表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/23

第19話 修行の時間4

一同が前線で死闘を繰り広げる中、後方で冷然と戦況を見つめていたシルヴィアの瞳に、瞳に思案の色が浮かんでいた。

彼女の脳裏には、先ほどの一幕がフラッシュバックしていた――アンナが描き出した巨岩、シュウの足元へ描き加えられた奇妙なスピードライン。そして以前、滝の前で無から構築してみせた奇怪な造形物。

シルヴィアは手を顎に添え、深く思考を巡らせる。

(滝の時は、召喚術を組み合わせた特殊な擬態魔法か何かだと思っていたけれど……どうやら、シュウの言っていたあの戯言は、すべて本当のことのようね)

(だとしても、もしあいつが本当にこの世界の『創作者』なのだとしたら、なぜ全力を出すことができないのかしら?)


シルヴィアはヒカリへ視線を向けた。そして不意にアンナの背中を指差し、拒絶を許さぬ威厳に満ちた声で命じた。

「あの女について知っていることを、すべて話しなさい。一言も漏らさずにね」


その頃、戦場の中央では。

変貌を遂げたミノタウロスが、血走った眼で一同を睨みつけていた。次の瞬間、奴は神速でシュウの眼前へ迫る!

「っ、速い――!」

シュウは本能的な危機感を覚えて咄嗟に後方へ跳んだ。アンナのスピードラインによる加速も加わり、辛うじて距離を突き放す。


「どこへ逃げる気だぁ!!」

魔物は狂暴に吠えた。その速度は、スピードラインの加速にすら追従してきた。

(ヒュンッ!)

漆黒の巨斧がシュウの頭上を獰猛に掠め、シュウは身を低く沈めてそれを寸前で回避する。しかし、振り下ろされた刃の残気には、禍々しい瘴気がまとわりついていた。シュウが体勢を立て直す間もなく、さらなる猛烈な縦斬りが彼の脳天を叩き割らんと振り下ろされる!


「――【神聖盾セイクレッド・シールド】!!」

エリアの咄嗟の詠唱が間に合った。眩い光の障壁が展開され、辛うじてその致命的な一撃を喰い止める。しかし、シュウが立ち上がろうとしたその刹那、魔物の追撃が彼の腕を鋭く引き裂いた。傷口から侵入した邪気が、まるで毒蛇のようにシュウの腕にへばりつき、激しく蝕み始める。


「ぐああぁっ……!」

それを見たエリアの顔が驚愕に強張った。

「そんな……不可能よ。勇者なら、魔族の邪気なんて影響を受けないはずなのに……!」

「どういう……ことだ……?」シュウは苦悶に喘ぎながら、自らの腕で暴れる黒い霧を睨みつけ、その瞳に激しい動揺を走らせた。


勇者が……魔物の邪気に圧倒されている?

その光景を目の当たりにしたアンナは、冷や汗を流しながら自らのタブレットを凝視した。大脳をフル回転させ、自分がかつて設定した物語のルールを必死に手繰り寄せる。

(おかしい。この物語の勇者、こんなに苦戦するはずがない。私、一体この世界にどんな制限を仕込んじゃったのよ!?)


焦燥感に駆られたアンナは、再び新しいキャラクターを画面に描き、実体化させようと試みた。しかし――いくらペンを走らせても、画面は虚しく明滅するだけで、何の手応えも返ってこない。

「あーもう、なんでよっ!」アンナはもどかしそうに頭をかきむしった。「あの時はアイクを召喚できたのに、なんで今は他の人を誰も呼び出せないの!?」


戦況はすでに最悪の局面的に陥っていた。エリアが必死に障壁を張り続けてシュウを護るものの、シュウは邪気の侵食によって防戦一方となり、魔物の猛攻をただ受動的に耐え忍ぶことしかできない。

「ハハハハ! どうしたぁ!? 反撃してみろよ!!」

ミノタウロスは勝ち誇ったように嘲笑い、渾身の力で叩きつけた。凄まじい衝撃波がシュウの刀を伝って炸裂し、彼の身体を砲弾のように消し飛ばした。シュウは背後の石壁に激突し、凄まじい音を立てて崩落した瓦礫の山へと埋もれていった。


魔物はその巨大な眼球をぎらつかせ、アンナを真っ直ぐに見据えた。

「そんな神器を持ちながら、その程度の力しか引き出せぬか」


神器……自慢、自....慢...、その瞬間、アンナの脳裏に閃きが走った。

(――そうか。そういうことだったんだ!)*

(シュウはずっと、滅ぼされた村への想いを信念にして戦ってきた。でも、私が現れたせいで、その信念そのものを疑い始めてしまったの……?。だから、彼の戦力は大幅に弱体化している……!)*


(だけど、今の私に一体何ができるっていうの……?)

アンナは思わず後方のシルヴィアへと視線を向けた。だがその瞬間、これまで沈黙を保っていたシルヴィアが、冷徹な声を響かせ劇的に。アンナの背中を静かに射抜く。

「――逃げ出したいの? アンナ」


(ガラガラッ――!)

その言葉と同時に、遠くの廃墟から重苦しい石の擦れる音が響いた。

シュウが、身体を押し潰していた巨石を左手で押し退け、血と泥にまみれながらも、崩壊した瓦礫の中からゆっくりと、だが確実に再び立ち上がったのだ。


しかし、シュウの負った重傷は深刻だった。右腕に絡みつく邪気は執拗に肉を刻み続け、彼の精神を内側から激しく蝕んでいく。

(意識が……邪気に引っ張られる……!)


その思考を断ち切るように、ミノタウロスが一瞬でシュウの目前へ迫る。弁解の余地すら与えぬ容赦のない一撃が振り下ろされ、シュウは再び遥か彼方へと吹き飛ばされた。血溜まりの中に倒れ伏す勇者を、魔物は冷たい眼で見下ろす。

「使えん奴だ」


「そ、村長……!」ジョエルは目を見開き、焦燥に駆られてシルヴィアへと詰め寄った。「シュウの様子が明らかにおかしいです! 早く加勢してください、あなたがいればこんな戦闘、簡単に終わるはずなのに……!」

だが、シルヴィアは何も答えず、ただ静観を続けていた。


ミノタウロスは自らの肉体がこの形態は長く維持できないことを察知した。奴は低く身を沈め、大型魔術の行使へと移行する。

「――【黒き魔弾】」

上空に邪悪な気配無数の黒い魔力弾が出現し、村の正門や外壁めがけて一斉に降り注いだ!


「――【神聖包囲】!!」

エリアが叫び、法杖から放たれた光の球体が一同を包み込んだ。激しい爆音とともに魔力弾が光球の障壁に激突する。直撃こそ免れたものの、正門と外壁は無残に破壊され、大小のクレーターと不気味に燃え盛る邪気の炎が辺りを地獄絵図へと変えた。


「なんてことだ……これほどの破壊、次の攻撃が来たら俺たち全滅だぞ……」ジョエルが絶望の声を漏らす。


ミノタウロスは自身の戦斧で空間を裂き、不気味な漆黒の亀裂を作り出した。

「お前たちの命運もここまでだ。首を洗って待っていろ」

奴が亀裂へと足を踏み入れようとしたその刹那、シルヴィアが突如としてジョエルの弓を奪い取った。わずか一瞬の凝視の後、放たれた矢が空を切る――しかし、その矢は魔物の身体を大きく逸れて背後の地面へと突き刺さった。魔物はそのまま冷笑を遺し、亀裂の中へと消え去った。


「嘘だろ……あの百発百中のシルヴィア様が、外すなんて……」

ジョエルは信じられないといった様子で呆然と立ち尽くした。


しかし、シルヴィアは静かに弓を下ろすと、うつむいたまま、本当にわずかに満足げな笑みを浮かべた。

(――やっぱり、予想通りね)


「シュウ! しっかりして!」

魔物が去るや否や、アンナとエリアは這うようにしてシュウの元へと駆け寄った。傷口を見た二人は息を呑んだ。邪気が生き物のようにシュウの肉体を侵食している。

「すぐに治療を……でも、神聖魔術が邪気と反発して、逆にシュウの身体を痛めつけてしまうわ……!」


そこへ、シルヴィアが静かな足取りで歩み寄ってきた。彼女は懐から一本の小瓶を取り出すと、それをシュウの口元へと運んだ。

「エルフの村が最高級の回復薬よ。これを飲ませなさい」

シルヴィアは冷然とした口調のまま、エリアに告げた。「魔物はすぐにまた攻めてくるわ。エリア、あんたは魔力を温存しておきなさい。……ジョエル、シュウを早く休憩室へ運びなさい」

「は、はい!」

ジョエルに抱えられたシュウに続くように、一同は重苦しい足取りでその場を後にした――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ