竜族の秘宝っていう玉は置いて行って下さい。あれは彼のです」
「え……いや、その」
「今度は確実に殺されますよ?」
「ひい! わ、分かった! これ渡すから。それじゃ!」
足をもつれさせながら走っていく。
「全く、困った人達ですね」
「ふふ……ところで彼はどうします?」
リア様の視線の先、竜人フェイルが足元を固められたまま意識を失っている。
「一応医務室に連れて行きましょうか」
「そうしましょう」
半日が経過した頃、ようやくフェイルの目が覚めたと聞いて医務室に向かった。
部屋に入るとぼんやりとしていたが、俺を見てぽつりと言う。
「俺は負けたのか」
お腹を擦りながら言ってる感じは、どうやら怒ってはいないようだ。
「これをどうぞ」
竜族の秘宝とやらを渡すとフェイルは目を細めながら手に取る。
そして顔を上げた。
「お前、ハヤトと言ったか」
「はい、そうですけど」
何だろう、夜道に気を付けろとでもアドバイスしてくれるのだろうか。
もしそれを言ったらそれはアドバイスじゃなくて完全に犯行予告だけどね。
「強いな、気に入った」
「ああ、どうも」
「これが終わったら外に出る理由がなくなるからゆっくり回収するつもりだったが、予定が変わった。竜王に渡したらお前の下に来てやろう、喜べ」
「え、何でですか?」
「俺が来るんだ、嬉しいだろ?」
「いえ、全く」
復讐に来るって事でしょ? やめてくれよ、あなたのブレスで下手したら俺死んでたからね。
「素直じゃないな」
「いやいやいやいや!」
「ふふ……」
何故か誇らしげなフェイルと焦っている俺……を優しい笑みを浮かべながらリア様は見ていた。
あれから一月が経過した。
ルード・レナウンとリア様の婚約は完全に破棄となり、レナウン子爵家のノーザンラント進出計画? も頓挫した。
リックンから梯子を外されたらしい。
しかし、今回の件でリックンから俺らは個人的な恨みを買ってしまったようなので、また嫌がらせのような何かを受ける……との事だ。
すこぶる面倒くさい。
それからというものの、デフの骨もくっつきはしたようだが、未だドクターストップがかかっている。
回復魔法とか無いのかと言われたが無いと答えた。
少なくとも俺はミスミさんから教わったことは無い。
意外だがこの世界に回復魔法と言うのは存在しないらしい。
まぁ……魔力もそこまで万能じゃないよね。
続けて報告だが。
「おいデフ、ハヤト様を前に頭が高いぞ」
「頭が高いって俺はベッドに寝てるんだからこれ以上は下がらねえよ」
「ふん、配下としてみっともない」
「俺はハヤトの配下じゃねえ」
そう、竜人フェイルがノーザンラントに戻ってきた。
玉を持って帰ったらそのまま来ないで欲しいと思っていたのだが、宣言通り戻ってきたという事だ。
しかも、何故か俺の配下になるとか言い出して。口調まで変わっている。
こんなちょっと喧嘩したら俺を殺せる配下なんて要らないんだが。
「賑やかそうですね」
リア様がやってきた。
「どうぞ、これでも食べて元気になってください」
「リア様、ありがとうございます」
果物の差し入れでデフが喜ぶ。
「リア様……いつも主君がお世話になっております」
フェイルが立て膝立ちで畏まる。
丁寧な対応だがお前俺の配下になったの最近じゃん。発言おかしくない?
その言葉はもっと前から俺の隣にいる奴が言うべきセリフだよ。
「ふふ……顔を上げてください。こちらこそハヤトさんには沢山お世話になっていますから。フェイルさんもハヤトさんをしっかり支えてくださいね」
「はっ!」
リア様は俺の主だから主君の主は自分の主っていう式が出来ているらしい。
失礼を働かないなら俺は何も言わないよ。
「そうそう、ハヤトさん。外に来客が来ているようなのですが」
「俺に来客……ですか」
この世界の知り合いなんてほとんどいないと思うけど。
「どんな人ですか?」
質問するとリア様はクスクスと笑い出す。
「きっとハヤトさんのファンですよ」
「ファンですか?」
もしかして可愛い女の子とかだろうか? もしそうなら嬉しいけど困るな。
俺にはリア様っていう守るべき主がいるからどうしても二番目に……。
なんて考えながら早速本部の建物を出るとそこにはでかい影が立っていた。
黒い体躯に背中には黒い翼つけて三白眼で、漆黒の衣に……っておい。
思わず二度見してしまう。
「おう、嬢ちゃんに伝言頼んだんだが、ちゃんと聞いたようだな。さあハヤト! 勝負だ!」
悪魔族の暴君ライベルが爽やかな笑顔で待っていた。
笑顔でも顔が怖え。
「主君、馴れ馴れしいこいつは一体誰ですか? 俺がやりますか?」
「あん、誰だお前。てめえこそそいつに馴れ馴れしいぞ」
ガンを飛ばし合う二人。
馴れ馴れしいのはお互い様だよ……。
一難去ってまた一難かぁ。
はぁ……と俺は天を仰いだ。




