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第9話 光のある場所へ

アイクは村(むら)の道を歩(ある)きながら、まわりの景色(けしき)を見て、自分のいる場所(ばしょ)が信(しん)じられなかった。

彼は急(いそ)いでまわりを探(さが)したけれど、どこにもアンナの姿(すがた)はない。

(ここは一体(いったい)どこだ……? アンナさんはどこへ行ったんだ……?)


疑問(ぎもん)を抱(かか)えながら歩いていると、村の中心(ちゅうしん)に到着(とうちゃく)した。そこには作りかけの木造(もくぞう)の家(いえ)があり、その前に、質素(しっそ)な服(ふく)を着(き)た人が立っていた。

その懐(なつ)かしい背中(せなか)を見て、アイクの心臓(しんぞう)が速(はや)くなる。未来(みらい)で数(かぞ)え切(き)れないほどの戦(たたか)いを勝ち抜き、大陸(たいりく)を一つにする王――。

アイクはゆっくりと近づき、自分にしか聞こえないような小さな声で呟(つぶや)いた。

「王よ……」


前の人は小さな音(おと)に気づき、不思議(ふしぎ)そうに振り返った。

「おや? アイクじゃないか! どうしてそんなに真面目(まじめ)な顔(かお)をしているんだ?」

その顔とまわりの景色を見て、アイクはハッと気づいた。ここは確かに自分の世界だけれど、どうやら過去の時代らしい

アイクは少し頭(あたま)をかきながら聞いた。「イオリさん、どうしてここにいるんですか? その……戦いとかは、どうなったんですか?」

「戦い?」イオリは不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔(えがお)になって言った。「まあ、そんなことはいいさ! 見てくれ、この建物(たてもの)がやっと完成(かんせい)するんだ! 私の第一歩(だいいっぽ)も、ここから始まるんだよ!」


しかし、もうすぐ完成する建物を見つめるアイクの心(こころ)は、深く沈(しず)んでいった。

なぜなら、彼は知っているからだ。近い未来、みんなで頑張(がんば)って作ったこの建物が、無情(むじょう)な大火事(おおかじ)で完全に燃(も)えてしまうことを。


「何か悩み事(なやみごと)でもあるのか?」

イオリはそう言いながら、近くの長いベンチに座(すわ)した。

そして、隣(となり)の空いている場所をポンポンと叩(たた)き、アイクに座るよう合図(あいず)した。

アイクは静かに隣に座り、深くため息をついた。

「今回……僕が引き受けた任務(にんむ)は、想像(そうぞう)以上に難しいかもしれないんです。その人をどう助(たす)ければいいかわからないし、意見(いけん)がバラバラな人たちを、どうやって集(あつ)めればいいのか……」

アイクは下(した)を向(む)いて迷(まよ)っていた。「今の僕は、まるで夜(よる)の暗い森(もり)の中で道に迷ったみたいです。僕はどうすればいいんでしょうか?」


その言葉(ことば)を聞いて、すぐに優(やさ)しく笑ってアイクを見た。

「お前は昔(むかし)からそうだね。得意(とくい)なことのときは世界中の誰も止められないくらい自信満々(じしんまんまん)なのに、自信(じしん)がないときはアリみたいに弱(よわ)くなっちゃうんだから」


イオリは立ち上がり、村で楽しそうに暮(く)らす人々(ひとびと)を見つめながら言った。

「実はね、私自身(わたしじしん)も自分がこの村の村主(むらしゅ)になるなんて思っていなかったんだ」

アイクも立ち上がり、イオリの隣に並(なら)んだ。

「道に迷うことは誰(だれ)にでもあるさ」イオリはアイクの肩(かた)に優しく手を置いた。「でもね、だからといって、ずっと同じ場所にいる必要(ひつよう)はないんだよ。アイク、もし夜の暗闇(くらやみ)の中で光(ひかり)が見えなくなっても、怖(こわ)がらずに進むんだ。光がある場所に到着(とうちゃく)するまで、歩き続けるんだ」


その温(あたた)かい言葉を聞いた瞬間(しゅんかん)、アイクの耳元(みみもと)で、誰かが小さく自分の名前(なまえ)を呼(よ)ぶ声が聞こえた。

イオリの姿がぼやけていき、彼女の声も村の景色と一緒に、ゆっくりと遠(とお)ざかっていく……。


「――アイク、アイク?」

アイクはハッと目を覚まし、息(いき)をのんだ。

目を開(あ)けると、目の前にアンナの綺麗な顔が、鼻(はな)の先(さき)が触(ふ)れそうなくらい近くにあった。

「うわあっ!?」

アイクはびっくりして、思わず後ろに下がった。


アンナはタオルで、まだ濡(ぬ)れている髪(かみ)を拭(ふ)いていた。アイクの大きな反応(はんのう)を見て、彼女はパチクリと目を丸くした。

「なんだか眠(ねむ)っていそうだったから、声をかけたのよ」

「あ……は、はい。ど……どうしたんですか?」アイクは少し焦(あせ)って聞いた。

「大(だい)したことじゃない」アンナは体(からだ)を起こして、楽しそうに笑った。「私が使い終わったから、次はあなたの番(ばん)よって言いに来ただけ」


しかし、アイクがまだぼんやりとしていて、目の中に迷いと衝撃(しょうげき)が残っているのを見て、アンナは少し不思議そうにした。彼女は隣に座り、心配(しんぱい)そうに聞いた。

「どうしたの? なんだか悩み事があるみたいだけど」


部屋(へや)の中が静(しず)かになった。

アイクは下を向き、自分の手にある日本刀を真面目な顔で見つめた。少し沈黙(ちんもく)した後、低い声で言った。

「さっき……僕の元の世界に戻(もど)っていたような気(き)がするんだ」

「自分の世界に!?」アンナは驚(おどろ)いて口を少し開けた。

「うん……確かに僕の世界だったけど、タイムラインが違(ちが)っていた。すごく昔のことだ」

「本当(ほんとう)!? 誰か知っている人に会った?」アンナの好奇心(こうきしん)が一気に燃(も)え上がった。

「イオリに会ったんだ」


「イ、イイ――イオリ……!?!?!?」

その名前を聞いた瞬間、アンナは両目(りょうめ)を輝(かがや)かせ、興奮(こうふん)のあまり言葉が詰まっている。

「あ、あなた、あの伝説(でんせつ)の王、イオリに会ったの!? さ、サインはもらった!?」


アイクは、まるでアイドルを追いかけるファンのようなアンナを見て、呆(あき)れたように首を振(ふ)った。それから、彼は窓(まど)の外を見て、少し寂(さび)しそうに呟いた。

「君は最初(さいしょ)から……最初からイオリを選べばよかったんだ。イオリなら、今のこんな複雑(ふくざつ)な状況(じょうきょう)なんて、きっと簡単に解決していただろうから……」


その言葉を聞いて、興奮していたアンナはすぐに冷静(れいせい)になった。

部屋の中に数秒の沈黙が流れた。アンナは、いつもと違って自信をなくしているアイクを見つめ、その目はだんだんと優しくなった。

「アイク」アンナは静かに話し始め、ゆっくりと自分の胸(むね)に手を当てた。「知ってる? 元の世界でのあなたはね、どんなに大きな困難(こんなん)に出会って、苦しくて倒(たお)れても、最後には必ずもう一度立ち上がる人なのよ」

彼女は目を伏(ふ)せて、少し恥ずかしそうに笑った。「私だったら、そんなこと絶対にできない……だから、私はあなたから学びたいって、ずっと思っていたの。あなたみたいに強(つよ)くなりたいって」


アンナはもう一度顔を上げ、輝く目でアイクを真っ直ぐに見つめた。

「だから、私が言いたいのはね! あなたは自分にもっと自信を持つべきだ……は、はっくしゅん――!!」


熱い感動的(かんどうてき)なスピーチは、突然(とつぜん)の大きなクシャミによって無情にも遮(さえぎ)られた。

アンナは髪を乾(かわ)かしていなかった上に、夜風(よかぜ)に吹かれたため、寒さで体を縮めて気まずそうに鼻をすすった。

「……私が言いたいのは……はっくしゅん!! もっと自分に自信を……はっくしゅん――!!」


三回連続(れんぞく)で大きなクシャミをした後、アンナはタオルで格好(かっこう)悪く鼻を拭きながら、顔を真っ赤にした。せっかく作った感動的な雰囲気(ふんいき)は完全に消え去ってしまった。

「うぅ……も、もういいわ。残りの話はまた今度(こんど)ね!」

アンナは恥ずかしさのあまり、タオルを握りしめて逃(に)げるように部屋を飛び出していった。


しかし、この突然のハプニングのおかげで、部屋の重苦しい空気(くうき)はすっかり消えていた。

アンナの逃げていく後ろ姿を見て、アイクは数秒呆然(ぼうぜん)とした後、彼女の面白い様子についクスッと笑ってしまった。

ドアが閉(し)まると、アイクは手にある長刀を見つめ、笑顔を収(おさ)めて少し吹っ切れたようにため息をついた。

「もう一度立ち上がる、か……?」


---


次の日の朝(あさ)。

温(あたた)かい朝の光が差し込み、みんなはまたエリアの広くて明るいリビングに集まっていた。

そのとき、シュウはすでに真面目な顔で席(せき)に座っており、みんなをかなり前から待っていたようだった。


「エリアさん、シュウさん、おはようございます!」

二人を見て、ヒカリは少し緊張しながら急いで頭を下げて挨拶(あいさつ)した。


席に着(つ)くと、アンナは真面目な顔で、あの【第三章】と書かれた、今もかすかに光るシナリオの紙を取り出した。

みんなの出会いを決めたこの不思議な紙を見つめながら、これからどう動くべきか、全員が考え込んでいた。


「そうだわ」アンナは突然ポンと手を叩き、隣の主人公を見た。「アイク、あなたはまわりを探索(たんさく)して、自動(じどう)で地図(ちず)を作る能力(のうりょく)を持っていたわよね? それを使って次の章のヒントを探せないかしら?」

外れ、アイクは少し困ったように頭をかき、苦笑いしながら首を振った。「あのスキルには……制限(せいげん)があるんだ。同じ場所では一回しか使えない。前に使ってしまったから、今はここで新しく探索することはできないんだ」


リビングは再び沈黙に包(つつ)まれた。みんながいくら考えても答えが出ないとき、部屋の隅(すみ)に座っていたヒカリが光る紙を見つめながら、おずおずと口を開いた。

「あの……もし、本当に脚本が全部決(き)まっているなら……私たちが何もしなければ、何も起こらないんじゃないでしょうか……?」


その瞬間、リビングの空気がピタッと止(と)まった。

アンナ、アイク、シュウ、エリアまでが同時に動きを止め、一斉(いっせい)にヒカリの方をじっと見た。

四つの視線(しせん)を同時に浴びて、ヒカリはビクッと驚き、慌(あわ)てて両手を振(ふ)って謝(あや)まった。

「ご、ごめんなさい! 諦(あきら)めたいっていう意味じゃないんです! ただ……ちょっとそう思っただけで……」


「フン、くだらないな」

隣にいたシュウが突然深くため息をつき、イライラした声で言葉を挟(はさ)んだ。「ここでシナリオの謎解(なぞと)きをするなんて時間の無駄(むだ)だ。紙切れ一枚に振り回されるくらいなら、いっそのこと直接(ちょくせつ)魔王(まおう)を探しに行こう! 元凶(げんきょう)を直接片付けた方が時間の節約(せつやく)になる」


エリアはそれを聞いて、少し心配そうに眉(まゆ)をひそめた。「それはダメよ。今の私たちの実力(じつりょく)じゃ、魔王に勝てる保証(ほしょう)なんてどこにもないわ……」


「いや……それはいいアイデアだと思います」

アイクが突然口を開き、二人の言い合いを止めた。みんなの意外そうな視線を受けながら、彼は論理的(ろんりてき)に説明(せつめい)した。

「僕たちの今の実力は、もう元の物語の設定だけに縛られてはいない。今のアンナさんには、速度(そくど)を大幅(おおはば)に上げるスキルがある。それから……あともう一つの……」

アイクが名前を思い出せずにいると、アンナは笑ってアイクの肩をポンと叩き、小さな声で教えた。「集中線(しゅうちゅうせん)よ」


「あ、そう、『集中線』だ!」アイクは頷(うなず)き、強い目で言葉を続けた。「この二つのスキルによる強化(きょうか)は、僕が自分の魔力(まりょく)で自分を強化するスキルよりも遥(はる)かに強い。それに僕の戦闘経験(せんとうけいけん)と、ヒカリの分析能力(ぶんせきのうりょく)があれば、本当に勝てるかもしれない。それに、もしこのまま受動的(じゅどうてき)な状態でいて、万が一この脚本が魔王の手へと渡(わた)ってしまったら……そのときは、本当に手遅(ておく)れになります」


アイクの長い説明を聞き終えた後、みんなはしばらく何も話さず、それぞれのメリットとデメリットを真剣(しんけん)に考えていた。

「フン、なら決(き)まりだな」シュウが最初に立ち上がり、自信ありげに口元を上げた。


---


それから間(ま)もなく、みんなは荷物(にもつ)をまとめ、エリアの家の前に一緒に立っていた。

出発(しゅっぱつ)する前、アンナは静かに装備(そうび)をチェックしているシュウの後ろへ歩み寄り、優しい声で言った。

「シュウ、ありがとう。私たちに協力(きょうりょく)して残ってくれて」


その声を聞いて、シュウは手を止めた。彼は少しだけ顔を横に向け、冷たくフンと鼻(はな)を鳴らした。

「勘違い(かんちがい)するな。これは勇者(ゆうしゃ)としての義務(ぎむ)を果たしているだけだ」

そう言うと、彼はすぐに体(からだ)を翻(ひるがえ)し、振り返ることもなく前へ歩き出した。


みんなが町を出ると、シュウは懐(ふところ)から世界地図(せかいちず)を取り出し、ある方向を指差(ゆびさ)した。そして、迷いのない力強い声で言った。

「決まったなら、まずはここから一番近い町――エルフの町へ行くぞ!!」

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