祈りは空の月に、あなたの願い光の欠片、祝福があらんことを
主人公視点
港国ヒズナに着くとすぐに、入口の見張りに付いていた冒険者が異常に気付き駆け寄って来た。
「どうしたんだ?大丈夫か?」
このヒズナと言う港国は、国であって国ではない。冒険者が集まって、いつのまにか国のようになったのだ。(あれ、こんな設定知ってたっけかな?)
「――良かった。レン良かったな」
張り詰めた緊張感から解放されるように、カレンがその場に崩れ落ちる。
「あぁ。すぐ呼んでくるから待ってな」
見張りの冒険者がそう言うと、すぐに街の方に駆けて行った。カレンの言葉に、見張りの冒険者の言葉――。いったい何がどうしたのか、俺には全く分からない。
程なくして、先ほどの冒険者が戻って来る。その後ろには、司祭服を着た四足歩行のふつうの猫がいた。(ゲームのガチャ画面にいる、まんまアヌ猫じゃねぇか)
「名前は、何て言うのかにゃ」
横たえたレンフォードの傍で、カレンは手を組み膝を付き礼拝の装いで祈りを捧げている。
「レンフォードです」
実際にアヌ猫が、恭しくお辞儀をする様子に少しの感動を覚えた。クーシュも隣で、可愛いものを見るまなざしで見ている。(そんなところだけ女の子なんだよな)
「神にさずかりし魂を今お返しいたします」
最後にアヌ猫がそう言うと、レンフォードの体が光の欠片になって2つの月に向かって昇っていく。カレンも、見張りの冒険者も、アヌ猫も、クーシュも俺もいつまでも光が粒子のように小さくなって見えなくなるまで空を仰ぎ続けた。
「すまない、俺達幼い時から奴隷だったから今のにどんな意味があるのかわからないんだ」
不思議に思った俺は、みんなに聞こえるように話した。
「そうか、あたいも孤児院の出だからな。小さい時は、わかんなかったんだ。成人の儀のとき、祝福を受けた時のことを覚えてるかい?」
首を横に振って答えた。
「中には覚えてない子もいるからいいんだ。その時のことを覚えている子もいて、そんな子たちは決まってこう言うんだ」
『神様にあった』と。
「実はあたいも神様にあった覚えている子だったんだ。神様は声だけだったんだけど、あたいにこう言ったんだ」
『祈りは空の月に、あなたの願い光の欠片、祝福があらんことを』
(うん。ガチャの時に流れるムービーの文字だな)
「レンがどっちだったのかは、あたいも知らない。レンはそのことを話したがらなかった。あたいは、レンには声は聞こえなかったんじゃないかって思ってる。時々、レンは思い詰めた表情をしてたし、レンにはすごい祝福は無かったんだ。レンは努力だけで冒険者になったすごい自慢の弟なんだぞ」
カレンはまるで自分のことのように嬉しそうに話した。でも、涙が止まっていないことが俺には痛いほど胸を締め付けて苦しかった。
「祈りはボクの仕事なのにゃ」
アヌ猫が真剣なまなざしで、胸をドンと張っている。(ふつうの猫なのは言うまでもない。不思議な光景だ――)
「この世界には、勇者と魔王がいるのにゃ。祝福は、神様が世界の安寧と平和のためにくださるのにゃ。そして、祝福を受けたものは来世での生まれ変わりが約束されているのにゃ」
『光の欠片となりてあなたが還るその時まで、覚えておいて、人の子よ来世でもあなたはあなたなのです』
「神様は祝福から、子が目を覚ます前に、その子の魂が迷わないようにそう教えてくれるのにゃ。だからレンフォードもきっと来世にいて、いつかきっと会えるのにゃ」
(もし――、そんな来世があるのなら俺も行ってみたいと思う)
「この魔王軍と紛争中の世の中じゃ、戦争に駆り出されたり、冒険者としてか生きてゆけなかったりで、その時の言葉だけが拠り所なんだ」
見張りの冒険者が、アヌ猫の言葉に付け加えるようにそう教えてくれた。流れる時が止まらないように、俺もまた苦しみや悲しみと共に歩み進んでいく。このとき俺は冒険者が背負っているもの、未来への渇望が少しだけ分かった気がした。




