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王都よりの使者3

 リア様がノーザンラントにやってきた。

 そう聞いてデフと俺は早速出迎えたのだが、現れた人物達を見て思わず固まってしまう。


 馬車から降りてきたのは五人。

 一人はリックンとか言う偉そうなおっさん、それと同じ位の年齢に見える髭を生やしたおっさん。

 にやにやしながらリックンと親し気に話しているから多分こいつがレナウン子爵って奴かな。


 続けて現れたのは鎧を纏った騎士だ。多分こいつは護衛かな。

 最後に現れたのはリア様……とそのリア様の肩に手を載せている若い軽薄そうな笑みを浮かべた茶髪の青年だ。

 いや、いやいやいや……どういう事?


「おい、これどういう事だよ」

「分かりません」


 頭がこんがらがっている。俺がリア様の近くをいなかった数日で一体何が起きたの?

 ぼんやりと二人を見ているとリア様が肩に乗った手を払い、こちらに歩いてくる。


「ではご紹介いたします、こちら私の護衛であるハヤトさん、そして副官であるリヒトの部下のデフです」

「初めまして」


 デフに倣い俺も一礼を返す。


「続けて、こちらはリックン・D・カートス様、フォード・レナウン子爵、ルード・レナウン殿、そして護衛のタスマン殿です」

「俺と君の仲なんだからルードって呼んでも良いよ?」


 軽薄な笑いに対しリア様は薄い笑みを浮かべる。

 最近分かった事だが、リア様は信用していない相手には基本的に薄い笑みを返す。

 多分彼女的にはこれがポーカーフェイスなのだろう。


「では街を案内いたしますね。ハヤトさんとデフも共に来てください」




 

「ここが採掘場ですか」

「ほう……これはなかなか上等ですな」


 彼らが採掘場を見ている間に俺はこっそりとリア様に近づく。


「リア様、何があったんですか?」

「ハヤトさん……あの後、レナウン子爵がリックン様とやってきたんですが、自領にいる騎士なら強さに問題はない。それより以前進んでいた縁談の件をと言われまして」

「縁談……ですか?」


 いつの間に縁談なんて?


「ナフタ兄様が話を進めていた縁談です。ナフタ兄様が亡くなった時点でてっきり話は白紙になったと思っていたのですが……」

「進んでいたと?」

「はい」


 なんじゃそりゃ。


「断ったら良いじゃないですか」

「そうですが言い出したのはナフタ兄さまの方からですので立場上どうも……ハヤトさんも失礼なことがあるかもしれませんがどうか怒りを鎮めてください」


 言いづらいと、リックンもいるから余計って感じか。

 そういうのどうかと思うよ本当に。



 その後も街の色んな場所を案内しているのだが、


「なあ父さん、この街は本当に大きいな。凄いじゃん?」

「ああ、そのうちリア様と婚約すればお前の街になるんだ。頑張って統治するんだぞ」

「ああ、任せてくれよ。俺って結構統治上手いから」

「…………」



「リックン様、素晴らしい機会を与えて頂きありがとうございます」

「いえいえ、まさか私もお二人が婚約間近だったとは知りませんでしたので、本当に良かったと思っていますよ。両家が力を合わせればどんな困難も乗り越えられると信じています」

「そのお言葉、嬉しい限りです」

「…………」



 イラっとする言動ばかりが出てきた。

 いつの間にかリア様とこの青年が結婚するのが確定みたいな空気になっていて非常にイラっとする。

 まあ、俺はあくまでもリア様の護衛だし、守れればそれで良いし、別にいう立場には無いけど。無いけどね。


「なんかむかつくなぁ」


 もっとも俺よりむかついているようで、隣のデフが先にキレそうだ。


「すいません」


 権力的な嫌がらせと完全なる負の遺産を一気に背負わされているリア様は薄い笑みを浮かべている。

 ポーカーフェイスに徹しようとしているのは分かるのだが、肩やら手やら触られるたびに表情には出ないが嫌そうな素振りを見せているのだが、この息子は恥じらっている清楚なお嬢様と感じているようだ。

 ポジティブ過ぎない?





 そして街の案内がようやく終わった。

 長かった……精神的な疲れで思わずため息でも出そうになった頃。

 レナウン子爵の息子、ルードが俺の肩を掴んできた。


「…………?」


 何かと振り向けばにやにや軽薄な笑みを浮かべている。


「お前さ、リアの護衛なんだろ?」

「はい、そうですけど」

「腕細いな。随分と弱そうだ。俺でも勝てそうだぞ」

「は、はぁ……」


 まあ、腕を触った所で俺は魔法使いだし、筋肉隆々じゃないよ。


「この街の近くには他種族も多く、臣下が強くなければ危険だって話聞いたけど嘘でしょ」

「嘘……ですか?」

「そうだよ。俺でも勝てそうな奴が護衛の時点で嘘ってわかる。このレナウン家最強の護衛タスマンは俺より遥かに強いからな。ローファス家に敵う奴はいないだろ。なぁ?」


 話を振られたタスマンという騎士は、それまで黙っていたが途端に鼻で笑う。


「坊ちゃまは正直すぎますよ。ですが私ががっかりしたのは事実です。ローファス家の護衛が国内最強の魔法使いという話を聞いていましたが、見てる感じだとどう見ても弱そうです。この土地をレナウン家が貰い受けるのは早い方が良いでしょうね」


 冷笑を浮かべた。

 流石にこれはと思うが……いやでもリア様が我慢しろって言ってたしなと我慢する。

 リア様が若干眉を顰めているのが見えた。


「おい、てめえいい気になるなよ。こいつがどれだけ強いと思ってんだよ」


 俺は我慢したがデフが我慢出来なかった。

 目を吊り上げてルードを指さし怒鳴る。

 数歩近づいた所でタスマンが動いた。

 拳でデフを殴り、更に足で蹴る。


「あっぐ……」


 デフが吹っ飛び起き上がろうとして痛みで腰を落とした。

 動き的に骨でも折れた?

 俺は咄嗟にデフに駆け寄った。

 確認すると腕が曲がっている、これ折れてないか?


「ふん、家臣の分際で俺に偉そうな口を叩くからだよ。タスマン、よくやった」


 それを聞いて心にどす黒い何かが現れる。

 ふつふつと湧き上がるこの感情は純然たる怒りだ。

 すいませんリア様、我慢しろと言われていましたがこの糞野郎をぶん殴ってやる。

 俺が動く前に、


『パン』


 乾いた音が鳴る。

 リア様があの生意気なルードとか言う息子の頬を叩いたのだ。


「彼は貴方の家臣ではなく私の家臣です。暴言を吐いたのは確かですが貴方がそれを正す道理はありません。骨まで折れています。どういうおつもりですか?」

「な、何をするんだ。リア、お前俺との縁談無しにしても良いのか?」


「構いません。貴方のような無礼極まりない方は私の夫に適するとは思いません。もう結構です、亡き兄の進めた縁談とはいえ、私は馬鹿の妻にはなりたくありません。縁談を破棄しますので即刻お引き取り下さい」


 毅然とした態度で言い放った。



 リア様の発言に激高したのはルードだ。

 顔を真っ赤にし、睨みつける。


「お、お前!」


 リア様に掴みかかろうとしたところで。


「…………っ!?」


 俺が間に入った。

 伸びた腕を掴んでいる。


「今誰に向かって手を出そうとしました?」

「ぐっ、動か……この。 ああ、腕がおれ、折れる!」


 ルードが力を入れるがそんな力じゃ俺の腕を剥がす事なんて出来ねえよ。


「タ、タスマン!」


 タスマンとか言う護衛騎士が剣を構える。


「この痴れ者の首を斬れ!」

「はい! この、坊ちゃまの手を離せ無礼者が!」


 タスマンが剣を俺の首筋に剣を振り下ろす。


『キーン……』


 甲高い音が遠くへ響く。

 タスマンが振り下ろした剣は俺の首に当たった瞬間、金属音と共に二つに折れた。


「なっ、剣が……馬鹿な……っっっ!」


 タスマンの顔を空いた手で殴った。

 鼻に拳がめり込んだと思った直後、タスマンは後ろへ飛んでいった。

 そのまま建物に背中をぶつけ、ずるずると地面に滑り落ちていく。


「お、おい。タスマン! タスマン!」


 ルードは護衛の名前を呼ぶが返事はない。


「うぅぅ……父さん! リックン様!」


 後ろの二人に声をかけるがフォード・レナウン子爵は俺とタスマンを交互に見ては顔を青ざめており、同様にリックンも何か言いたいのだろうがデフを見て目を閉じた様子から、恐らく状況的に庇えないのだろう。


「ひっ、ひいいいい!」


 悲鳴を上げて震え始めルードの下には水溜まりが出来た。

 リア様が俺の背中に手が触れる。

 しょうがなく手を離すとルードは地面に倒れ込んだ。

 自分の汚水がつくのも気にせずルードはずりずり後ろに下がり、ひああ……という悲鳴にも似た声を出す。


 もう良いか……そう思ったのだが、ルードが腰に付けている豪奢な袋からいくつかの石が落ちた。

 どれも指輪だったりネックレスだったりと宝石をあしらった装飾品だ。

 ちなみにいちいちリア様に渡そうとしては断られていた。


 さらっと銀混じりの精錬されていない小さな鉱石があり、こいつ採掘場からパクったのかと更に軽蔑の視線を送っていたのだが、その中の一つの宝石を見て思わず見入ってしまった。

 紐のかかっている宝石、緑と赤交互に光っている石はあの竜人の……?


 瞬間。

 街の端の方で何かが爆発するような音が鳴った。

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