第10話 エルフのまちの森へ!
みんなはエルフのまちの森へとむかって歩いていた。あたりはしんと静まりかえり、誰も口を開こうとしない。ヒカリと一緒にいるラルは、きもちよさそうにヒカリの頭の上で寝そべっている。チームのいちばん前では、エリアとシュウがならんでみんなを引っ張っていた。
アンナは歩きながら、手にしたタブレットをずっといじり、ほかに使えるスキルがないか試している。アイクはアンナのとなりに立ち、いつでも動けるようにまわりを警戒していた。だけど、体の奥にはまだ重い感覚が残っている。さっきの毒がすこし体の中に残ったままで、じんじんと痛んでいた。
エリアはわざと歩くスピードを落とし、二人だけに聞こえる小さな声でシュウにたずねた。
「シュウ、彼らと協力するなんてびっくりしたわ。てっきり……まだアンナさんに怒っているのかと」
シュウは前を向いたまま、冷たく言い放った。
「勇者としての責務は、俺個人の感情より重い」
そう言うと、彼は足早に前へと進んでいく。
「……だけど、許したわけじゃない」
エリアは深く息を吸い、そしてゆっくりと吐き出した。シュウのいじっぱりな後ろ姿を優しく見つめながら、何も言わなかった。
そのとき、シュウが急に足を止めた。みんなもそれを見て、あわてて足を止める。
シュウは手をあげて、目の前にある普通の林を指さした。
「あそこがエルフのまちだ」
みんなは目の前の、ただ木が生い茂っているだけのさびしい森を見て、不思議そうな顔をした。
「エルフのまち……?どこにあるの?」
シュウは何も説明せず、そのまま歩き出したが、ある一歩を踏み出した瞬間、みんなの目の前からかき消えるように消えてしまった!
「えっ!?」
みんなは驚き、すぐあとに続いて進んだ。ある境界線を通り抜けたとき、透明な波のバリアをくぐり抜けたような感覚がした。目の前の景色がぱっと広がり、なんと緑がいっぱいで命あふれる不思議な森の中へとたどり着いていた。
「ここがエルフのまちだ。ただ、方向は……」
シュウはまわりを見回し、草木の中で正しい目印を探そうとした。
このとき、アイクが一歩前に出て、手のひらを開いて短く叫んだ。
「【SEEK】!」
光と魂の形をした鳥が、彼の手のひらから飛び出した。しかし、シュウは急に顔色を変え、怒鳴りつけた。
「待て!バカ!」
魂の鳥はすばやく前へと飛んでいき、前方の茂みを通り抜けようとしたその瞬間、シュッという音とともに、どこからか放たれた鋭い矢が鳥を撃ち抜いた。鳥はその場で光の粒となって消えてしまった。
シュウは焦りと怒りのまじった声で低く言った。
「ば……バカ!そんなスキルを勝手に使ったら、エルフたちに敵だと思われるだろ!」
みんなはゾッとして、すぐに警戒するポーズをとった。そのとき、まわりの木の上から、透き通っているけれど敵意のこもった女の声が聞こえてきた。
「あなたたちは誰?ここは勝手に入ってきていい場所じゃないって知らないの?」
また風を切る音が響いた!シュッ――!
矢がみんなにむかって飛んできた。アイクは目を鋭く光らせ、すぐに日本刀を抜いた。冷たい光が走り、飛んできた矢を真っ二つに切り裂いた。
シュウはすぐに大声を張り上げた。
「オレはシュウだ!攻撃をやめろ!」
「シュウ……?」森の中から男の驚く声がした。そして、男の声は挑発するようなトーンに変わった。「なら、その力で証明してみせろ!!」
「チッ」シュウはうっとうしそうに舌打ちをした。
アイクは低い声で注意した。「この森の中でエルフと戦うのは、オレたちに圧倒的に不利だ」
このとき、小さかったラルが低くうなり、一瞬で体を大きくして、ヒカリの前をがっちりと守った。
シュウはその場でしゃがみ込み、両手を左右に大きく広げて、後ろの仲間に叫んだ。
「一分間、」
言い終わるやいなや、激しい嵐がシュウのまわりをぐるぐると回り始めた。エリアは表情を引き締め、すぐに杖をかかげて身構えた。
アンナはあわててタブレットを取り出し、「お、おぅ!わかった!」と返事をした。
アイクはそれを見て深く息を吸い、静かに言葉をこぼした。
「【魔力波動】」
アイクを中心に、目に見えない衝撃の波が円のように広がっていき、まわりの木々が大きな波に打たれたように激しく揺れた。続いて、アイクは顔を横に向けてアンナに叫んだ。
「アンナさん、もう一本、剣を描いてくれませんか?」
「オッケー!」アンナは迷わず大きくうなずき、タブレットの上で指をものすごい速さで動かした。光がピカッと光り、アイクのもう片方の手に、同じように鋭い長剣が現れた。
二本の剣を握ったアイクは目を閉じ、空気の動きに全神経を集中させた。
シュッ!シュッ!シュッ!
激しい風切音が森に響き渡る。アイクはカッと目を開け、矢が飛んでくる方向へと思い切り突き進んだ!アンナがタイミングよく描き足した「スピード線」の効果で、アイクはまるで残像のようになった。彼は急ブレーキをかけて体をひるがえし、二本の剣を交差させ、まずはエリアにむかってきた二本の矢を正確に弾き飛ばした。さらに地面を蹴って高く跳び、空中で華麗な弧を描きながら、アンナにむかう矢をすべて切り落とした!
となりで見ていたヒカリは、アイクが二本の剣を持って飛び回り、矢の雨を防ぐ姿を見て、そのなめらかな動きがあまりにもかっこよくて、一瞬見とれてしまった。
しかし、相手の矢の数はさらに何倍にも増え、スピードも上がっていった。アイクは体に残る毒の痛みをこらえながら、必死に二本の剣を振るったけれど、矢が多すぎて隙間がない。いくつかの鋭い矢がディフェンスをすり抜けてアンナに当たりそうになったそのとき、かたい魔力のバリアが急に現れ、矢をがっちり止めた。
エリアは杖をかかげ、アンナを安心させるように言った。「心配いらないわ!」
それでも攻撃はどんどん激しくなっていく。いくら強いアイクでも、これほど激しい攻撃と毒の痛みのダブルパンチでは、動きにすこしズレが出始めていた。まず肩を矢にかすられ、続いて太ももにも傷がつき、血がズボンを赤く染めた。
このままではやられる。アイクは自分の動きが矢のスピードに追いつかなくなっていることに気づいた。その大ピンチの瞬間、一発の矢が、大きくなったラルの守りの死角を正確にすり抜けた。冷たい風の音を立てながら、何も気づいていないヒカリのほうへとまっすぐ飛んでいく!
「まずい――!」アイクは目を見開いたが、もう間に合わない。
「空間圧縮!!!」
シュウがドスのきいた声で叫んだ瞬間、彼を中心にした空間がぐにゃりと歪んだ。ものすごい引力が目に見えない大きな手となり、ヒカリに当たりそうだった危険な矢を空中でピタッと止めた。それだけでなく、森の奥に隠れて攻撃してきた二人の影を、飛び散る矢と一緒に、ものすごい力で無理やり引き寄せた!
アイクは太ももの傷を押さえ、息を切らしながら、となりのアンナに小さな声で聞いた。
「これが勇者の本当の実力なのか……?」
アンナは頭をかきながら、バツが悪そうにハハハと笑った。
「……あはは、まあ勇者だからね。でも、前に設定を作ったとき、これじゃ強すぎるなと思って、いろいろ制限をつけたんだよ。カミナリは雨雲が広がってないと使えないとか、引力は今みたいに一分以上めちゃくちゃ集中しないといけないとかね」
アイクは不思議そうに尋ねた。「どうしてわざわざそんな制限を?」
アンナはいじわるそうにウインクをして、彼の耳元で小さくささやいた。
「だって、主人公がわざを出しただけで一発で勝っちゃったら、お話のハラハラ感がなくなっちゃうじゃん!」
アイクの驚いていた顔ががくっと崩れ、苦笑いしながら首を振るしかなかった。「はぁ……そうなんですか……」
そのとき、ヒカリとエリアがあわてた様子でアイクのそばに駆け寄ってきた。
「あ、あなた……大丈夫!?」ヒカリはアイクの体についた血を見て、目をうるませた。
エリアはすぐに優しい緑色の光を集め、アイクをなだめるように言った。「心配しないで、今から治療するわね」
緑色の魔力がアイクの傷を癒していくのを見ながら、となりに座ったシュウは意外そうに眉をひそめ、手首を回しながら口を開いた。
「二刀流まで使えるなんてな。お前、」
アイクは治療を受けながら、シュウを見て答えた。「ああ……オレの師匠がものすごく剣が上手くてね、これは昔その人に教わったんだ」
その言葉を聞いた瞬間、アンナの目がゴシップ好きな子供のようにキラキラと輝いた。興奮しながらアイクの耳元に顔を近づけ、ものすごく小さな声で問い詰めた。
「イオリに教わったんでしょ?ねえ、そうでしょ、そうでしょっ???」
アイクはすぐ近くにあるアンナの顔を困ったように見つめ、小さくうなずくしかなかった。「うん……」
一方、強い引力で無理やり引っ張られて地面にひっくり返った二人は、目を回しながら頭を押さえていた。
耳の長いエルフの女の子は頭をなでながら、不満そうに文句を言った。「もう……冗談じゃないわ、チートよ、チート……」
となりに大の字で倒れているエルフの男の子も、弱々しくうめいた。「こんなの……ずるすぎる……」
シュウは彼らの前に立って上から見下ろすように言った。
「先に手を出してきたお前たちが悪い」
エルフの男の子は納得がいかないように、お尻をさすりながら言い返した。「僕たちのせい……?先にそっちが変な鳥のスキルを使ったから、僕たちはやり返しただけじゃないか!」
アイクはしかたなく二本の剣をしまい、前に出て申し訳なさそうに間に入った。
「す、すみません。ここに、勝手にスキルを使ってはいけないルールがあるなんて知らなかったんです」
頭を押さえていたエルフの女の子が、その声に気づいて顔をあげた。アイクのさわやかでかっこいい顔と目が合った瞬間、彼女はビクッと体を震わせ、急にシャキッと起き上がった。
彼女の心の中は大騒ぎだった。(うそ……カ、カッコいい……超イケメン……!!!)
次の瞬間、彼女ははいつくばるようにアイクの前に突っ込んできて、アイクの手をぎゅっと握りしめ、目をキラキラと輝かせながら大声で叫んだ。
「だ、大丈夫よ!!全然問題ないから!うん!!」
アイクは急にものすごいテンションで迫られてびっくりし、その場で固まってしまった。気まずそうに口元を引きつらせる。「え……あ……」
となりにいたエルフの男の子は、自分の姉のみっともない姿を見て、あきれ果てて目を丸くした。
「お姉ちゃん、もう相手に迷惑かけるのやめなよ。恥ずかしいなぁ」
それから、彼はシュウのほうを向き、真面目な表情に戻って言った。
「それで……有名な勇者のシュウ、あなたたちはここへ何をしにきたの?それに、見たことのない顔が多いみたいだけど」
シュウはすこし疲れたようにため息をつき、眉間を指で揉みながら言った。
「説明すると長くなる。まずは、お前たちの村長のところへ連れていってくれないか?」




